――ドラマ『滅相も無い』が放送中ですが、上白石さん、森田さんのそれぞれ演じられた役柄について教えてください
上白石萌歌(以下、上白石):松岡という役を演じました。松岡は自分の生き方とか、生きる上で働くこと社会に対して自分がどうあるかということ、自分の心地よい在り方をすごく模索しているような人物で。最初は結構壮絶なシーンというか、極限状態からどうやったら自分としての豊かさみたいなものを求めていけるのかを見つけていくような役どころです。

森田想(以下、森田):青山という役で、キャッチコピーは“帰国生”と書いてあって幼少期をイギリスで過ごして、日本に来て生活した後に穴に入ることを決意して、今回の別荘での集会に参加するようにはなるんですけれど。結構内面で考えることが多かった役というか、見られ方であったり、生活する上でどういうふうに自分を出していきたいか、でもそれが出せなかったり自分の言いたいことが言えなかったり言い方にも悩んだりとか。人とのかかわり、特に母親とのかかわりについて悩んでいる部分をフィーチャーして描いていただいて、会合とかでもすごく喋ったりはせず、自分の中で構築したかかわり方で人と接していくような役だったなと思います。

――完成披露トークイベントで上白石さんは念願の加藤作品とおっしゃっていましたが、本作に出演が決まった感想はいかがでしたか?
上白石:私は加藤さんのお芝居を初めて観たのが『誰にも知られず死ぬ朝』で、いつの作品でしたっけ……。

加藤拓也(以下、加藤):コロナ前の2020年で、ちょうど千秋楽が終わった次の日に演劇を全部止めてくださいみたいになって。

上白石:その頃か……。埼玉の彩の国さいたま芸術劇場で、その時の魅せ方がすごく面白くて、舞台をお客さんが取り囲むという不思議な構図で隙が無いんですよね。余白はあるんですけど隙が無い空間で、あんな風にお芝居を全身に浴びた経験が初めてで衝撃を受けて、私は日記を書いているんですけど、その日記に感想を書いたのを覚えていて。いつか自分も何らかの形で加藤さんにお目にかかりたいなと思っていたので、今回お会いできてすごく嬉しいです。
脚本をもらった時のずっしり感は忘れられなくて、これが加藤さんの言葉なのかっていう初めての衝撃と、今回はオムニバスドラマなので一人一人どう魅せたいかということがあって、その中で自分はどういうことを伝えたいのかを本読みの時に確認したりしました。でも、どんな映像になるのか現場に行ってみなきゃ分からない状態でクランクインをしたので、結構初日はびくびくと過ごしていました。唯一、全員が集合できる日が序盤にあったので、初めてのことがすごく新鮮で、刺激的な日々でした。

森田:私もすごく新鮮でしたし難しいですし……本当に難しいんですよね。正解を見つけ出そうとするのも野暮に感じますしどこが良かったっていうふうに聞くのも、自分で考えるのもすごく野暮で、萌歌が言う「隙がないお芝居」というのを象徴していると思っていて。見る側としても演じる側としても、監督本人がそうさせているわけじゃないんですけど勝手に背筋が伸びてしまうというか、良い意味でいつも試されている気はするので、勝手に緊張して、勝手にやる気が出る分には、すごく良い緊張感のある現場だと今回は特に思いました。

――加藤さんから見た上白石さん、森田さんのお二人の印象は?
上白石・森田:聞きたいね……。

加藤:あんまりそういう話したことないもんね。でももりここ(森田さん)は演出する作品としては2回目で、映像で2回やらせてもらって、喋り言葉が普段喋っている言語感覚とすごく近いからか、喋りやすいのかなとか思っているし、それはでも萌歌ちゃんも一緒かな。もちろん二人とも他の作品で見たこともあったから、自分と言語感覚は近い人と一緒にやれるといいなってあるんですよね、普段から。そういう意味ではぴったりだったなと思います。

――現場でのお二人の姿はどうでしたか?
加藤:もりこことか久しぶりに一緒にやって。2年ぶりか?しかもクランクインがもりここだったんですよ。

森田:あ、もりここって私です。すみません。言うの忘れてた!(笑)

加藤:初日で全体的にもちょっと手探りで緊張感が走る中やっていたんですけど、楽しそうにやってくれて良かったです。マインドが結構強いので、そういう環境でも楽しんでくれてたんだったら良いなと思ってやっていました。萌歌ちゃんは最後の方で。

――上白石さんはスタジオ撮影の初日はあまり寝られてなかったとか
上白石:すごい極限状態から始まる役で、過労で精神的にグラグラしている役だったので普通に寝ちゃいけない気がして、2時間ぐらい浅めにソファーとか床で寝るようにしたら、加藤さんに「いや、寝たら?」って言われたっていう。

加藤:「寝た方が健康だから」って。そんなこともありましたね。

――上白石さん、森田さんは役を演じる上で難しかったところや苦戦したところはありましたか?
上白石:終始バクバクしていて、モノローグと実際の会話の切り替えが結構はっきりしている作品なので、これを今誰に言ってるのかとか、自分に言ってる言葉なのかもしれないし、バーベキューの相手に言ってる言葉かもしれないし、モノローグとして言ってるのかもしれないしという、ベクトルを自分でちゃんと分かっていないとすごく難しかったので、言葉の感覚はすごく難しかったですね。

森田:モノローグを言っている独白は、演出上カメラ目線で言うようにしていたので、そこの切り替えというのは、話している相手に喋ってたのにカメラに向かなきゃいけないみたいなのが、かっこつけるわけじゃないんだけど、カメラを見るっていうことがすごい重い作業で。

上白石:なかなかないよね、カメラ目線ってお芝居してると。

森田:だから、脚本を読んだ時点でこれは絶対にカメラ目線だなと思って、すごくのしかかってきたのを私も覚えています。あとは、個人的にはバレエをやっている役だったので、実際のバレエをしている風景を撮っているシーンというより、それ以外のシーンでバレエをやっていた人の姿勢とかになれているだろうかという見え方は、少し不安というか意識していました。

――この作品だからこその面白さや醍醐味はどう感じていますか?
上白石:加藤拓也さん節が全開なところが1ファンとしてすごく嬉しかったです。私も舞台をやったり映像をやったりしている人間で、どちらも好きだし、怖いし、楽しいので、どちらものエッセンスを現場でも完成したものを見ても感じられたので、早く目撃してほしいなっていう気持ちになりました。

森田:演じる側にとってはどの瞬間も楽しかったんじゃないかなと思っていて。なかなかここまで嬉しい条件が揃うことがないので、ちょっと張り切りがちな空気ではあったんですけど。それこそ、解禁した後に加藤さんがコメントで言っていた映画的と舞台的な融合みたいなものは、自分の中でも撮影時に思っておきながら、決めつけることはなく、良い意味で現場やキャストさん、監督やスタジオキャストの皆との空気に流されながら作った感じが、スタジオという狭い空間でしか起きなかったのかなと思うので、そこが面白い部分でしたし、しっかり映像として映っているんじゃないかなと思います。

――加藤監督がタイトル『滅相も無い』に込められた想いや、オムニバス作品ということで年齢層もジェンダーも幅広い方が出演していますが、クローズアップする順番の決め方に意図はあるのでしょうか?
加藤:結構踏み込んだモチーフの解説になっちゃうことなので、そこはどこまで触れていいんだろうっていうのをちょっと思いつつ、台本の方には最初にディレクターズノートではないですけど、俳優たちにはなんでこうなっているんだろうみたいな話をするための解説を付けていたりしていて。その辺も含めて、お楽しみいただければなっていう感じではあります。すみません。いい質問だと思います。ドラマの革新的な部分なので、今おっしゃってもらったことはドラマの核の部分からどんどん派生していって決めたことなので、僕から説明しちゃうとそういうふうにしか見えなくなっちゃうぐらいのコアな質問をしていただいたので、ありがとうございます!

――本作の見どころを教えてください
森田:年齢層だったり性別も同じ比率じゃなかったりして様々な話が展開されていくドラマで、30分だけど1時間半見たぐらいの気持ちに私はなったというか、すごく濃密ですし、必ずしも強く受け取ってほしいという風に圧をかけるわけではないんですけれども、手放しで見たとしても何か引っかかる部分が起きるような、本当に面白いドラマだと思うので楽しみに見ていただけたらと思います。

上白石:このドラマはいわゆるオムニバスドラマで、 1人1話ごと、それぞれ8つの苦しみとか些細な悩みから、色んな大きさや形のそれぞれの葛藤があるんですけど、多分ご覧になる方は、自分はこの人だなって絶対に重なる瞬間があると思うので、見ている方も主人公になれるようなドラマだと感じています。私は結構深夜にテレビをつけちゃって、そのままドラマに見入っちゃうことがよくあるので、深い時間にこの作品を見られるっていうのはすごく贅沢だなと思うので、春の長い夜のお供にしていただけたらと思います。

加藤:8人のすごく個人的なお話なんですね。なので、その個人的なお話を楽しんでもらえたらなと思っています。

撮影:秋葉巧