――芸能界のお仕事に興味を持ったきっかけとは?
きっかけというと、自分でやりたくて始めた人が多いと思うんですけれど、僕はそうではなくて、芸能界に入るまでは普通の仕事に就くことを考えていました。僕はJUNONスーパーボーイ・コンテスト出身なんですが、いわゆる他薦という形で母親が応募したんです。よく聞く話だと思うんですけれど…それが真実なんです(笑)。ちょうど高校3年生で受験しようと思っていた時期にグランプリをいただきました。どっちの道に進むかってことを考えている時に、芸能の道というのはなかなか踏み込める場所ではないな、と思いました。それに上京しようという時期に東日本大震災があったことも転機になりました。どっちの道を選ぶか迷っていた僕は、震災によって色々価値観が変わりました。だからこそこっちの道で頑張れば、その分喜んでくれる人もいるし、そういう人たちのためにも、この仕事をやりたいと感じるようになりました。実際に今の仕事に興味を持ったのは、その辺りからですね。
――ご家族の応援もあったんですね。今回のNYバレエ団『グランディーバ』主演抜擢も喜ばれたのでは?
そうですね、決定は家族にすぐ報告しました。「NYの女装バレエ団『グランディーバ』の公演に出ることになったよ!」って言ったら、「女装?バレエ?どういうこと?!」みたいな感じでした。僕自身もどういう事態なのかよく分かっていなかったんですけど、初めは家族もよく分からなかったみたいです。僕自身これまでバレエも何もやったことがなかったんです。でも家族も、「NYに行ってレッスンして、日本で公演するのっていいんじゃないの。大きなチャンスだね!なかなかできる経験じゃないし、頑張ってみたら?」と言ってくれました。そういえば、友達とかにはまだあんまり言ってないので、これからびっくりされるかもしれませんね!
――ポスターをご覧になったお友達が上遠野さんの出演に驚く…というような?
そうですね、そうなってほしいです。まあ、あれを見て僕だって分かるかどうかはまた別ですが(笑)。

――日本でのレッスンはいかがでしたか?
ダンスなどの経験も全くなかったんですが、姫路に『グランディーバ』で大分前から活躍されている瀬川哲司さんという先生がいらっしゃって、その方にマンツーマンで一週間バレエを教えてもらいました。またレッスンの度に準備運動がてら筋トレをしています。バレエで使うのは他で使う筋肉とはちょっと違うというか、気張ってするトレーニングというよりも、内側を支える筋肉を養う感じです。僕の役柄は人をリフトしたりするので、腕力が必要と言われて、そういう部分も自分で鍛えていました。
――男性をリフトするのはハードですね…!公演では、どんな役を演じられるのでしょうか?
そうですね、演目としては『白鳥の湖』と『パキータ』、あと『コーダ』の3曲をひとつの舞台でやります。未定な部分もありますが、『白鳥の湖』では王子、『コーダ』では主人公の海賊の従者を演じます。
――ポスターではプリマドンナのような衣装も着ていらっしゃいますね。
その他の役についてはネタバレになってしまうので公演を楽しみにしていただければ…(笑)。でも女装するシーンもあります、ということだけお伝えしておきます。
――実際に衣装を着てみた印象はいかがでしたか?
うーん、あの衣装ですか!あれ、結構面白いですよ。バレエの衣装をチュチュって呼ぶんですが、その下にタイツを履いて…タイツの下はあれなんですね!Tバックみたいなサポーターを履かないといけなくて。そういう衣装は初めてだったので、何て言うんですかね…すごくスースーしたけど、でも自分のそういう衣装着た姿を見ていると面白かったです(笑)。メイクもそうですが、こういう自分もいるんだって思うと新鮮で、なんか楽しかったです。
――難しい部分や、特に力を入れて取り組みたいものはありますか?
女性役の方と組んでする技を「パ・ド・ドゥ」という部分などはできるようになってきましたが、本当に基礎の部分っていうのが難しいです。バレエって10年とか20年かけて身体の動かし方から全部自分に浸透させるらしいんですよ。それを今回は2か月くらいでやらなければいけないので、やっぱりそこの部分は、どうしても未熟になってしまうんですよね。本当にきれいに見えるようにするには時間がかかるみたいで、ちょっと苦悩しているところでもあります。今回僕が演じる役も王子なので、歩き姿などを本当にきれいに格好よく見せないといけないかなと思って頑張っています。

――公演の中で上遠野さんが「男性ならでは」と思う部分を教えてください。
現地でのレッスン前ですが以前の公演などを見た印象としては、通常のバレエにも共通する繊細さや美しさでしょうか。バレエに対する価値観は一緒で、一つ一つの動きがとても丁寧で細かいんです。男性ならでは!と思うのはやっぱり、全体を通してパワフルなところです。ましてや『グランディーバ』はコメディーチックで色んなところにジョークがあって笑えますし、全部が力強いんですよね。だから迫力がすごいです!圧倒されます!でも所々に散りばめられたジョークのお陰でリラックスして見られます。
――バレエを見るのが初めてという方でも楽しめそうですね。
僕なんてまさにそうでしたが、初めての方でも構えることなく見ることができて普通に笑えるようなバレエです。動きだけで面白いっていうのは、すごいですよね!
――いよいよNYでのレッスンも始まりますね!
グランディーバの方々とは一緒の舞台に立つので意思の疎通が必要になる場面もあるし、現地で親交を深めてきたいです。英語で話すのはちょっと不安なんですけれど、飛び込んで行くしかないですよね!身振り手振り何でもいいから、とにかく伝えて受け取って、ということができるようになりたいと思います。
――現地で楽しみにされていることは?
まったく違う文化に触れるということで食事も楽しみです。それに、せっかくNYへ行くので空いた時間には本場のミュージカル、ブロードウェイなどを見てみたいなあと思います。自分でもバレエの舞台に立ちますし、役者をやらせていただいている身としては本場のものを見てみたいです。