本作は、1951年にブロードウェイにて初演を迎え、『オクラホマ!』『サウンド・オブ・ミュージック』などで知られる作詞・作曲の名コンビ、リチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタイン二世の代表作としても名高く、1952年に第6回トニー賞作品賞、主演女優賞を含む5部門の栄冠に輝いた。
日本では、ミュージカル黎明期であった1965年に東宝が日本初演(王様:市川染五郎 ※現 二代目松本白鸚 アンナ:越路吹雪)を製作して以来、当代の名優たちによって演じ継がれ、日生劇場での公演は1996年9月以来、28年ぶりの上演となる。

演出は、数々の海外ミュージカルの演出から、演出・脚本・作詞を一手に任い、オリジナルミュージカル、ショーやコンサートなどの幅広いシーンで活躍を続ける小林香。

そして王様役を務めるのは、圧倒的な存在感、色気とチャーミングな魅力、情熱あふれる演技力を併せ持ち、本作がミュージカル初出演となる北村一輝。アンナ役は、元宝塚歌劇団花組トップスターで、退団後も力強い歌声と華麗な表現力で主演舞台が続く中、テレビほか映像でも活躍する明日海りおが演じる。

会見には、北村一輝と明日海りお、演出の小林香が出席。北村と明日海は舞台衣装で登場した。

オファーを受けた時の心境を聞かれ、本作がミュージカル初出演の北村は「私は本当に本当に渋りました。渋りましたというよりも「無理です」と正直お断りするような勢いでずっとお返事をしていたのですが」と明かし、「それには理由がいくつかあり、一つはミュージカルって僕から見ると歌が中心な世界であって、歌手から流れてくる方が多いように見える中で、芝居だけやってきた自分が果たしてそこでやっていけるのかという、歌に対する壁というものがありました。人様の前にでて、そこでお金をいただいてやるに値するのかどうかというところで悩みました」という心境を吐露。しかし、スタッフと話をする中で「昔俳優を始めた頃に、立ち回りやアクション、日舞や声楽など色々勉強していた中で、実は(今作の)プロデューサーの方と声楽で一緒に発表会なんてやったことがあって。その時の声を覚えていただいていて、「絶対できます」という言葉に乗っかってみようかなというのが大きかったです。ただ、その歌も35年ぐらい前の話なので大丈夫かなという不安もありますが、皆さんにびっくりされるほど、きっと頑張れるんじゃないかなと前向きな気持ちでやろうと思っています」と、前向きに考えるようになったと話した。
出演が決まった時、周りの反応については「(これまで王様役を演じた)皆さん顔がはっきりされている方が多いので「ピッタリだね」と。スタッフとかは技術面や体力面を心配してくれて、「終わった時にやってよかったねと言われるように頑張りましょう」みたいな言葉が多いです。ここから良い意見も悪い意見もあると思いますが、全部終わった後にどういう反応になるかは自分自身の行動の答えだと思っているので、できる限りの努力はしたいと思います」と気合を入れた。

明日海は「『王様と私』という作品はとてもクラシカルでミュージカルファンなら誰でも知っている、そしてシャルウィーダンスという楽曲も聞いたことがない人がいないぐらいとてもポピュラーな曲で、そういうものこそ演じる人の持っている魅力というものが問われる作品だと思います。なので、すごく私に務まるのだろうか、大丈夫かなというのはもちろんございました」と不安を語りながら「でも、今回は小林さんが新しく台本を書いて演出してくださって、そして王様は北村さんが演じてくださるということで、新しい『王様と私』が生まれるのではないかと思ってとても楽しみです」と笑顔で語る。

演出の小林は「北村一輝さんと明日海りおさんというお二人と作品を作れるのは喜びでしかないですけれども、それと同時に、東宝の中における『王様と私』の存在の大きさを肌身で感じておりました。このオファーをいただいた時に、本当に身の引き締まる思いと言いますか、喜び以上に大きな使命を帯びたという責任感の方が大きく感じられました」と、大作にプレッシャーを感じていた様子で「とても昔に生まれた作品ですので、それを今の時代にやることへのプレッシャーも同時に感じておりますが、今日このお二人と目を合わせてお話ししたら勇気も湧いてきまして、間も無く稽古も始まりますので、本当にいい作品を作りたいなと思っております」と意気込んだ。

王様役が北村と聞いた感想について明日海は「昔から色んな作品で拝見させていただいておりますが……率直に言います。怒りますか?」と前置きが入り「すごい迫力のありそうな王様になりそうだなと思いました。でもこんなに普段気さくで明るい方だと知らなかったので、怖いかな?って思っていました。でもどうなるかわかりません、稽古が始まったら。怖い!ってなるかもしれません(笑)」と冗談混じりに回答。
すると「僕こそ逆に宝塚のトップの方という、それだけでプレッシャーなんですよ。会った時に怖かったらどうしようと思って。「あなたできるの!?」みたいなことを言われたらと思いながら……なかなかチキンハートなので」と返す北村に、明日海も「私もです」と一言。北村が「でもそこはもうクリアしているというか、色々ハードルがありますが、安心して良いものが作れる仲間だなと思います」と続け、顔を見合わせ微笑む一幕があった。

そして、昨年末撮影された舞台の特報も本日解禁。

撮影時のエピソードを聞かれると、明日海は「昨年末のビジュアル撮影で初めて北村さんにお会いしたんですけど、会う前から色んな現場で「北村さんに会った?」と。香さんにも「北村さんはすごいよ!」と言われていて、何がすごいんだろうな楽しみだなと緊張して行きましたら、本当に撮影中ずっとお優しく、いつもエネルギッシュに、そしてとても自由にどんどん撮影していかれる北村さんの王様の姿を拝見して、これは早く稽古したいなと思いました」と振り返る。「自分自身はこの大きなドレスをどうやって着こなそうとか、カツラはどういう形が似合うんだろうとか、色々その日に間に合わせるのにしっちゃかめっちゃかでしたが、撮影が始まったら楽しい王様と掛け合いのような撮影ができて私はすごく楽しかったんですけど、いかがでしたか?」と隣の北村に問いかける。
「すごく楽しかったですよ!」と返す北村は「ビジュアルを撮るということも大事だったりするんですけど、その作品のことがすごく大事なので。どうしましょうか?とできるだけ意見を言い合って、後悔しないぐらい言い合って、最後の一本と思う感じでやりましょうと。それは(ミュージカル)初挑戦でもありますし、回数関係なく一本にかける思いは、これが人生を変えるぐらいの作品になる、そこまでやりたいねと小林さんとも話して、本気でそう思っていますのでぶつかれるだけぶつかって、お客さまの前で良いものを作れるような空気づくりをしましょうと、熱く語りました」と回顧した。

本格的な稽古はこれから始まるということだが、現時点で役を演じるにあたり取り組んでることはあるのかという質問が。
北村は「返事をしたのが去年の夏ぐらいだったのですが、その時すぐにボイストレーニングを始めさせていただきたいと。最初は他の仕事の兼ね合いもあって週1、2しかできなかったりとかしましたが、それ以外に空いている日は必ずスタジオに行って、もしくはカラオケボックスに一人で行くような男になり、マイクを使わずに譜面を持って、とにかく先生に毎日声を出して筋肉を使うことが大事だと言われたので、本番が終わるまではできるだけの努力だけはしなきゃ行けないなと。他の方たちより経験がないので、できるだけ声を出す練習を使用と、今も毎日行っています」とトレーニングを重ねているとのこと。
さらに、肌の露出も考えられる作品ということで「急に言われても良いように一応覚悟はしています。人様の前に立つものでもありますし、少しでも良いようになることが大事だなと思っているので、本番までもう少し引き締めて頑張ってみようかなと。宝塚のファンの方もきっといらっしゃるじゃないですか。皆さん綺麗なものを見られている方なので、あまりみっともない姿を見せるとドン引きされるのではないかと。こうやって強気で言いながらヒヤヒヤしてるので、ギリギリまでは頑張れるだけ、老体に鞭打ちながら頑張ります」と笑いながら答える。

踊りの経験もある明日海も、「私も北村さんと一緒でお休みの日はカラオケで一人譜面を持って篭っています。私も露出が今までに比べると多いお衣装なので、ちゃんと綺麗に見えるようジムとかピラティスとか通いたいなと思いますし、歌の方も自在に歌えるように、早く香さんの新しい歌詞で練習するのを楽しみにしています」と語る。

ダンスのトレーニングについて聞かれた北村は「よくぞ聞いていただきました」と嬉しそうな顔を見せ、「本格的にはまだですが、ビジュアルの撮影で踊るかもしれないので少し練習しておきましょうと言われて、僕は回るだけだろうなと気軽に考えていたんですよ。まあこれがしんどいんですよ!1回やったら途中で息が切れて、後半は大きく回れないなと思うぐらい大変ですね。さらに衣装を着ると遠心力でもっと重くなると聞きまして……大丈夫なんですかね?」と不安げ。
明日海からは「ビジュアル撮影で一瞬手を取って組ませていただいた時は本当に王様という感じで違和感がなかったので、すごいお稽古されたんだろうなと思いました」との言葉があったが「私もかなり大きなお衣装でぐるぐる回ることになるので、吹っ飛ばされないようにしっかりしがみついていきます」と踊りの面でも準備が必要とのこと。

これまで上演されている『王様と私』は王様は髪を剃ったビジュアルだが、本作では長髪となっている。その意図を問われると「これには賛否両論あると思います。最初に小林さんと話している中で丸坊主の話もありましたが、新しいものを作りたいという大きな理由の一つで、これをやることによって色んな意見をいただくだろうなと思いつつも、逆に言うとハードルが上がるなと。もっと素晴らしいものを見せなきゃいけないと自分の首を絞めるようかもしれませんがさらに士気が上がって、話し合った結果なんですけどもこの頭に落ち着きました」と語る北村。
続けて小林も「ものすごく打ち合わせをしまして。でもこれだけ伝統のあるものをまた新しいバージョンでやるということに向かっていくことなんだなと。一つ一つの打ち合わせを見ながら思いました。俳優の皆さんとディスカッションしながら作っていくのは楽しいことだし、その中で生まれる予期しなかったものもありますので、一つ一つのプロセスが大切だと感じています」と述べた。

新演出について、さらに小林から「私たちは原作を変えることは許されませんので、今回私が演出以外に翻訳と訳詞を担当していることの一つに、翻訳と訳詞の仕方で同じ原作でも伝える時に新しい時代のフィルターを通して訳していくことができると思いまして、そこの部分も自分で担当することになりました。ただ、今も昔も人は変わらないと思いますし、作品の中の古さよりも、この作品がここまで輝き続ける理由の一つに、ものすごく大きな美しいテーマが流れていると感じています。それは王様とアンナという性別や人種、宗教、身分、言語などあらゆる違いがあり正反対の二人が出会って分かり合おうとして、理解し始めて愛が生まれていくこの素晴らしいテーマを今こそ伝えるのにこんなにふさわしい時代もないのではないかと思います。今も世界中のあちこちで分断があり、格差と憎悪が広がっていて、その時代だからこそ、古い価値観も凌駕して美しいテーマを伝えることができるこの作品を上演する意義は大きいと思います」と解説。

その言葉を受け、北村も「価値観を変えるというのは、エンターテイメントを抜きにしても時代の進化はものすごいスピードで変わってきていると思います。演出の中でも変えていかなきゃいけない部分が多々あると思いますし、僕らの捉え方や見てくださる方の捉え方も昔とは違う部分もある中で、新しいものにチャレンジするということが一概に正しいとは言いませんが、日本人の昔から根付いた価値観は時代を変えられない、変えるためには勇気が必要であったりすると思います。今後、エンターテイメントの歴史において勇気を持つ行動というのは一つ大事なことでもあると思うので、時代を変えていく、新しいものを取り入れる演出や考え方は僕はすごく賛成です」と語る。

明日海も「ミュージカルが生まれてから何十年も経っているのに、アンナが持っている精神は決して古く感じられず、最終的に受け入れてくださる王様や周りの人たちが新しいものを受け入れる心を持っているところがこの作品が色褪せない所以だなと思っていて。王様とアンナは国籍も性別も身分も全然違う二人ですが、共通点もいっぱいあるような気がして、二人ともすごく頑固ですし、だから両者譲らないからこそ言い合ったりしているところがあったりして、正反対に見えてとてもウマが合う二人でもあるので、お互いがお互い以外の人に対する考え方は古臭い考えではなく愛された経験があるからこそ次に進める人だからこそ、分かり合えた奇跡の話だと思うので、それを毎回舞台の上で新鮮に描き出すことができたら良いなと思っています」と期待を寄せた。

19世後半のシャム(現タイ)を舞台に、国籍や身分の違う二人が互いの人間性に触れ、心を通わせ尊重していく姿を描いた不朽の名作ミュージカル『王様と私』は、2024年4月9日(火)から30日(火)まで東京・日生劇場、5月4日(土)から8日(水)には大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演される。