――上演が決定した際のコメントで「楽しみ」とおっしゃっていましたが、これまで山田(能龍)さんの作品や「山田ジャパン」の舞台はご覧になったことはありましたか?
舞台は観たことないんですよね。山田さんの作品としては『全裸監督』と『CODE-願いの代償-』を、どちらも山田さんが脚本を手掛けているから観ていたとかではなくて、調べたら山田さんの作品でした。『全裸監督』を観た時はもちろん一緒に仕事をするなんて思ってもいなくて。『CODE』を観た時はもう舞台への出演が決まっていたのですがそれも偶然でした。山田さんなんだ、と勝手にご縁を感じて、その時から楽しみでした。

――どのようなところを楽しみにしているんでしょうか?
僕が観た2作品は、ちょっと現実離れしたじゃないですけど、あまり着目されないような世界に特化して書かれていたので、僕に当て書きしてくださる今回の作品はどんな世界観で書かれるんだろうとワクワクしていました。昔から小説を読む時は、現実離れした死後の世界の話だったり、フィクションの物語が多くて、個人的にそういうのに興味があるんです。だから山田さんに惹かれる部分がありました。

――今回の台本を読んだ感想は?
僕は教育学部に通っていたので、叶わなかった夢じゃないですけど、教師という体験していたかもしれない世界観にまずワクワクします。“あだ名禁止”の問題が実際にあるということを僕はそこまで知らなかったので、「僕の知らない世界を描いている山田さん」にちょっとくすぐられるというか。勉強にもなりますし、お客さんにも訴えかけるようなところもあるんじゃないのかと思っています。

――そこを取り上げるんだ、って意外性があると言いますか
“あだ名禁止”は色んな問題があると思いますけど、僕は反対派です。でも周りの友だちに聞いたら「俺の学校そうだったよ」という人もいて。僕らが中学生の頃だから10年ぐらい前なんですけど、実際に“あだ名禁止”の環境の中で育ってきた友だちが周りに結構いるので、これまた興味深いです。あとはやっぱり、台本を読んでいて会話のリズムが楽しいですね。いとうあさこさんはこういうふうに読むのかなとか、色々想像できるようなリズムで書かれているので一人で読んでいても楽しいです。

――教師役は嬉しかったのでは?
嬉しかったですね。ファンの方も教育学部に通っていたことを知っているから、嘘でもお芝居の中でそういう姿を見せれるし、僕も体験できるのが楽しみです。

――教師役は初めてですか?
初めてです。

――教師歴5年というのもリアルですよね
ちょっと新人っぽい感じですね。題材は中学校教師で、僕は実際には小学校の方の勉強をしていたのでちょっと違いますけど、生徒とのかかわりだったり、憧れがあったので楽しみです。

――当て書きということで、事前に山田さんとお会いしましたか?
お会いしたことはなくて、ビジュアル撮影が初めましてでした。でも、『トリリオンゲーム』を見てくださっていて、そのイメージで当て書きしてくださったようです。明るくて活発すぎるところや、暴走しちゃうところがこの作品でも描かれていて。僕が演じる役は、生徒だった時の恩師と一緒に働いている新米教師で、まだ自分の感情を優先してしまうような大人としての振る舞いができないところがあって、それを恩師に「昔からお前は……」みたいなことを言われる関係だったりするんです。

――原さんご自身は教員免許を取っているんですか?
取ってないんですよ(苦笑)。大学一年生の時に1週間くらい小学校に実習に行きました。でも生徒に教えるとかではなくて、教室の後ろから見ていたり、休み時間に一緒に遊んだり、昼食を一緒に食べたぐらいです。四年生の実習となると1、2ヶ月はかかるので、仕事との兼ね合いで諦めちゃったっていう。

――取り直したいとは思うことはありますか?
取っておけばよかったなと思いますね。あそこで取らない選択をしたから今があるのかもしれないですけど、今思い返せば……教師になりたいとかじゃなくて、芸能生活しながらも近しい仕事はできたかもしれないので、持ってるに越したことはなかったですね。

――もし先生になっていたらどんな先生になっていたと思いますか?
いじられ、いじり、友だちではないですけど生徒と距離の近い先生になりたいとはずっと思っていました。それは今では問題になりますからね。

――“あだ名禁止”反対というのはその距離の詰め方を考えてのことですか?
そうですね。僕の体験として、中高の時は先生と距離が近いことが多かったので、それが信頼関係に繋がっていたし、何でも相談できる仲になっていました。先生が皆から愛されていましたね。だからちょっと“あだ名禁止”というのは考えられない世界です。

――ちなみに原さんのあだ名は?
下の名前ですかね、“嘉孝!”って。厳しい先生とか体育会系の先生から。でもそれが嬉しかったです。

――生徒間ではどのように呼び合っていたんですか?
“嘉孝”や“原ちゃん”。地元の人からは“よしくん”って呼ばれたりしました。

――いとうあさこさんとは初共演となります。抱いていた印象や、初めてお会いしてどんな方でしたか?
「イッテQ」ですね!でもビジュアル撮影で初めてお会いした時、当たり前かもしれないですけどバラエティーで見ている姿ではなくて(笑)。すごく謙虚な感じで接してくださって逆に緊張しました。あとプレイヤーでありながら劇団員として裏方の動きもされていて、新鮮でしたね。テレビの方というイメージだったので劇団員としての姿は想像していなかったです。

――いとうあさこさんのコメントに、原さんの印象で「タンクトップ(笑)」と書かれていましたね
知ってくださっていてありがたいですね。『冒険少年』を見てくださっていたみたいで、その印象が強いんじゃないですか?(笑)。あさこさんが僕のことを知ってくれてるとは思ってなかったです。

――お芝居を一緒にするということで、楽しみにしていることは?
バラエティーでの姿を想像して、あさこさんのセリフを(自分の頭の中で)読んでいるところがあるので、本読みや稽古では違ったアプローチで来るかもしれないし、あさこさんのお芝居を見たことがないのでどういうアプローチをするんだろうとか、お芝居の中でセッションをするのが楽しみです。

――ご自身は役に対してどうアプローチしようと考えていますか?
生徒からニックネームで呼ばれているような、距離の近い僕の理想の教師が描かれていて、僕のなりたい姿に近いので楽しみですし、新米教師なので、どうやったら新米っぽく見えるのか、そこは周りの先生と差別化したいです。初の学年主任を任されたということでまだ青っぽさがあって、自分の感情をコントロールできない部分もある。でも生徒からはちょっと信頼を得ていて、地元を愛しているという根本は常に持ちつつ演じていけたらなと思います。

――役作りをする上で参考にしている恩師の方や理想の教師像はありますか?
それこそ中学の先生が僕は想像しやすいです。やっぱり距離が近い先生はいて、その人は体育の教師だったんですけどクラスも担当していて。正面からぶつかってくれる先生は、生徒からしたらちゃんと考えてくれているなとか分かるんです。その人は僕のことを子ども扱いしなかったですね。それがやっぱり嬉しかったから、僕が演じる役もそういう人なんだろうなと今の段階では思っています。

――原さんご自身が先生になった時、何の授業の先生になってたと思いますか?
体育でしょうね!厳しくするのではなくて、体を動かしてやる気とかメンタルを鍛えたいです。中学の時に体育の柔道で、組み手がすごく辛かったんですけど、皆前向きにやっていて、辛い時に踏ん張る大切さみたいなのを学びました。その時の指導の仕方が強制じゃなくて自分からやる気を呼び起こさせていて、それが色んなところに繋がってくる大切な教育だったなと今でも思うので、そういうちょっと暑苦しい先生になりたかったなと。

――そんな原さんから“あだ名禁止”など今の中学生の生活はどう見えますか?
ちょっと窮屈ですよね。あだ名がいじめの原因なのかな?とか、表面上で禁止にしてるだけな感じがあって。“なんで?”を教えたり考えさせるような教育が大切なんだと思います。なんであだ名を禁止にするのかを生徒に伝えないまま、あだ名を禁止すればいじめはなくなるという安易な考えはあまり良くないかなと思います。あだ名で呼ぶのがダメなのではなくて、相手を傷つけるようなあだ名がいけないってだけであって。あだ名で呼ぶメリットが僕個人としてもすごく大きくて、それが信頼関係に繋がっていたので、ちょっと履き違えている感じはあるかなって僕は思います。

――生徒同士の距離も縮まらなくなりそうな感じはあります
今回題材になっているような、人口が少ない地域だと小学生から一緒のメンバーが揃っているわけじゃないですか。それが中学に上がった途端に「○○」って呼んでいたのが「○○さん」って呼ばなきゃいけないのは、ちょっと違和感がありますよね。“なんで?”を教育しないとやらされてるだけになってしまうなと。“あだ名禁止”も根本を考えないとなと思います。

――自分たちで考えさせるような教育ですね
以前何かで見たのですが、ある学校で1ヶ月か2ヶ月校則を無くしたそうなんです。髪型も服装も自由でやりたいようにして、校則というのは何なのかというのを考えさせて。自由な髪型で来たり、でも毎日服装を考えるのは嫌だから制服で来る生徒もいたり。自由で良かったですって言う生徒もいれば、自由すぎて気持ち悪かった、校則はあった方が良いという生徒もいて。自分たちで考えさせるような教育はなるほど、面白いなと思いました。

――ありがとうございます。最後に舞台を楽しみにしてくださっている方へメッセージをお願いします
僕と同じように“あだ名禁止”に着目していなかった人たちも、今こういう問題が実際にあるんだと、身近に感じるきっかけにもなると思います。それを山田さんの脚本で、僕たちキャストの力で面白おかしく表現していきますので、楽しみにしていただければと思います。

取材・文:村松千晶