現代演劇の女方として燦然とその名を刻む篠井英介
2023年には、イキウメ『人魂を届けに』と、ケムリ研究室『眠くなっちゃった』の女方を演じた2作品で紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞し、唯一無二の稀有な存在として40年もの間、第一線で活躍を続けている。
その篠井にとって『欲望という名の電車』は、必然ともいうべき運命的な出逢いの作品だった。中学生の頃に戯曲を読み衝撃を受け、のちに杉村春子氏演じるブランチを観て強烈に魅かれた、今もなお愛し焦がれている作品。自分の本来のからだ・性に甘えることを許さず、様式と形式を武器に、女方として現代演劇をサバイブしてきた篠井にとって、『欲望という名の電車』は人生を賭けて挑み続ける、ライフワークとなる作品である。

今まで篠井英介は、2001年、2003年、2007年と3回ブランチ役を演じている。
しかし実際は、1992年に初演を迎えられるはずでした。アメリカサイドに上演許可も取りいよいよ稽古開始というタイミングで、当時の著作権管理者から「歌舞伎でもないのになぜブランチ役が女方なのか」と公演中止要請がなされ、それを覆す時間と術がなく上演することは不可能となった。
そこから9年の長きにわたり粘り強く交渉を続け、2001年に念願の上演に漕ぎつくことができ、【女方篠井英介=ブランチ・デュボア】が世界で初めて誕生したのだ。
今回「これで(欲望を)成仏させたい」と最後の思いで挑んだ2007年の再々演から19年の時を経て、篠井が4度目のブランチ役に身を投じる。演出は、篠井が様々なアプローチで「女」を表現するユニット『3軒茶屋婦人会』でも多数タッグを組んできたG2が手掛け、テネシー・ウィリアムズの詩的な情緒を損なわず、微妙な息遣いを活かしながら、自ら翻訳して“現代に生きている日本語”による新訳での上演となる。

白い蛾のように強い光を求めて地図1枚を頼りに電車を乗り継ぎ、ようやく辿り着いた“天国”で待ち受ける剥き出しの“現実”。
居場所を探し求める魂はどこへ行くのか…。
さらに深みを増した【篠井ブランチ】が再び甦り、哀しくも美しい物語を紡ぐ。

出演者続報、配役、チケット情報などは後日発表となる。

<ストーリー>
アメリカ南部、ルイジアナ州ニューオリンズ。
南部の名家出身のステラは、ポーランドからの移民である夫スタンリー・コワルスキーと結婚し、貧しくも幸せに暮らしている。
そこへ姉のブランチ・デュボアが突然訪ねてくる。
デュボア家はフランス人が先祖の富裕な家柄だったが、ブランチは続いた親族の死をあげつらい、ついには家屋敷を手放したことを告げる。
疲弊しきった様子のブランチ。ステラは姉を想って自分たちとの同居を勧め、三人の奇妙な共同生活が始まった。
粗暴で直情的なスタンリーと、上品ぶった淑女気取りのブランチは暮らしのあらゆる点でぶつかり合う。破産したと言いながら、現実味のない言動で周囲を振り回すブランチを、スタンリーは怪しみ、彼女の過去や周辺を探り始める。
一方のブランチは、スタンリーの同僚ミッチとの出会いに、新たな希望を見出しつつあった。
束の間の平穏。
だが、小さな貸家での暮らしは軋み始め、ブランチの誕生日に決定的な亀裂となる出来事が起きてしまう。
行き場を失ったブランチがたどり着くのは……。

【主演:篠井英介 コメント】
「はっ?これは高校生向きやない。それに女役をお前がやるなんておかしいやろ!」
と演劇部の顧問の先生に言われたのは高校2年のとき。
T・ウィリアムズの1幕劇を文化祭でやろうとしたとき、意を決して「女主人公を演じたいのだけと…」と私が伝えたときの反応でした。いまから50年前、なんと半世紀も前のことです。そのときの先生の驚いたようなちょっと苦笑いした顔が今も時々よぎります。
時代は移ろい、昨今ジェンダーレスは当たり前になりました。
皆さん見事に女形として女性役を軽々演じられる今、つまり周りはライバルだらけになりました。
トホホ、やっとここまできたのに…です。
で、ここは一つ、老女方の意気地をお見せして世を去りたいと思ったのです。女形ではなく女方として。
いや、正直に告白します。私はこの作品がこの上もなく大好きで、このブランチという役を演じている時、 無上の、生きてる実感があるのです。
いざ、ご高覧お願いいたします。