
ユーモアと切なさと残酷さが混じり合ったダークファンタジーを得意とする後藤ひろひとが手掛けてきた作品の中でも、特に大きな笑いと恐怖と感動で観客の心を揺さぶり、その世界に引き込んで怒涛のクライマックスへと誘う『ダブリンの鐘つきカビ人間』。2002年、2005年、2015年と上演を重ね、観客を魅了してきた本作を、ミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』シリーズ、PARCO PRODUCE『粛々と運針』など、ミュージカル、ストレートプレイ、ノンバーバルパフォーマンスまで幅広く演出を手掛け、世界的に注目を集めるウォーリー木下が脚色・演出し、ケルト音楽にも造詣が深く、リリカルな楽曲を手掛けている中村大史による音楽で、初のミュージカル化。
物語の世界の住人で、街に流行った奇妙な病に冒されて心と体の美醜が入れ替わり、心は美しいが誰も近づきたがらないほど醜い容姿となってしまった「カビ人間」役には、Travis Japan・七五三掛龍也。そして、とある山中で霧のために立ち往生し、一夜の宿を求めた洋館で老人が語る昔話に心を奪われるうちに物語の世界に迷い込む「聡」役には、七五三掛と同じくTravis Japanのメンバーである吉澤閑也。
物語の世界の住人で、奇妙な病のせいで、思っていることの反対の言葉しか話せなくなった「おさえ」役には、伊原六花。聡と共に物語の世界に迷い込む「真奈美」役には、舞台を中心に目覚ましい活躍を見せる加藤梨里香。そして、「戦士」役に入野自由、「神父」役にコング桑田、「親衛隊長」役に小松利昌、「天使」役に竹内將人、「市長/老人」役に松尾貴史、「おさえの父(ジジイ)」役に中村梅雀といった手練れの顔ぶれが勢揃いした。
公演初日を翌日に控え、公開ゲネプロ及び取材会が開催され、七五三掛、吉澤、伊原、加藤、松尾、中村、作・後藤、脚色・演出のウォーリーが出席した。
本作で主演を務める七五三掛は「今回初めてTravis Japanのメンバーの閑也と一緒にダブル主演という形でやらさせていただくんですけど、本当に緊張していて、緊張と同時にワクワクしていて明日が楽しみです。カビ人間としてハットの技の難易度が高いので、失敗しないように100%成功できるように頑張りたいなと思っています」と意気込む。
続けて吉澤も「聡はすごく閑也に近いので。性格とかも近いですし、見た目もほぼ閑也みたいな感じで皆さんにいじられたりもあったりして、本当に和やかな雰囲気で稽古をさせてもらって。そして29歳でお芝居にちゃんと打ち込むのが初めてなのですごく緊張しているんですけど、ちゃんと聡になりきれるように……」と話すも、七五三掛から「まだ28じゃない?」と訂正が入り、「29歳に来月なります!いい29歳を迎えられるように頑張ります!」と笑顔で押し切った。
伊原は、「最初に脚本を読んだときにめちゃくちゃ心を掴まれて稽古がすごく楽しみでしたし、実際に稽古が始まって、悩みながらもすごく楽しい日々を過ごせて、そして劇場入りしてからもさらにウォーリーさんの照明だったり色々仕掛けがあるんですけど、また新たな発見が劇場に入ってからもあったので、頼もしい皆さんと一緒にこの素敵な作品をお届けできるのがすごく楽しみです。頑張りたいと思います」と期待を寄せる。
そして加藤は、「お客様がこの作品を見てどんな反応をするんだろうというのが今すごくワクワクしています。真奈美は聡と一緒にこの物語の中に入り込んでいくキャラクターなんですけど、お客様も一緒にどんどん入り込んで行って、最後の結末をどう見届けるのかをぜひ楽しんでいただけたらなと思います。とにかくよく喋る二人なので、その掛け合いも本番で楽しめたらなと思います」と微笑む。
松尾は「この初演が1996年で、その時に下北沢のザ・スズナリで客席で見てまして、小劇場でこんなに壮大な世界が繰り広げられるのかとものすごくイメージの冒険が起きまして。まさかこの名作に自分が呼んでいただけて、ましてや全体のストーリーテラー的な役割を担うようなところで、昔からイメージの中に入っているけど自分がそれをやるとなったらどうしたらいいか分からないというような」と思い入れのある作品に感慨深い様子で「また初めてミュージカル仕立てになったということで要素がすごく多くて。ご覧になって分かるようにどっちを向いているのか分からない回るステージなもんですから。その辺りでオロオロしながら、皿回しを何十枚もやる人みたいなね、出演者全員、あるいはスタッフも全員そんな気持ちで明日の初日に臨むことだと思いますけど、その辺も含めて想像していただけたら楽しいかと思います」とコメント。
そして中村は「すごい奇想天外な設定で、ファニーでキュートでラブリーでショッキングで、だけど実はすごく深い謎がたくさん込められたファンタジックなドラマです。しかもこのステージは本当にびっくりするような仕組みがたくさんあって、だけどなぜか非常にアナログで動いている部分がたくさんあって、一人一人の一瞬の不注意でどんなことになるか分からない、目まぐるしいステージになってます。でも、これでお客さんが喜んでくれるだろうなと思うと、本当にワクワクしております。どうぞご期待ください」と呼びかけた。
初のミュージカル化となり、心境を聞かれた後藤は「驚きました。実は私自身もずっとやってみたいなと思っていたことだったんですけど、ウォーリーくんからぜひやってみたいと言われた時、これは彼に任せるしかないなと思い、安心して任せたので面白いものになっていると思います」と自信をのぞかせ、「私は稽古に参加してたわけでもないので緊張感は全く違うんですけども、こんな素晴らしい劇場で、美しいセットで、美しい衣装で舞台が始まるということはものすごく嬉しいです。30年前に書いた『おさえとカビ人間』という二人のものすごく悲しいストーリーなんですけど、こんなに幸せな二人はいないんだなと思います。楽しい舞台になると思いますのでよろしくお願いします」と心境を語る。
後藤の言葉を受け、脚色・演出を務めたウォーリーは「筋立てがしっかりしていますし、物語の色んな空話的な要素もあれば現実的な要素もあり、登場人物たちのカラフルな群像劇でもあって、ミュージカルに打ってつけだと最初から思っていましたなので、今日も舞台稽古していてミュージカルにしてよかったなと思っております」と手ごたえを感じているようで、稽古を振り返り「充実した稽古でした。劇場に入ってからも色々微調整を重ねて明日の初日に120%が出せると思いますのでぜひ期待しておいてください」とアピール。
改めて作品の話が来た時の心境を聞かれた七五三掛は、「本当に嬉しかったです。お話をいただいた時にこの脚本を読ませていただいて、楽しさだったり怖さ、恐怖という2つのドキドキを感じました。あとはカビ人間を演じさせていただくということで、ビジュアルもそうですけど初めての挑戦だったので、どう演じたらいいかすごく考えながら稽古をしていました。稽古をしていく中でここまでピュアで心が綺麗で真っ直ぐな役を初めてやらせてもらったので、自分の中で新しい扉が開いた感じがしました」と力強く話し、「顔とかも“カビメイク”と言って、メイクさんにもつけてもらっているんですけど、小さい粒を一つずつ自分でもつけているんですね。だから(メイクに)すごく時間がかかって。1時間20分くらいですかね。僕がメイク時間が長いのでずっとそこに居座っているんですけど、隣のメイクの席はどんどん変わっていくっていう」と、ビジュアルに関するエピソードが。
役を演じる上では「カビ人間は本当に見た目とは裏腹に心が綺麗でとにかく真っ直ぐなんですけど、そういった共通する部分をまず自分の中で発見していって、普段この感じの役を演じることがなかったので、稽古中にカビ人間の感情や色んなものをどう自分に落とし込むか、自分ごとにしていくかがすごく時間がかかりました」と苦労を明かし、「でも稽古をしていく中でカビ人間はおさえちゃんとコミュニケーションを取っていく中で成長していったり、色んな発見をしていくんですけど、そういうのを繊細に演じながら徐々にカビ人間が自分の中にスッと入っていく感じがしました」と手ごたえがあったとのこと。
一方、吉澤は本作がミュージカル初出演。「(出演を聞いた時は)本当にびっくりで。僕でいいんですか?って最初にマネージャーさんに言って。お芝居も初めてなので、まず台詞の覚え方も分からないし、どうすればいいんだろうということで、キャストの皆さんもウォーリーさんもアドバイスをくれて、稽古に臨ませていただいたので、吸収することばかりで毎日が本当に刺激的で、過ぎるのも早かったです。僕のメイクは15分くらいです」と、ユーモアも交えながら稽古を振り返る。役作りについては「聡が自分に近かったので、擦り合わせた時に閑也の部分をどんどん薄めて聡にしていくのがすごく難しくて。稽古中にウォーリーさんに『閑也が出てる!』と言われることもあって、どんどん薄めていって聡にしていくのがすごく大変だったなと思いますし、一つ一つの動きや仕草に理由をつけたりというのはお芝居をやってて楽しいところだと思うので、そこもすごく大変だったんですけど、楽しかったです」と語った。
“しめしず”と呼ばれている七五三掛と吉澤だが、今回の共演について七五三掛は「この舞台では普段グループで見せているのとはまた違った“しめしず”になってくるのかなと。新たな“しめしず”が見れると思います」と期待を寄せた。
物語では二組のラブストーリーも注目となっているが、まず「カビ人間」と「おさえ」について。
伊原は七五三掛の印象を「七五三掛さんはすごく品があって、“七五三掛さん”って感じの方なのかなと思っていたんですけど、意外と“七五三掛!”って感じです」とポーズとイントネーションで表現するも、七五三掛から「詳しく言うと?」と聞かれ、「男らしいというか結構ストイックで、自分でももちろん考えてくるし、二人のシーンのところは本当に細かく話し合いながら、歌もそうですし、一緒に意見を交換し合いながら作り上げていけたので、本当に信頼できる素敵な方だなという印象です」と補足。「カビ人間の真っ直ぐさに、おさえとしても変わっていく部分があるので、そういうところは引っ張っていただきながら稽古ができたので、初日が始まってまたどんどん進化していけたらなと思っています」と意欲を見せる。
どういったところが男らしいのか聞かれた伊原は「物おじしないというか、自分のペースがあるので、稽古で出落ちしてもこれが正解ですみたいな感じでできちゃったり」と答え、七五三掛は「変にマイペースなんだと思います」と微笑んだ。
対して、七五三掛から見た伊原は「伊原さんはとても元気で、常に笑顔なイメージがあります。稽古場でもずっと笑顔で居てくださりますし、その伊原さんの周りに常に誰かがいるというか、輪の中心にいる印象を受けました」と語る。
一方、「聡」と「真奈美」を演じた吉澤と加藤。
加藤が「最初はお互い人見知りなので、どうやって真奈美と聡の距離を詰めたらいいのかというのをなかなか苦戦したなと……」と振り返ると、吉澤も「申し訳ない……」と恐縮する場面が。
しかし加藤が「いや!私もそうなんですけど!日々二人で成長していったという感じがあって、稽古とは別室でたくさんセリフ合わせをしたり歌を合わせたりという時間を過ごす中で、真奈美と聡の関係性もどんどん築けていったかなと思います」と、稽古でのエピソードを語る。
吉澤も「梨里香ちゃんがすごい引っ張ってくれるので、成長させていただいて感謝してます」と感謝を伝えた。
稽古場での様子を聞かれた吉澤は「稽古場でしめと喋っているイメージがなくて。シーンも別が多いので、こっちが喋りかけないと集中しすぎて喋りかけてこないんで。で、喋りかけても全然返答がない時があるのでそれを六花ちゃんと梨里香ちゃんと、皆で崩しに行ってたんですけどなかなかそれも気づいてなくて……」と答えるも、七五三掛は「崩しにかかられてたの?」ときょとんとし、伊原と加藤は「そんなつもりないです!」とツッコミが入る一幕があり、吉澤が「しめがちょっと、悪い言い方ですけど猫被ってるというか(笑)、ちょっと外行きの顔で稽古してるなって感じたんですよ!同じTravis Japanのメンバーとして、(七五三掛が)緊張しているからちょっとそれを崩したいなって想いで稽古していました」と真意を明かした。
そして、七五三掛は作中で様々なハット技を繰り出しており、「カビ人間の唯一の友だちがハットなんですけど、本当の友だちのように扱っていて。だからハットの先生が結構難易度の高いハット技を教えに来てくださって、カビ人間が日常的にハットを使っているように見せるまでにしていくのに2週間ちょいかかりました。家にこの帽子を持ち帰って、野球でいう素振りみたいに、回すやつとかを1日50回やるというのを決めてやっていたんです。最初は全然できなかったのに徐々にできるようになってきて。だからハットを稽古前に触ったり、練習すると自然とカビ人間のスイッチが入るようになって、僕にとって大切なアイテムです」と熱く語る。
さらに、ハットの技以外にも七五三掛はとあることに挑戦しており、「ウォーリーさんとお話ししていく中で、僕たちの先輩の(KinKi Kidsの)堂本光一さんがやられている伝統の技・階段落ちを今回やらせてもらうことになって、そこも見どころですね。先輩の階段落ちの姿を映像で見て勉強したり、とにかく難しかったです」と明かした。
会見の最後には、吉澤が「本当に、本当にすごく良い作品で、毎回稽古で泣きそうになるぐらい感動するシーンがあったり、楽しい、面白いシーンがあるので、舞台をあまり見ないよって方でもすごくのめり込める作品だと思うので、ぜひ楽しんでいただけたらなと思います」、七五三掛が「この作品は普段自分達が生活している世界とは全く違う異世界に連れて行ってくれる作品だと思います。ケルト音楽と共にこのミュージカル『ダブリンの鐘つきカビ人間』の魅力にどっぷり浸かっていただけたら良いなと思っています」とメッセージを送り、締めくくった。
ミュージカル『ダブリンの鐘つきカビ人間』は、7月3日(水)から10日(水)まで東京国際フォーラム ホールC、7月20日(土)から29日(月)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演される。