原作は、『混沌(カオス)の叫び』三部作で知られるアメリカの作家パトリック・ネスが、シヴォーン・ダウドの遺したメモに自由な発想で肉付けして書いた挿絵(絵:ジム・ケイ)付きの小説で、英国で最も権威ある児童文学賞と言われるカーネギー賞(現:カーネギー作家賞)とその絵に対しての賞であるケイト・グリーナウェイ賞(現:カーネギー画家賞)を同時受賞し、ベストセラーとなる。
2016年には映画化され(邦題「怪物はささやく」)世界的に高い評価を受け、その後 18 年に英国のオールド・ヴィック・シアターで舞台版が初演。19年のローレンス・オリヴィエ賞で「Best Entertainment and Family」(現:Best Family Show)を受賞し、22年にはイギリス・ロンドン、ブリストル、アメリカ・ワシントンと各地で上演され、絶賛を博した。

オリヴィエ賞を受賞した翌年の20年に日本での初演を予定していたが、新型コロナウイルスの影響により上演は断念。4年の時を経て、満を持して英国クリエイティブチームと日本人キャストというワールドワイドな取組みにより、日本初上演を迎える。
演出を務めるのは、オリジナル版(18年)の演出を手掛け、今作が日本での初演出となるイギリスの演出家、サリー・クックソン。その他、確かな実力の英国クリエイティブチームが来日し、観客の想像力を存分にかきたてる美しい<マジックリアリズム>な世界を舞台上に創り出す。

主演を務めるのは、アーティストとしてはもちろん、俳優としてもドラマ・映画・舞台で活躍している佐藤勝利。さらに、山内圭哉、瀬奈じゅん、葛󠄀山信吾そして銀粉蝶と、手練れの俳優陣が勢揃いし、 虚実入り混じる不思議な世界観を、エアリアルやロープワークを多用しながら表現していく。

プレスコール後に行われた初日前会見には佐藤と山内、演出のサリー、原作のパトリックが出席。

主人公である13歳のコナー・オマリーを演じる佐藤は、「『モンスター・コールズ』の製作が決まってからコロナがあり、イギリスのチームが来れない状態になりましたので、止むを得ず、いつできるかなと思いながらその日を待ち望んでいたんですけど約4年が経ちました」と振り返り、「今年の1月の頭から稽古に入ることができて、色々な違いを感じながら、でもその違いがすごく面白さでしたし、チャレンジングなことをさせていただいているなとたくさんのことを学びました」とイギリスのクリエイティブチームから刺激を受けた様子。「僕が一番、こういう違いがあるんだなと思ったのが、スタッフの皆さんもものすごくアーティスト性を重要視しているんじゃないかというのが感じ取れて、一緒に作るのが楽しかったですし、なかなか計画通りにいかないことも多かったと思うんですけど、改めて舞台が芸術の一つなんだなと。なので僕も『モンスター・コールズ』のアートの一部になれるように、一生懸命コナーという役を生きられたらと思いました」と語る。

演出を務めたサリーも、日本とイギリスの稽古について「ものすごくやり方が違って圧倒されました」と話し、「一緒に作る中で異なる文化を共有することを楽しませていただいた」とコメント。

プレスコールで初めて日本版の『モンスター・コールズ』を見た感想を聞かれたパトリックは「鳥肌が立ちました。言葉にならないぐらい感動しました。ものすごくストーリーに引き込まれていきました。演者の皆さんの演技、演出、音楽がそうさせたんだと思います」と太鼓判を押す。

本作で初めてエアリアルに挑戦したモンスター役の山内は「宙に浮いたり、そもそも裸ですしね……罰ゲームみたいで(笑)」と笑いを誘うと佐藤から「モンスターの役ですから!」とツッコミが入る。
「最初にお話をいただいて、イギリスの上演版の映像を送っていただいたので見て、モンスターの登場シーンで止めましたからね。これはあかんと思って。宙に浮いているのはフィジカル的になかなかやなと思って、その先を知らないでおこうと一瞬止めたんですよね」と演出に衝撃を受けたとのこと。「でもエアリアルの稽古も稽古場で非常に丁寧で。
日本でこういうお芝居をすると根性論になってくると思うんです。できないところは毎日やっていこうみたいな。そうじゃなくてすごくスマートに、日にちを必ず開けて、脳が整理するのを待ってくれるんですよね、演出チームの方々が。そういう稽古の仕方が非常に僕らも馴染みやすかったです。最初は不安だったんですけど、すごく合点がいって、合理的で不安なく今日まで来ました」と稽古場での日本とイギリスの違いを語った。

コナーの元に家にモンスターがやってきたように、怖い思いをしたこと、モンスターのように怖く思えたことは?という問いかけには、サニーは「娘が2歳の時はモンスターでした」、パトリックは「ドナルド・トランプがテレビに出るとモンスターだなと」とそれぞれ返答。

そして佐藤は「劇場には(お化けが)出るって言うじゃないですか……」と話し出し、「帝国劇場に立っている時に、見える先輩がいてそういう話を舞台袖でしていたんです。“白い女性がいる時があるよ”“たまに見えるよ”っていうのを聞いて、あんまり信じるタイプではないんですけど、いるんじゃないかと思いながら本番に立ってて、白いベッドに乗ってフライングをしている時にパッと右側を見たら白い女性のような何かが見えた気がしたら、体の右側が動かなくなったりした経験があります」とエピソードが明かされると、山内から「めちゃめちゃ怖い話!ガチのやつやんか!」と驚く声が。

一方、山内も「劇場にはお化けがよくいると言いますけど、良いお化けもいるんですよね。ここの劇場は良いお化けやね~っていうのがあって。PARCOさんがそうで。最初に舞台稽古が始まる前に集まって舞台をウロウロする時に感じますね。気持ちいいなというかどこか守られているなという感じが。各劇場にあります。すごくイヤな気がする劇場の名前はあえて出しませんけど」と含みを持たせながら語る。
すると佐藤から「注釈ですけど帝国劇場は良い劇場です!そう考えちゃって、たまたま僕はそんな体験がありました。だから想像力の中にモンスターがいるのではないかなと」とフォローが入った。

明日の初日に向けて意気込みを聞かれた山内は「キャストが出ずっぱりで、いつもやっているお芝居とは違うアンテナをいっぱい立てて演じなきゃいけない作品なんですね。非常に繊細なところが照明も音響も色々あって、舞台稽古が今日で終わりで明日が初日ですけど、久しぶりにドキドキです。一個狂うとね。なので、本当に……今は早く上着を着たいです(笑)」と自身の格好で笑いを誘いながら「色んなことに気をつけながら、イギリスで丁寧にサリーさん始めチームが作ってきた『モンスター・コールズ』をちゃんと届けたいなと。お客さまにもいっぱい想像力を使っていただきたいので、お客さまと一緒に作りたいなと思います」と熱く語った。

最後に佐藤から「体験したことのない演劇体験ができる作品だと思います。色々な想像力を働かせられるような、ワクワクする作品になっていますし、ものすごく美しい物語で、作品の中にも“物語”という言葉がたくさん出てくるんですけど、見に来てくださる方とまた一つ日本の『モンスター・コールズ』の物語を一緒に作り上げていけたらなと思いますので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います!」とメッセージが送られ、会見を締め括った。

『モンスター・コールズ』は2月10日(土)から3月3日(日)まで東京・PARCO劇場、3月8日(金)から3月17日(日)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演される。

<あらすじ>
コナー・オマリー、13歳。窓からイチイの木が見える家で、母親との二人暮らし。
だが、母親は闘病中で、そのために、コナーとは気の合わないおばあちゃんが、世話に来てくれている。
父親は、アメリカに新しい家族を作って出ていった。学校では、母親の病気がもとで、いじめられている。
唯一コナーを気遣う幼なじみのリリーとも不仲になり、孤立している。
それは、夜中過ぎにやって来た。モンスターがコナーの前に現れ語る。
「これから三つの物語を聞かせる、
私がその三つの物語を語り終えた時、お前が四つ目の物語を私に聞かせるのだ。
そして、それはコナーが隠している真実でなければならない。
お前は真実を語る、そのために、お前は私を呼び出したのだ。」と。
投薬を変えても病状が良くならない母親。ついには、入院することになり、コナーはおばあちゃんの家に預けられる。
時計が12時7分になる。闇の中で待つモンスターが最初の物語を語る。
エスカレートするいじめ、学校の先生からも腫れ物に触るように扱われている。
急きょ、アメリカから帰国する父親。日に日に悪化する母の病状。
時計が12時7分を指すとき、第二、第三の物語が語られる。
そして、コナーは、四つ目の真実の物語を語ることが出来るのだろうか?
12時7分には、どんな意味があるのだろうか?