作・演出を務めるのは、福原充則。2019年に上演された短編作品『小渕と韮沢』を自ら書き直し、岡山のとある街を起点に甘酸っぱいだけでは終わらない青春を描く。
主人公を演じるのは、今作が外部舞台初出演にして初単独主演となるHiHi Jets作間龍斗。そしてヒロイン役に桜井日奈子、さらに若林時英、中野周平(蛙亭)ら、若手を中心に実力のある俳優陣が集結し、青春の残酷なリアルを描くオリジナル青春群像劇となっている。

公演開幕に先駆け囲み取材が行われ、作間龍斗、桜井日奈子が出席。

本作が初の単独主演ということについて作間は「単独主演もそうなんですけど、演劇自体そこまで経験がなかったので、どう稽古を進めていって、今からもどう本番が進んでいくのかもまだ分からない状況の中で主演というので、すごく嬉しくもあったんですけど、プレッシャーの方が大きかったのかなという」と心境を語りながら、「桜井さんもそうですけど他のキャストの方も、福原さんもスタッフさんも皆優しく、すごく丁寧に教えてくださったので緊張感というのは程よく解けながら本番はしっかりできるかなという状況です」と笑顔を見せる。

「座長らしくしているつもりはないですね。しなきゃというのもそこまでないかなと。もう正直に、初めてなのでよろしくお願いします、というスタンスで行こうかなというので、ちょっと足を引っ張ってしまうこともあると思うんですけど、(座長という)名前だけいただいているいただいている感じですかね」と控えめ。
そんな作間の姿を桜井は「とても頼もしいです。自分では座長らしくしていないとおっしゃっていますが全然そんなことなくて。緊張をあまりしないみたいなんですけど、すごいです。私はもう震えてます。本当にダメです」と話し、今緊張しているか聞かれた作間は「分からないです。5分前になったらとてつもなく震え始めるかもしれないですけど。いつも緊張しないタイプで。でも程よくはしているので、ちゃんとやるべきことはやりつつ、冷静に見ながら楽しみたいなという感じです」と意気込んだ。

作間が演じる小渕は、高校時代は映画部に所属している設定となるが、その役について「小渕は監督を基本やっているんですけど、僕も映画は好きなので、昔の映画を知るきっかけとかになりました。作品名や監督の名前がいっぱい出てくるのでどういう作品なのか調べたりはしました。きっかけがないので、こうやって昔の作品を探る機会を与えてくださって、今後の人生の知識になりました」と振り返る。今後作間自身が映画を撮る可能性について聞かれると、「いや、ここで言及するのはかなり危ない気がします(笑)」と笑顔を見せながら「でも、そういう興味も湧くような機会ではあったので、そういう機会があれば、っていう感じはしますね」とコメント。

事務所の先輩などから何かアドバイスはあったのかという質問には、「びっくりするほど、何もなかったです(笑)。お会いする機会がなかったというのもそうなんですけど、福原さんという作品の中心になる方がいらっしゃるので、色んな方のアドバイスを受けるというよりかは、福原さんが作りたいものに僕もフォーカスを当てるべきだなと思ったので、この座組みだけに集中する機会にしました。だから、他の舞台でどうしているかとかは全然分かっていないんですけど、ひとまずこの舞台をやり切るぞって気持ちでやっています」と作品に集中していたことを話す。

また、本作は岡山県が舞台となっており、登場人物たちが岡山弁を話すシーンも多く登場する。
岡山県出身の桜井は「お芝居で岡山弁を喋るのは初めてです」と嬉しそうにしながら「蛙亭の中野さんも岡山の方なので、二人でキャストの方言指導というか、こういうイントネーションだよって指導しながら稽古をやっていたんですけど、皆岡山弁は喋りやすいって言っていて。岡山弁は語尾が大体なまるので、イントネーションがあまり上下しないというか。皆『楽勝だぜ!』って」と稽古での様子を明かすと、作間も「確かにそうなんです。標準語プラスちょっと方言、みたいな感じだったので。『ハートオブダークネス“じゃが”』みたいな。ハートオブダークネスまではいつも喋ってる言葉なんですけど、語尾だけ“じゃが”とか“じゃろ”に変わるだけなので。でもたまにイントネーションも違う難しい言葉が入ってきたりするので、そういうところはお二人に助けられながら、指導していただいておりました」とコメント。

方言指導も担っていた桜井から見た、岡山弁を話す作間について「耳がすごく良いですよね。稽古初日の日に、方言を直前まで聞いていたという話を聞いてて、本読みの時に完璧に近いぐらい喋れていたから、耳も良いし頭も良いんだなって感じでした」と大絶賛。その言葉に作間は「今でも喋りながら合ってるかなって思いながらやってしまうこともあったりするんですけど、でも周りにネイティブの方がいてくださると、自分のセリフじゃなくても盗めるものがあるので、それは他のキャストの方も盗んでいるところがあると思います。かなり引っ張っていってもらってます」と頼りにしている様子だった。

稽古中の雰囲気については「楽しかったですね。男子チーム、女子チームみたいな感じで分かれていたんですけど、時代背景もあるので、男子チームはより今よりも男子高校生っぽい感じで。仲が良くて楽しんでいたりとか、作品中も楽しんでいるので、すごく若返るような気持ちでした」としみじみと振り返る作間に、「若いんだよ!本当に落ち着いていらっしゃるから勘違いしちゃうんですけど、若いんですよね」とツッコミを入れる一幕も。

“酸っぱい青春群像劇”とも言われる本作だが、桜井は「このお話は高校とその4年後の時間軸を行ったり来たりするお話で、高校生から大学なり就職なり、大人にならないといけないタイミングって強制的に来るじゃないですか。誰しもその時間を通ってきて今があるわけで、そういう自分にとってのターニングポイントだったり、環境が変わって心が忙しないタイミングってすごい大変だったと思うんですよ。自分の思い描いていた未来じゃなくて折り合いをつけないといけなかったり。そういうモヤモヤしたりどこにもぶつけようのない怒りを抱えていたり、折り合いをつけてきた思い出や記憶というか、大変だったことって忘れてしまうじゃないですか。でも私はこの作品をきっかけに、自分のこの時代ってどれぐらい大変だったかなと思い出すきっかけになっていて。だから見てくださる方にも、自分の大変だった時間、今思えばもはや愛おしかったり良い思い出になっているものを思い出してもらえるきっかけになったらなと思います」と呼びかける。

作間も「色んな職種の方がいて、これから職業を探す人がいて、色んな夢を抱えている人がいると思うんですけど、どんな人にも共通して色んな弊害があったり生きづらさみたいなのがあってなかなか夢に辿り着けないとか、辿り着いてもそれが果たして幸せなのか分からないみたいなことってあったりすると思っていて。それが自分だけじゃなくて大なり小なり他の人にもあるということが、僕もこの舞台を通してすごく知れて安心できたので、ちょっと辛い現実を見るような気もしますけど、それがかえって今後の人生において安心感になるのかなって思います」と語る。

今の夢を聞かれた作間は「僕は本当に先のことをあまり考えられないので、この舞台が無事終われば良いなぐらいです」と期待を寄せる。

最後に、桜井は「間違いなく見て良かったと思ってもらえるような作品になると思っています。直前までブラッシュアップし続けておりました。キャストも気合十分で挑んでいきます」、作間は「来てくださる方にはもちろん楽しかったという思いを伝えられたら良いと思っていますし、何より僕らが精一杯楽しみながら良いものをお届けする気持ちでいっぱいです。最後まで怪我のないように走り切りますので、どうぞよろしくお願いします」とメッセージを送り、取材会を締めくくった。

ニッポン放送開局70周年記念公演『138億年未満』をは11月23日(土・祝)より12月8日(日)まで東京・本多劇場、12月12日(木)より12月16日(月)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演される。

文:村松千晶