能の物語を現代の設定へと落とし込みながら、現実世界を超越した能の幽玄さが違和感なく融合する独特の世界観が、演劇的にも最大の魅力となっている三島由紀夫の代表作「近代能楽集」。

今回、全八編の短編戯曲から成る「近代能楽集」から、「源氏物語」を原典に、時代を超えても変わることのない、嫉妬や欲望、情念など、心の内に秘められた闇を生々しくも幻想的に描いた『葵上』、さらに終末観に腰を据えた青年が、いかに大人の世界に復讐するかを軸に、滑稽にも見える両親とのやり取りと、主人公がこの世の終わりを語り、現実的なもの全てに対する敗北を表す最後の台詞が印象的な『弱法師』を連続上演する。

本作が舞台単独初主演となる神宮寺勇太は、『葵上』では美貌の青年・若林光、『弱法師』では戦火で視力を失った二十歳の青年・俊徳という、これまで数々の名優たちが演じてきた役に挑む。
共演の中山美穂は、『葵上』では光のかつての恋人・六条康子を、『弱法師』では俊徳を救おうとする調停委員・桜間級子を演じる。

解禁されたビジュアルでは、神宮寺と中山にまといつく光の軌跡が、『葵上』では生霊、『弱法師』では傲慢さなど、それぞれの作品の根底に流れる“執着心”が表現されている。

東京公演は、11月8日(月)から28日(日)まで東京グローブ座、大阪公演は12月1日(水)から5日(日)まで梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演され、10月17日(日)朝10時よりチケットの一般発売が開始となる。

<あらすじ>
『葵上』
深夜の病院の一室。
若林光は入院する妻・葵の元を訪ねる。看護婦から、真夜中になると見舞いにやってくるブルジョア風の女のことを聞かされる。 光が病室にいると、かつて光と恋仲であった六条康子が現れた。毎晩、葵を苦しめていたのは康子の生霊であった。
康子の生霊は、再び光の愛を取り戻そうと昔の思い出を語り出す。次第に、光は葵のことを忘れそうになるが、葵のうめき声で我に返り、康子を拒絶する。康子の生霊は消えていったが・・・

『弱法師』
晩夏の午後。家庭裁判所の一室。2組の夫婦が、俊徳の親権を争っている。
高安夫妻は俊徳の生みの親である。俊徳が戦火で両親とはぐれ、火で目を焼かれて失明し、物乞いをしていたところを川島夫妻に拾われた。それぞれに権利を主張するも、俊徳はそれを嘲笑し、育ての親は奴隷、生みの親は救いがたい馬鹿だと言い放つ。
平行線をたどる話し合いに業を煮やして、調停委員である桜間級子が俊徳と二人だけで話をすることになり・・・