
本公演では、オーストリアの劇作家アルトゥル・シュニッツラー(1862-1931)が1900年に発行し、当時のウィーン社会にセンセーションを巻き起こした問題作『輪舞』(La Ronde)を「現在」「東京」に翻案し上演される。
台本は、注目の劇団、「範宙遊泳」を主宰し、22年に『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞した山本卓卓。
演出は、プロデュース公演カンパニーKUNIOを主宰し、演出家・舞台美術家として活躍する杉原邦生。2021年の『藪原検校』以来3年ぶりにPARCO劇場に帰ってくる。
出演は髙木雄也と清水くるみ。東京のリアルを生きる“男”と“女”を、髙木が8役、清水が6役と様々な登場人物を演じ分け、10の情事の風景をリレー形式で描いていく。
公演初日を明日に控え、行われたプレスコールでは3シーンを公開し、その後の初日前会見に、髙木、清水、作の山本、演出の杉原が出席した。
明日、初日を迎えるにあたっての意気込みを髙木は「キャスト・スタッフ一丸となって作り上げてきたので、ようやく皆さんにお披露目できるのかというのと、早かったなというドキドキとワクワクのフィフティフィフティ状態なんですけども、自分ができることは100%でやってきたつもりなので早く見ていただけたら嬉しいなと思います」と率直に語る。
清水も「1ヶ月強、稽古してきたんですけど、本当にあっという間でもう初日だ、という気持ちです。でも私たちも舞台稽古をしていて、これはすごく見応えがあるじゃないかな、とこのセットにワクワクしますし、プラスアルファ二人で8役と6役を役やらせていただいて、きっと面白いものになってるんじゃないかなと思うので、皆さんの反応が気になるんですけど、精一杯頑張りたいと思います」と力強くコメント。
山本は「皆の力が合わさって、日本の演劇史に残るような問題作になってるんじゃないかなと客席で見ながら思いました。最高!」と称賛し、杉原は「二人の俳優の魅力が十二分に堪能していただける作品になってると思います。すごく挑戦的な作品なので、お客様にどういう風に受け止めていただけるのかちょっと僕らも想像できてない部分もあるんですけれども、そういう意味も含めて明日の開幕がすごく楽しみだなって思っています」と期待を寄せる。
複数の役を演じる点についての難しさや相手の印象を聞かれ、まず髙木は「8役にチャレンジすることになって、最初は経験がなかったのでどう変えればいいのかとか分からず、声を変えたらいいのか考えてたんですけど、杉原さんが『そういうことは気にしないでちゃんと入り込んでいけばその役に近づいていくから』と初期の段階で言っていただいたので、そこはもう心配せず、自分が思うようにとりあえずその人で生きていて、今になったという感じなんです。8役といっても1役で二人と接することがあるので、倍の役があるなという感覚でやってて、そこが少し大変かなと思っています」と苦労を明かし、「くるみちゃんは何でも言ってくれるので。『あそこ、嫌』とか(笑)。僕は考えるというよりとりあえずその言葉でどうなるかをやっていくタイプなんですけど、くるみちゃんは考えて来てくれるので発した言葉をどう受け止めるかというのは、稽古をやっていて楽しかったです」と良いバランスの様子。
一方の清水は「1つの作品で何役かやったことは経験があるんですけど、6役をしっかり1役1役をちゃんと見せるっていうことはあんまりなかったので、まず切り替えがすごく難しいなと思って。役をやった時に、一瞬違うキャラが出てきて、今何やってるっけ?とか自分が出てきちゃったりとかがあるので、すごく難しいなと思いました。二人芝居なのになんで役の数の差があるのかというのは、楽しみにしていただきたいなと思います」と見どころにも触れ、「髙木さんはすごくフレンドリーな方で、私も基本的に人見知りしない方なんですけど、(髙木さんが)すごく人見知りされないので、逆にちょっと最初人見知りしちゃいました。何でもお互いに言える関係性だなと私は勝手に思っていて、普段は「ここが嫌だ」とか人に言わないんですけど、山本さんが書いたセリフをちょっと変えてたのが嫌だったんです(笑)。ちゃんとそういうコミュニケーションが取れるのがすごくいいなって。すごい人懐っぽい方で、ずっと喋ってらっしゃって、色んな方とコミュニケーションを取ろうとして、その現場の空気感を作ってくださったので、本当に感謝してます」と笑顔を見せた。
そんな二人と稽古をして感じたことを杉原は「二人とも本当に飾り気がなくて素直に稽古に居てくれるというか、髙木くんは本当にこのまんまなんです。芝居をしていても稽古の休憩中でも本当にこのまんまで、シームレスにずっとお芝居と普段を行き来できる稀有な存在です。くるみさんも思っていることを素直に伝えてくれるので、今どこが悩んでいるのか、どういう気持ちで役に挑もうとしてるのかっていうことが直に伝わってくるので、二人と作業していてやりにくいところがなかったので、稽古の初期の段階からこの二人で良かったなって素直に思いました」と語る。
また、稽古を通して思った二人の俳優としての魅力について、山本は「高木さんは、やればやるほど自分で発見していくというような、昨日と違う今日の声の響きだったりを新鮮感じながら、すごい楽しみながら作業してらっしゃるなと思って、そこにすごい感動していて。見れば見るほど髙木さんをもっと見たくないっていうところが本当に魅力的です。清水さんは、ここに行きたいっていうポイントがきっとある気がして、そこに行くためにひたすら行くっていう。掘り下げていくパターンと高みに行くというコントラストが二人の魅力です」と解説。
杉原は「くるみさんは本当に何事にも素直にぶつかっていくタイプの俳優さんで、演出家にも共演者にももちろん作家にもそうですし、そこがすごく信頼できて、この人は直接ぶつかってきてくれる人だっていう信頼感を相手に与えてくれるから、こっちもちゃんと思ったとその場で言えるという、それはすごく魅力だなって思います」と清水の魅力を話し、続けて髙木には「こんな俳優出会ったことないです(笑)」と笑いを誘い、「休憩中に喋ってると、地元も近いから地元の友だちみたいな感じで、そのまんまのテンションで芝居に入って行くからすごいなと。年末にHey!Say!JUMPのライブを見に行ったんですけど、皆ちゃんとかっこよく踊って歌っているんですけど、髙木くんはふとした瞬間にふら~ってその辺を歩いているというか。この感じでドームに立てるなら、PARCO劇場のサイズだったら絶対に自然体で芝居をしてくれるなと、これなら大丈夫だなと思いました」と自然体な姿に太鼓判を押す。
そんな二人からの賛辞を受け、髙木は「嬉しいです。本当に自然体にさせてくれたがお二人なので、これでボコボコやられてたら多分関係が違いました(笑)」、清水は「私は“なんで?なんで?星人”なので、なんでですか?ってすごい聞いちゃったと思うんですけど、でもそれだけ読みごたえのある本でしたし、演出だったので、なんでこういう風にするんですかとか、多分そういうのを聞いてたんだと思います」と嬉しそうに返した。
また、本作のセットは、漢字、ひらがな、カタカナ、英語で“東京”という文字が舞台いっぱいに書かれているのが印象的となっている。
このセットについて、杉原は「ここが東京だ!って言いまくるということ、今は文字の情報が社会に溢れているのでそういうところもイメージできたらとタイポグラフィーを使ったデザインをしました」と説明し、さらに場面転換では様々なセットが舞台上を行き来する様もあり、「文字やドアが付いてるパネルとか、道具が輪舞のように動き踊りながら空間を構成していくような空間にできたらというのが1番のコンセプトです」と語る。
セットの感想を聞かれた清水は「全面が“東京”となっていると、芝居をやっている時の感情も変わってきますし、あとはこれお金かかってますよね?(笑)。多分見ていてワクワクすると思います。あとは一見賑やかだなと思うんですけど、私はちょっと孤独を感じるセットだなとは思っていて。作品が終わって暗転になった瞬間にすごい寂しい気持ちになるんです、いつも。それがやっぱり東京だなっていう。色んな人がいるからこそ関わり合いがすごくあるんですけど、良い意味でも悪い意味でも孤独を感じるのが東京だなっていうのはすごい思っていて。その作品、多分脚本もそうだし、このセットも、それが全部合わさってるなって、本当に素敵なセットだなって思っています」と熱弁。
続いて髙木だが「信じてもらえないと思うんですけど……全く同じでした」と話し出し、会場が爆笑する一幕が。「文字がぶわーってなってる感じが、東京って人がものすごくいて、色んな方がいてっていう、それが詰まってるなっていうのは感じましたね」とコメントした。
最後に、髙木が「見る方の年とか過ごしてきた環境とか今の気持ちとか、もしかしたら見え方が変わってくるのかなと思うんですけど、今の等身大の自分が見たらどう感じるのかというのを大事にしてもらって見てもらえたら嬉しいなと思います。地方もあるのでぜひ皆さん、もしよければ遊びに来てください」と呼びかけ、会見を締めくくった。
PARCO PRODUCE 2024『東京輪舞』は、3月10日(日)から3月28日(木)まで東京・PARCO劇場で上演され、その後福岡、大阪、広島で上演される。