全世界で総発行部数が800万部を超える夢枕獏の小説『陰陽師』は、陰陽師を生業とする安倍晴明と、その勇逸無二の友である源博雅を中心に展開されるシリーズ作品。
そのシリーズの中で初めて長編で書かれた『陰陽師 生成り姫』を、脚本・マキノノゾミと演出・鈴木裕美がタッグを組み、舞台化となる。

心の奥底に潜む鬼に蝕まれてしまった徳子姫を救い出すために奮闘する晴明と博雅の友情、そして晴明がそっと見守る博雅と徳子姫の切ない恋の行方から目が離せない作品となっている。

製作発表記者会見には、キャストの三宅健、音月桂、林翔太、木場克己、脚本のマキノノゾミ、演出の鈴木裕美、主催の松竹株式会社・山根成之が出席した。

冒頭の挨拶で、安倍晴明を演じる三宅は「今回、お話をいただきまして、安倍晴明はとても色んな方が演じられていて、自分がこの役を演じるっていうお話を聞いた時、とても光栄だったんですけど、同時にプレッシャーでもあるんですが、自分なりに自分にしか出来ない安倍晴明を演じたいと思っております」と意気込む。

物語の鍵を握る徳子姫を演じる音月は、「今まで色々な舞台や映像作品に出演させていただきましたが、陰陽師という世界観には触れたことがなかったので、すごく嬉しい気持ちと同時に、世界各地にいらっしゃる陰陽師ファン方々がイメージされる陰陽師像がきっとあると思いますし、その中でキーパーソンの役をさせていただくことに私もプレッシャーを感じておりますが、皆様のお力をお借りして、素敵な作品を作れるように情熱を持って稽古に臨みたいと思います」と、心境を語る。

林翔太が演じるのは、安倍晴明の唯一無二の友・源博雅。「誰もが知っている作品ですので携われるということに嬉しい気持ちがたくさんあったんですけれども、その中でもやっぱり僕はジャニーズ事務所に入るきっかけとなった三宅健くんと一緒に、ジャニーズの世界から少し離れた外の世界で一緒にお芝居をさせていただけるということが本当に光栄で、この幸せを噛みしめながら千秋楽まで頑張っていきたいと思っております」と、同じ事務所の先輩である三宅への愛を滲ませる。

そして、陰陽師で晴明のライバル・蘆屋道満を演じる木場勝巳は、「だいぶ前になりますが、夢枕獏さんがお書きになった『花歌舞伎徒然草』を漫画家の萩尾望都さんから頂戴しました。その中に圓朝と歌舞伎というところがあって、そこで亡くなった立川談志さんのことが書かれている描写があり、生前個人的に談志さんにお世話になっていたので、そのところを読んで、年甲斐もなく号泣してしまいました」と話し、「そうしましたら事務所から陰陽師のお芝居のオファーがあったと伝えられて、これは運命的だと思いまして、お断りすることは出来ないと思いました」と、出演を決めた経緯を語った。

脚本を担当したマキノノゾミからは、作品について「脚本の4/5ぐらいはほぼ原作通りの展開を致しますが、最後の1/5ぐらいの部分が今回私のオリジナルになっております。原作の生成り姫とは一味違う展開で物語が着地するっていう工夫を凝らしております」とコメントがあり、「ただ、夢枕先生の作品は大変素晴らしくて面白いし深いので、その世界観だけは壊さないつもりで執筆いたしました」と、原作への敬意が伺えた。

さらに、演出の鈴木裕美からは「もしかしたらLEDとかを使った非常に派手な演出を思い浮かべられる方がいらっしゃるかもしれませんし、期待なさる方もいるかと思うんですが、今回は人間の情とかにフォーカスした陰陽師にしたいと思っておりまして、色々な表現を人力でやっていきたいと思っております」と、演出内容が少し明かされた。
安倍晴明と源博雅については「ドラえもんとのび太のような関係性」と語り、「博雅に困ったことが起きて『晴明、大変だ』って言うと、晴明が『しょうがないな』って言ってあげるような、そんな関係性が稽古場で非常に生き生きと息づき始めているところです」と、本番へ向けての稽古に期待が高まっている様子だった。

晴明を演じる三宅は、そんな二人の関係性について「原作に対しての解釈として、とても分かりやすい説明だなと思いました」と理解を深めたようだった。

質疑応答では、まずそれぞれの役柄を聞かれ、三宅は「安倍晴明は頭脳明晰で冷静沈着なんですが、マキノさんの脚本により、冷静沈着な晴明が感情を発露するということがお芝居のキーポイントになっている一つになっています」と、新たな安倍晴明の姿が見られることを示唆。役作りでは、「時代物なので、その平安時代っていう宮中の空気だとか匂いみたいなものをどうやって纏えるかっていうのは、今試行錯誤しているところです」と話す。

「博雅はすごくピュアで、一人の女性を12年以上も思い続けているのがすごく素敵だなと思いますし、道端の草や花にも美しいな、愛しいなと思う部分があるので、そういう心情的な部分も演じつつ、晴明がなぜ博雅のことがそんなに好きなのかという部分もしっかり表現出来たら」と語る林には、「(林の)素のままで行けそうですね」という記者からの言葉があり、「そうですね。まず僕が大好きなので、健くんのことが」とストレートに三宅へ愛を伝える。

そんな林の発言を受け、三宅は「そうやって言っていただけるのは嬉しいですよね。V6のコンサートを見に来て、それでジャニーズ事務所に入りたいって思って入ってきたらしいんですごく嬉しいです」と頬を緩めた。

音月は、「徳子姫はすごくピュアで真っ直ぐで奥ゆかしい姫だと思うんですけれども、届かぬ想いや裏切られてしまったという感情によって自分の気持ちがねじ曲がってしまって、生成り姫として少しずつ復讐の鬼と化していく役どころです」と話し、「ありがたいことに宝塚退団後、色々な国の姫をさせていただいているんですけど、鬼となる姫は今回が初なので、どのように演じていくのが良いかまだまだ手探り状態です」と、苦戦している模様。「でも、本読みをしているとお二人(晴明と博雅)の関係性がどんどん温まっていくのが見えて、そこにどう溶け込んでいこうか楽しみで、今はお稽古しています」と、三宅と林の姿に刺激を受けているよう。

「(蘆屋道満は)じじいなんです」と話し出した木場は、「じじいになると色んなものが無くなっていくんですね。例えば晴明が持っている若さや美しさが無くなって、友も無くなっていって寂しい限りで、孤独の度合いが極端に増していくんです。晴明のことをライバルだって言っているのも自分で、晴明もそう思ってくれているかどうか分かりませんが、(ライバルだと)思ってくれてたら良いなと願っている人だと思っているんです」と役への想いを語る。

先日、三宅が扮する安倍晴明のビジュアルが解禁された際には、その麗しさが話題に。
音月は、その三宅の姿を見て「女性ですけど本当美しさがすごくて妖艶なところが『どうしよう、負けてしまった』って思って、磨かねばならないなと焦りました。本番までに頑張ります」と気合を入れた様子。

三宅の印象を聞かれた木場も、「美しい」と一言。「美しいことだけは妬みます」と語った。

脚本へのこだわりについてマキノは、「一番腐心したところは舞台と映像の違い」とし、「映像だと主役の晴明がアップになるので、あまり動きが無くても良いんですけど、舞台は常に全身が見られるものなので、そこで主役となるためには何か心情の葛藤みたいなものを持ち込まないと難しいなと当初から感じていました」と苦労を明かす。「晴明はとてもクールなところが魅力なんですけど、舞台となるとそこにもう一味無いと。実際に晴明が苦しむところや人間としての弱音を吐くみたいなところを、原作の晴明像とのせめぎ合いですけど、そこをなんとか成立させようとしました」と、今作ならではの安倍晴明像へのこだわりを明かした。

記者から「三宅さんはその苦しみを感じていますか?」と聞かれると、「既に感じてます。裕美さんの演出ってだけで苦しみを感じてます」と話す三宅。

鈴木と三宅は今作が4度目のタッグとなる。既に気心が知れているからこそ、今回の演出について「辛いです!……嘘です(笑)」と冗談を言いながら、「マキノさんが書いてくださった一つ一つを紐解きながら作っていく作業はとても楽しいんですけど、その反面苦しさもあって。でも1ヶ月という期間の中で、皆でマキノさんが書いてくださった『生成り姫』に向き合って、そのことをだけを考えて過ごして、それが血となり肉となり舞台に立てると思っています。……だから辛いです(笑)」と続けた。

今回、『陰陽師 生成り姫』を演出していく中で、「安倍晴明という役では“三宅健さん”というものを少し使えるんじゃないかなっていう。”三宅健”性というか、パーソナリティの部分を役に持ち込んでいける部分が相当あるんじゃないかな、なんてことを話してます」と明かした鈴木。

具体的にどういうことなのか問われると、「あまり大きい声で言っちゃいけないのかもしれないですけど……感じ悪いところあるじゃないですか?」と話す鈴木に、「失礼だな!」という三宅のツッコミが入り、会場が笑いに包まれる。

「表現の仕方が感じ悪かったり、あと、でもすごく人のことをすごく思っているんだけども、物言いがハラハラするようなところがご本人にあって。そういうような、物言いが危ないけどハートは温かいところが使えるなと思った」と、気心知れた鈴木だからこその分析だった。

そのやり取りの間、笑いがこみあげていた音月に、記者から「何か三宅さんの振る舞いで思い当たることが?」の質問が飛ぶと、「初めての本読みとかお稽古に入りたての何日かってすごく緊張するんですよね。すごく緊張感のある中で、三宅さんは一番フラットで居てくださるというか、『わかんないよ!』みたいな……言っちゃいけないなこれは(笑)」「私も裕美さんさんとは何年か前にご一緒していて、結構ドキドキしていたんですけど、その裕美さんにすごく達者な意見を……」と言葉を選びながらも、「座長がそう居てくださると私たちは本当に一気に緊張感が和やかに溶けるので、こんなに自由にのびのびとやって良いんだなって、鍵を解いていただいたような感じがしましたし、お二人の作品に対する愛情とか熱みたいなものを感じたので、毎日この稽古場に来れるのも楽しいし、私も思い切ってチャレンジしようっていう気持ちが溢れて、それを考えていたらにやにやしていました」と、稽古期間を振り返っていた様子。

この発言を受け、「何かご意見はありますか?」と聞かれた三宅は、「もちろん、世間様のパブリックイメージの中に、私が失礼ぶっこいているところもあると思うんですけど、それもすべてエンターテイメントですから!本来の私じゃないですから、そこをお見知りおきをお願いいたします」と、真剣な表情で答える。

「木場先輩は大丈夫でしょうか?」という記者からの声に、「僕はすごく気が小さいんです……。稽古場で時々見ると、三宅くんがガン飛ばしてくるんです……」といった思わぬ暴露が。その言葉に、オフマイクで「飛ばしてない!」と返す三宅に会場内から笑い声が上がる一幕もあった。

最後に、代表して三宅は「こんなご時世ですから、ぜひ見に来てくださいなんてことは軽々しく申し上げられないんですけども、お時間のある方、心に余裕のある方は、僕たちにしかできない陰陽師を見に来ていただけたらなと思っております」とメッセージを送った。

本公演は、2022年2月22日(火)から3月12日(土)まで、東京・新橋演舞場、3月18日(金)から3月24日(木)まで、京都・南座にて上演される。