原作は上野瞭氏の『ひげよ、さらば』。1983年に第23回日本児童文学者協会賞を受賞、1984年から1985年にかけてNHKで人形劇が放送された人気作で、物語は記憶をなくした猫「ヨゴロウザ」がとある峠で野良の隻眼の猫「片目」と出会うところから始まる。そこから始まる愛と裏切りの物語を、猫たちを擬人化して描き出している。

脚本・演出を手掛けるのは、物語の名手とも言われる蓬莱竜太。近年は舞台だけでなく映像作品において監督を務めるなど表現の幅を広げている蓬莱が描きだす、このドラマティックな物語を音楽で彩るのは、映画・ドラマ・舞台・CMなどの作曲・音楽監督を務め、国内外において数々の賞を受賞し、大河ドラマ『どうする家康』も手掛けている稲本響。

出演には、2年ぶりの舞台出演PARCO劇場で初主演を務める中島裕翔、さらに、柄本時生、音月桂、忍成修吾、石田佳央、一ノ瀬ワタル、屋比久知奈、中村梅雀という個性豊かな面々が苦難と喜びに満ちた物語を届ける。

公開ゲネプロ前に行われた初日前会見には、中島裕翔、柄本時生、音月桂、忍成修吾、石田佳央、一ノ瀬ワタル、屋比久知奈、中村梅雀、脚本・演出の蓬莱竜太が出席した。

公演初日を翌日に控える中、今の心境について蓬莱は「今日初めてゲネを通すのでとてもワクワクしてるし、どうなることやらという気持ちで臨ませていただいております。早くお客さんの前でこの芝居を観ていただくというのがすごく僕たちの力になっていくのかなと思っていますのでそれを楽しみにしてます」と期待を寄せた。

中島は「いよいよだなっていうのと期待感と緊張感といったところなんですけど、蓬莱さんを始め、すごく安心してできる座組で、和気あいあいとしていてチームワークは既にもう出来上がっているので、何があっても大丈夫だろうな、身を任せてやりたいなと。すごく楽しみですね」と笑顔を見せる。

続けて柄本は「とても緊張しております」と話すと、周りから「本当に?」と疑いの声が。「嘘はつかないよ!意外と緊張しいで。初日、緊張すると思うんです。だから一生懸命頑張ってやれたらいいなと思っております」とコメント。

音月は「いよいよという感じで、初日が明けてから舞台ってどんどんお客様の反応も感じながら育っていくものだと思うので、今は自分のできることをとにかくして、客様のリアクションを楽しみながらできるといいなと思ってます。裕翔君が和気あいあいとしてるって言ってたんですけど、稽古場でどんどんチャレンジしたりとか、アスリートのように高みを目指す方ばかりだったので、私もそこに便乗して、色んな発見をしながらできたらいいなと思っています」と意欲を高めている様子。

忍足は「稽古入ってから本当にあっという間という感覚でもう初日かって。でも舞台を通すたびにすごく熱量が上がっていくので、劇場に入って場当たりして、(会見後の)ゲネでまた通すので、さらに熱が上がるんだろうなと思って自分自身すごく楽しみにしてます」と語った。

石田は「ど緊張しています」と真顔で話すと「一番見えない!」と声が上がる。「ヒットマンみたいな格好をさせていただいて、一言も噛めないような役なので。蓬莱さんが素晴らしい本を書いてくださって、満を持して感がものすごく強いので、本当に噛めないしミスれないし……そんなことしたら取り返せないみたいな感じで、ど緊張しております。頑張ります」と気合を入れた。

一ノ瀬は「あの俺…猫好きですから!」というアピールから始まり、「今回は野良猫と野良犬の話なんですけど、もう野良猫って大変やなっていうのがあって。俺はこの作品で少しでも二本足、人間が少しでも猫とか犬とかに優しい世界になればいなと思って頑張りたいと思っています!」と熱く宣言した。

屋比久は「本当に素晴らしい皆さんと素敵なものを作り上げてきたと思うので、それを皆さんが見てどう感じるのか私自身とても楽しみです。お客様の反応を楽しみながら精一杯頑張りたいです」と述べる。

中村は「ものすごい運動量の作品で、皆本当にアスリートっぽく頑張れる人たちですごいなと。僕はほぼ彼らの2倍生きてるんで、だんだんキツくなってきたなと思いつつ……」と苦笑いを浮かべるも、中島から「キツくなってきてあの俊敏さですか?すごいですよ!」という言葉が。
「お客様が入ってそのパワーに助けられてどこまで乗っかっていけるか、あとは怪我のないように、いい千秋楽を迎えられたらいいなと思っています」と話した。

今作は、猫たちが擬人化されている物語ということで、それぞれの役の性格や特徴、キャラクターについての質問が。

中島が演じるのは記憶を無くした猫の「ヨゴロウザ」
「記憶を無くしていて自分が何者なのか、何になりたいのかも分からず模索していく中、野良猫の世界で様々な野良猫に翻弄されていく役で。その中で自分とは何かということをずっと探し続けているんですけど、一見、記憶を無くしていてしっかりしてそうなんですけど、所々洞察力が鋭いところがあったり、その鋭さが野良猫たちを助ける一面もあったりしてっていう。何者でもない真っ白な状態で始まるので、30歳を迎えた自分がもう一回ちょっと若い気持ちに戻れることがすごく楽しいと思いますし、この役で何か見つけられるものがあると思っています。三毛猫です」と期待を膨らませる。

隻眼のアウトローで、孤立しつつも皆から一目置かれている「片目」役の柄本は、「あまり本音を言わないというか、隠している過去があって、それをあまり皆の前ではなるべく出さないで、ただずっとそれを抱えていて。それでいて猫たちの社会というものに対して何かの疑問を持っていて、人間の孤独というものに対して想いが強い役をやらせていただいています」と語る。

音月が演じる「学者猫」は「名の通り知識の豊富な、ちょっと頭でっかちなところもあると思いますけれどもすごく芯のある強い女性のイメージを最初は受けました。でも演じていくうちに、その中に母性本能だったり丸みのある女性らしさもあるような気がして、私自身あまり思ったことを素直にズバズバと、自分の意見を曲げずに言い切ることが苦手なので、この猫を演じながら、自分も成長できたらいいなと。あと、今は女性がどんどん手をあげていく時代だと思うんですけど、すごく共感していただけるような気がするんですね。なので、色々な女性の方を味方につけて頑張りたいと思います!」と力強くアピール。

忍足が演じるのは「オトシダネ」という猫で、「とても血筋にこだわりがある、血統をアイデンティティとしている猫です。でも追い詰められると少し逃げ癖があるのかなって自分が演じていると思ったりしました。あとは餌を取る能力が優れているようです」と語る。

この中で唯一の犬役で「ナキワスレ」を演じる石田は「ざっくり言うと猫に恐れられている犬です。なので獰猛さや戦闘に対するプライドみたいなのを持ちながら、戦うことだけが自分の生き方だと思っている犬なんですけど、でも僕は実はものすごく愛を欲している犬なんじゃないかなと思いながら演じています」と自身の解釈を明かした。

一ノ瀬が演じる「黒ひげ」は「身体が大きい猫ですね。この中では一番力が強い猫だと思っているんですけど、皆にマウンティングを取ろうとするけど実は仲間想いなところもある猫だなと思ったりして」と語りながら、「アンサンブルの女の子に、このナナツカマツカの猫を一匹保護したとしたらどの猫を保護するんですか?って聞いたら『私、黒ひげです』って言ってたんです!」という急な報告に「何の話!?」と騒然とする周りのキャスト陣。
「ちょっと話ずれました?俺はそういう黒ひげを目指そうっていう」とあっけらかんと続けた一ノ瀬に、中島が「さすがムードメーカー!」と声をかける一幕が。

「星からきた猫」の屋比久は「この猫は一番掴みどころがないなと思います。一番自由だし、のらりくらりとしてるんですけど、ある意味もしかしたら自分のスタンスとか、一番ブレないところがあるのかなと。だからとても面白い猫だなと思いますし、私自身その掴みどころのなさを大事にしたいです」と役への思いを明かす。

中村は「くずれ猫」という役どころで「若い世代の台頭や世の中の変化についていけなくて、現実逃避からマタタビをやりすぎて、朝から晩まで管を巻いているような昭和のおっさんみたいな役です。だけど昔は芯のある生き方を皆していたのに今の奴らは…と思って嘆きつつ、早く死にたいと思いつつ、何かを求めていたところに記憶喪失のヨゴロウザがきて、ちょっと希望を持っちゃったりして……みたいな猫です」と語った。

今作を舞台化するきっかけについて問われた蓬莱は「この児童文学は僕も子どもの頃にすごくワクワクして読んだ思い出のある作品なんですけど、ワクワクだけではなくちょっと怖いというか、猫の姿を借りながら人間社会を描いているとも言える作品で、幼心に感じた怖さみたいなものがずっと僕の中にはあって。これが大人になって今この作品をやってみると、猫の世界の中でも、猫と犬でも、ずっと終わらない争いを続けているという作品性が、現代社会とも通ずるのかなという気持ちもありましたし、猫を人間の姿の人たちが演じるというのは演劇的な面白さにも繋がるのかなということがありまして。この普遍のテーマと演劇の可能性みたいなものを合わせると面白いということは常々思っていまして、今回この作品を選ばせていただきました」という思い入れが。

また、音楽を担当する稲本にどのようにオーダーをしたのかという質問には「少し遠いところから見ているような音楽って言うんですかね。今回月が象徴的にシーンをずっと見守ってくれているんですけど、例えばその月からの目線であったり、風であったり、超然とした遠さからの音楽で、ピアノを中心に展開していくんですけど、シンプルな音と、その中でも情感のある音であったり冷たい音であったり、世界の音を流してもらうような感じでオーダーしましたし、見事にお応えいただいたと思っています」と述べた。

最後にお客様へ向けてメッセージ。
蓬莱は「中島くんもさっき言ったみたいに、記憶を無くして、いわゆるキャンバスの無地のところから個性のある猫たちと化学反応を起こして色んな色に染まって、最後に自分の色を見つけてく変化をする中島くんもとても見どころかなと思いますし、各々の猫たちなりの生き方っていうのがこの作品を面白くしてくれると思うので、そういうところを楽しみに観てくださったらいいなと思います」とコメント。

中島は「まずこのPARCO劇場開場50周年記念シリーズということで、こんな素晴らしい節目にこういう素晴らしいストーリー、キャスト、スタッフに囲まれて恵まれて舞台に立てるってことは本当に自分にとって光栄なことですし、この作品がその猫の設定を変えて人間ドラマを描いていく面白さだったり、そこから演劇の面白さだったり、色んなエンタメ性が詰まっている、未だかつて見たことないような舞台になると思うので楽しみにしていてほしいなと思いますし、本当にあの千秋楽まで最後まで無事に頑張りたいですし、観にきてくださる方や応援してくださる方、そしてこの座組みのために一生懸命やりたいなと思います」と気合をみせ、会見を締め括った。

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ひげよ、さらば』は、 2023年9月9日(土)から30日(土)まで東京・PARCO劇場にて、その後10月4日(水)から9日(月・祝)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演される。