「HERO」「アンフェア」などの大ヒット作を次々と生みだし、小説家・劇作家・演出家・シナリオライターの肩書を持ち、日本脚本家連盟会員、劇団秦組主宰、OFFICE BLUE代表を務める等、幅広いフィールドと絶大な支持を持つ秦建日子が、23年に発表した小説『Change the World』(河出書房新社刊)を秦自らが脚本を書き下ろし、「アンフェア」のタイトルでおなじみの『刑事・雪平夏見』シリーズ、『トムラウシ』と過去に何度もタッグを組んでいるAsk主催により、最速で舞台化を果たす。

本作は、『サイレント・トーキョー』というタイトルで映画化もされ話題となった『And so this is Xmas』の続編で、三部作構成の二作目となる。とある大事件が起きた『And so this is Xmas』で描かれた世界から二年後の東京。すでに二年前の大惨事を忘れたかのような日々を送る人々と、それに怒りをもおぼえる二年前の事件の担当刑事たちが、新たな事件に巻き込まれる様を描く。既に三作目も執筆が始まっており、本公演の開幕には、三部作が揃って劇場に並んでいる予定となる。

作品の雰囲気を一足先に伝えるべく取材会が行われ、主人公のベテラン刑事・世田志乃夫を演じる松岡は「僕は今年53になる年で、20代、30代の頃みたいに、いつかのために何でもかんでもチャレンジしてやるぞ!という気持ちはもうとっくに失せてまして、自分の人生として活動を考え出す頃なんですけど。そこにおいて今回の『Change the World』に参加するというのは、これぞ松岡充の代表作になる!と思ってやらないと、僕の人生にとっては意味がないなと思っています。なので、すごく気合が入っております」と力強くコメント。

世田のかつての相棒・泉大輝を演じる辰巳は「僕自身演劇というものが大好きでここまでもたくさんの役柄を演じてきたんですけども、今回『Change the World』で泉大輝を演じられることをすごく誇りに思いますし、個人的な話なんですが、映画『サイレント・トーキョー』(『And so this is Xmas』原作の映画作品)で仲良しの役者、勝地涼くんが同じ役を演じてまして、勝手にライバル心を燃やしています。すごいキャストの中で今稽古をやっていて、まだ短い時間ですが色んな方々からたくさんの刺激をもらいながら芝居をしていますし、演出の橋本さん、そして秦さんの本を大切に、泉大輝としてその役で生きる時間を精一杯楽しみたいと思います」と意気込む。

世田と新たにバディを組むこととなる元警視庁サイバー班の奇抜すぎる女性刑事・天羽史(あもうふみ)を演じる剛力は、「こんな身なりですが、ちゃんと刑事です」と奇抜な髪色に触れながら、「私も最初こうなりますって言われた時にすごく衝撃を受けました。ただ、真面目な話で人に何かを訴える作品の中でこういうキャラクターがいるというのは1つ大事なポイントになってくるんだろうなっていうのはすごい感じます。正直まだ役は掴みきれていないです。今年32歳になるのですが、25歳の女の子の役なので、その若さや真っ直ぐな姿をどういう風に表現しようかなとも思います。なかなか話題にしにくい作品、内容ではありますが、エンターテイメントを通してきちんと伝えて、他人事じゃないということを届けられたらいいなと。この素晴らしいキャスト、スタッフのメンバーで素晴らしい作品にできたらいいなと思います。秦さんの大ファンなので、このキャラクターを演じられることにすごく喜びを感じておりますし、秦さんを唸らせられるように頑張りたいと思います」と気合を見せる。

原作・脚本を担当する秦は「元々第一作が池袋の100人ぐらいの劇場で始まって、それが小説になり映画になり、そして今回こんなに素晴らしいキャストと共にサンシャイン劇場という素晴らしい劇場で公演が行われること本当に嬉しく思っております。小説を書くのは孤独な作業なんですけれど、それを書いたことによって、その作品を信じ、たくさんの人に集まっていただいて、色んな化学反応が起きること、本当に心より幸せに思っております。参加してくださったキャストの方には松岡さんはじめ、本当に心から感謝しております」と感謝を伝えた。

出演が決まった時の心境について聞かれると、松岡は「オファーをお誘いいただいた時、まずプロデューサーさんと秦先生と演出家の方とお会いして意向を聞きたいと思ったんです。なぜ僕が今回『Change the World』で世田さんをやるのかを一番お伺いしたかった」と、まずは自身にオファーが来た経緯を知りたかったとのこと。「お話を聞いていく内に色んな嬉しいことを言っていただけて。僕はボーカリストなのでミュージカルのお話はよくありますが、ストレート(の舞台)ってそんなにないんです。でも、そのストレートで屋台骨として選んでいただいたことの理由で一番心に響いたのは、その時僕はSOPHIAとして復活してここから30周年なんですけど、一番のシンボルとなる曲を創ったんですね。『あなたが毎日直面している 世界の憂鬱』という長いタイトルの曲なんですが。この曲を秦先生が聞いてくださって、『Change the World』が伝えたいことと全く一緒のことを言っていると、そのクリエイターである松岡充が俳優としてここに立ってくれたら嬉しいと言っていただいて、僕の舵が動いて。SOPHIA30周年のアニバーサリーの活動があるので正直今年から来年にかけて舞台を控えたいということをマネジメントとも話をしていたんですけど、先生のその一言でSOPHIAも肯定していただけてる、松岡充の世界観も肯定していただけてる、あとは僕が俳優として期待に応えるだけだと」と出演に至ったことを明かす。

さらに辰己も秦作品には思い入れがあるようで「小学生からこの世界にいて、中学生ぐらいでお芝居の仕事を初めてやった時に、ものすごくお芝居をやりたいという気持ちが強くなりました。当時はお芝居の仕事にチャレンジする機会が少なかった中で、いつかのためにと思ってたくさん舞台を観劇していた時期に、秦さんの『Pain』という作品を下北沢で拝見しました。その日、外がゲリラ豪雨のような形で急に雨が降ってきたんですけど、作品の終盤で信じられないぐらい大きな雷が鳴って、僕は演出の音響だと思っていたんです。でも後々聞いたらそれは演出ではなく、たまたまシーンとしているすごく良い場面でバコーン!と(雷が)落ちて、次が衝撃的なセリフだったんです。ドラマ、映画では感じられない、演劇ってやっぱり生のものだとすごく衝撃を受けた作品で、その時からずっと秦さんの名前を見るたびに、いつか絶対出てやる、秦組に参加してやるという強い気持ちがあったので、今回作品に参加できることが決まった時は、まず自分の長年の目標を達成できた達成感が。俺、ここまできたぞ、芝居でちゃんと呼ばれるようになったんだという自覚がまた芽生えてすごく気合が入りました。出演が決まった時に役者としての階段をもう1つ上がれるんじゃないかなと自分の中でのハードルを上げて臨もうと思いました」と熱弁。

続けて剛力も「秦さんの作品とお話をいただいて、二つ返事で出ますって答えました。昨年は映画でご一緒させていただいたんですけど(『女子大小路の名探偵』)、その前からもちろん存じ上げていましたし、去年に引き続きこんなにすぐにまたご一緒できるなんてという喜びが本当に強くて。私も秦さんの舞台を何度か拝見していますが、演劇で挑戦するには秦さんの作品って本当に難しいんです。映像だと表現できるところが、舞台になるとどういうふうにそれを表現するんだろうとか、台本を読んだ時にそこは全然想像がつかなくて楽しみだったり、そういうワクワク感が役者としても一つ成長になるだろうなと感じていて、緊張ももちろんありますけど、どちらかというとここからどんな形になっていくのか楽しみです」と期待を寄せる。

三人からの言葉を受け、秦は「最初に松岡さんにお目にかかった時は、一度ご本人とあってお話ししませんかとプロデューサーからご連絡をいただいて、その時はまだお受けいただいたわけではないと言われていて、すごく緊張しながら新宿まで行ったのをよく覚えています。松岡さんはずっと作品の内容のお話をされていて、本もしっかり読み込んでくださってこの作品の言いたいこととか裏側にあることとか、それが松岡さんが描かれている楽曲と共鳴しあっているのが嬉しかったというか。内容の話で議論し合える、切磋琢磨できることが非常に嬉しいなと思いましたし、お会いして2時間ぐらいお話しした時にこれはきっと受けてもらえるだろうと僕は勝手に思って、ウキウキして帰ったのが昨日のことのようです」と松岡と対面した時のことを振り返る。さらに「辰巳さんが僕の舞台を以前から見てくれていたり、剛力さんも中目黒の小劇場までわざわざ見にきてくださったり、そういうことがこの作品に繋がってるんだと思うと、これまで小さい劇場でもコツコツと頑張ってきてよかったなと思います。この三人と出会えて本当に幸せです」と笑顔を見せた。

刑事という自身の役柄について松岡は「刑事ものって結構あるじゃないですか。でもそれって僕らが勝手に描いているテレビドラマとかの世界の刑事のスタイルで、本当の刑事なんて知らないわけですよ。だから僕の中の刑事の概念を壊す世田でありたいなというのは思っています。リアリティを持った、皆は見たことないけど実はそういう刑事がいるんだよと。どんどん実直で真面目な刑事が相棒の天羽によって変わっていくんですけど、僕にとっても模索する楽しみがあります」と、構想を巡らせている様子。

そんな松岡演じる世田に影響を与える存在となる天羽を、剛力は「良い意味で今までと違う刑事というか見た目からしてもそうなんですけどこれってエンターテイメントだからこそなり得る見た目で、そういう概念とかもこうじゃなきゃいけないというのもどんどん薄れていく時代でもあるので、二人のバディがどうできあがっていくのかがすごく楽しみです」とコメント。

辰巳は「世田さんの元相棒ということで、描かれていない部分も色々共有して、長い時間を一緒に過ごしたという関係性が横に立った時に感じられるような心持ちをしっかり作れるようにしたいなという部分がすごくあります。この作品の2年前に起こった渋谷のテロ事件で何を思い、何を考えて泉はここにいるのか、そしてその先どういう人生を歩みたいのか、刑事としてどう生きていきたいのかもしっかり持ちながら演じたいなと思っています」とバックグラウンドも丁寧に演じていく様子。

『And so this is Xmas』『Change the World』と続く三部作の完結編『Across the Universe』の執筆活動中に本作のキャスティングが決まっていたと明かす秦は、「僕は師匠がつかこうへい先生で、『本は役者に書かせてもらうんだ』『良い役者がいたら作家の手は勝手に動くんだ』というのが師匠の教えだったんですけど本当にその通りで。三作目でも松岡さんだ、辰巳くんだ、剛力さんだという感じで、脳内で勝手にキャラクターが動いてくれてそのまま完結編の最終シーンまで突き進むことができたので、珍しく小説を書いているのに孤独ではなかったという、今回はそういう意味でもすごく幸せだなと思っております」と振り返り「三作目もできたらいいなっていう……」と小さく呟くと、辰巳が「今のは大きめに書いていただいて!」とアピールし、松岡が「決定です!まず『Change the World』がこのキャストで映画化します!その次に三作目が決まりました!」と力強く後押しする一幕が。

公演初日を約1か月後に控え、稽古場の雰囲気を聞かれると松岡は「もう必死です。自分の出はけがどこなのか、セリフはなんなのか、それを覚えるのに必死です。なんでこんなにキャストがいっぱいいるんだって思いません?このご時世、できるだけ人数減らして一人何役もやってアクティブに動ける方が良いって普通思うじゃないですか。でもこれだけの人数の役者がいる意味というのが見ていただいたら分かると思うんです。絶対に必要なんです。これでも足りないぐらい。まだ稽古5日目ぐらいですが、もうその時点ですごくわかりました。このカンパニーの人たちはアンサンブルが一人もいない、皆がそれぞれの役をちゃんと生きていて、経験値と理解力、応用する力、表現する力がないとできない。そんな力を持った人たちがこれだけ集まって、えげつないです」とカンパニーの魅力を存分に語る。

さらに辰己が「僕は稽古場に駄菓子屋を作るのが好きで、駄菓子を1万3000円分ぐらい買ったんですけど3日でほぼ無いぐらい」と駄菓子が大人気の様子で、「今までのカンパニーでダントツ減るのが早いです。特に剛力さんが台本片手にうまい棒を取った時がすごい嬉しかったんですよ!差し入れて良かったと思って!駄菓子買い足さないとな……それぐらい甘いものを必要としている現場です」と糖分を欲する稽古場のよう。

剛力は「本当に皆さんやることが多いのでメモしたりしてるんですけど、その数分後には頭の中に入っていて、じゃあ最後にちょっと流れでやりますってなった時も皆さんほぼ完璧で吸収がすごく早くて。1やったら10できるみたいな。私も頑張って皆さんについていっています。できあがった時の壮大さってどんな感じになるんだろうとすごく楽しみで、客席からみたいなって思うぐらい、表現の仕方とか勉強になっています」とキャスト陣の対応力の凄さに圧倒されていた。

最後に、公演を楽しみにしているお客様へメッセージ。
秦は、「演劇は当たり前ですけれど、やっぱり生で見ていただくのが1番魅力が伝わるものだと思います。10年経っても20年経っても、あの劇場であの作品をキャストと一緒に時間を共有したなっていう思いがずっと残るような作品を作っていきたいなと思ってきましたし、今回すごく良いご縁に恵まれて、そういう作品が生まれるんじゃないかとワクワクしております。なので、実際に劇場まで足をお運びいただくのは大変だとは思いますけれど、ぜひ目撃しに来ていただけたら嬉しいなと思っております」と呼びかける。

剛力は「この作品は、見に来ていただいた皆様に感じていただいて作品が出来あがるというのを感じていて、多分毎日違う感じ方になるんじゃないかなと思います。それこそ舞台の魅力で、多分1回見ても2回見ても、色んなキャラクターの視点から見て、感じ方っていうのも変わってくると思います。 本当に考え方を変えさせられる作品になったらいいなと思いますし、私自身も舞台を見るのがすごく好きなので、直接見てその場でしか味わえない興奮や共有している空気を感じてもらえるように私たちも頑張ります」とコメント。

そして辰巳は「演劇って1回と同じことはできないものだと思いますし、誰かが変われば必ず周りもどんどん変わっていく、それが演劇だと思います。劇場で感じてもらえることがたくさんある作品だと思いますし、『Change the World』の中で起こる事件のことについて考えた時に、果たして自分は被害者なのか、もしかしたら自分が加害者なのか。最後に見終わった時に必ず皆さんの中で『Change the World』という作品のタイトルの意味がどんとのしかかってくると思いますので、僕ら刑事はとにかくその事件に真剣に立ち向かいますし、登場人物皆が熱い思いを持ってステージに立ちますので、ぜひ劇場で一緒に事件解決していただきたいなと思います」と語る。

最後に松岡から「まず本当に名作だなと。作品としてこれは絶対一人でも多くの人に届けるべきだと掻き立てられた作品だったんです。1968年に作られた映画『2001年宇宙の旅』でスタンリー・キューブリックが人類の未来、成れの果てを想像して書いて世界的な名作になりましたけど、あの頃はまだ肌感として自分たちの生活と映画の中の世界が繋がらなかったと思うんです。それでもあれだけの名作として語り継がれる作品になった。今、この『Change the World』で秦先生が書いているメッセージは、現実を生きる僕らに絶対に必要なメッセージだと思うので、ご覧になられた方にはそれが伝わるだろうなと思っております」と話し、続けて「舞台のテーマソング『あなたが毎日直面している 世界の憂鬱』という曲なんですけど、僕らの現実の世界では戦争が未だに起こっていたり、自然災害に見舞われたり色んな問題がある中、重くのしかかっている雲を少しでも取り払ったり、その上の青空を想像させるのがエンタメの役割だと思って書きました。それがこの舞台でも表現できるのではないかなと思っております」と楽曲に込めた想いも明かし、取材会を締めくくった。

舞台『Change the World』は、2024年6月8日(土)から16日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて全11公演上演される。