主人公である登山家、ジョー・シンプソン本人が1988年に執筆した小説『Touching the Void』(邦題「死のクレバス」)はサイモン・イェーツとともに、ペルーのアンデス山脈にある標高約 6,400m のシウラ・グランデ山に登頂した際に、実際に起こった壮絶な遭難事故の回想録。
この本をもとに、スコットランドの劇作家・演出家であるデイヴィッド・グレッグが脚色し、2018年にイギリス劇場、ブリストル・オールド・ヴィックにて、当時芸術監督を務めていたトム・モリスによる演出で初演。たちまち人気を博し、新聞各紙でも大絶賛された。
今回トム自身が来日し、オリジナル版の演出で日本人キャストとのクリエーションが実現。俳優たちにとっては、肉体的にも精神的にも非常に負荷のかかるチャレンジングな演出となる。

主人公、ジョー・シンプソンを演じるのは、今年念願のCDデビューを果たしたAぇ! groupの正門良規。さらに、ジョーの姉セーラを古川琴音、ジョーと共にシウラ・グランデに挑んだサイモンを田中亨、そしてジョーとサイモンのテント番として二人の帰りを待つリチャードを浅利陽介が演じる。
日本で演出を手掛けるのは初となるトムと、折り紙つきのキャスト4人が一丸となり、シンプルなセットの中で、死と隣り合わせの壮絶な極限状態で起こるスリリングな展開と心理ドラマを描き、観客を雪のアンデス山脈へと誘う。

プレスコール後に行われた開幕前会見には、正門、古川、田中、浅利、演出のトム・モリスが出席。

プレビュー公演を控え、正門は「ついに初日が来たなという感じで、ワクワクドキドキしております。さっき控室で喋っていたんですけど、今日の夕方はどうなっているかなと。先ほど(プレスコールを)観ていただきましたが、セットもそうですし、やることが4人にしたら非常に多い作品なので、その分感動とエネルギーの詰まった作品になっていると思いますので、これから観ていただく方にはすごく期待をして、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいなと思っております」とメッセージを送る。

古川は「やっと待ちに待った初日が来たなという気持ちが、本当に一刻も早く皆さんに観ていただきたいなと思っています。ここ数日の舞台稽古で、本物のセットでお芝居をしていたんですけど、お客さんとして観たいシーンが本当にたくさんあって、自分自身がそう思える舞台に自然にできているというのが私にとっては本当に幸せなので、感無量です」と自身にとっても魅力的な作品になっていると語る。

田中は「鬼のように段取りがあって、一つ一つが本当に危険なので、慎重に、一つ一つ丁寧にやっていきたいと思っています。舞台でこんなことやっていいの?ということが盛りだくさんな気がしていて、早く観ていただきたいですし、反応が今からすごく楽しみです」と期待を寄せる。

浅利は「二人はアンディ(アンデス山脈のシウラ・グランデ)に登りますけど、アンディのお陰でリアリティがあるすごく良いお芝居ができているので、その辺を観ていただければと思います。舞台の後半の方で、僕らは集落のベースキャンプにいますけど、その集落がある全貌というか、どんな山なのかがすごく綺麗で美しいので、そういう山なんだと、最後にお客さんがリアリティを感じて、それを受け取って渋谷の街に出て行ってもらえたら良いなと思います」と見どころを語った。

トムは「PARCO劇場でこの公演の初めての日本版を作り上げていることにとても楽しみを覚えています。そして、演劇づくりをするのにこんな素晴らしい場所で自分ができるということに大きな喜びを感じています。東京がとてもエキサイティングな街であるだけでなく、各セクション全てのスタッフ、キャスト陣が一丸となって、ものすごく類いまれな仕事ぶりで、最高峰の公演が出来ています。キャスト陣のスキルの素晴らしさに感銘を受けています。この公演を作っている間、皆で楽しいハッピーな時間を過ごしていました」と、カンパニーを称賛し、充実した稽古期間となったよう。

今回、登山家の役に挑戦することとなった正門だが、登山の経験を聞かれ、「ロケで1度、3人4脚で六甲山を登るという経験をしまして。ただ、アルパインスタイルという2人1組になってアイスピッケルを使うという本格的な登山はやったことがなかったので、全部勉強の日々でした。でも、監修の方がすごく丁寧に、1からこの作品のことや山について教えてくださって、昨日監修の方がゲネプロをご覧になったんですけど、すごい興奮したテンションで『良かったよ!』と言っていただけたので、そこは1つクリアできたかなと、自信を持っています」と、力強く答えた。

また、肉体的にかなり負荷がかかる舞台と言うこともあり、体作りを行っていたようで、「各々やっているところもあれば、稽古前にピラティスとかピートのトレーニングの時間もあって、稽古自体が特殊な工程でした。全員で今日も朝一でやりました」と話す正門。
すると、浅利から「個人的にも筋トレしてたんでしょ?」と聞かれ、「ジムに行ってました」と、個人的にもトレーニングを行っていたとのこと。

トムからも「とても体を使う公演なんです。ヨシ(正門)とトオル(田中)にとってオリンピックのような。一幕が終わったら汗だくになっています。こんな演劇、他に無いですよね」と言葉があり、「俺もさっきちょっと登っただけで汗が……最高にエキサイティングです!」と汗をぬぐいながら話す正門だった。

最後に、お客様へ向けて一人ずつメッセージ。
トムは「この公演を日本の観客の皆様がどのように捉えてくださるか楽しみにしています。稽古場にいらっしゃった方々が『こんなの舞台でできないでしょ』とおっしゃっていました。でもこの4人はそれを舞台上でやってのけてしまいます。日本全国の方々が見に来てくださるのを楽しみにしています。この公演はエキサイティングさと危険を扱っていますが、笑える瞬間もあります。いらっしゃっていただく方に申し上げておきたい。笑いたくなったら笑ってください」とユーモアまじりにコメント。

田中は「僕らとしては完全に1公演1公演、ちょっとでも怪我したらできなくなってしまうので。だけど自分を守りすぎずにちゃんとお客さんに届けることを意識して自分自身も楽しんでいきたいなと思います」と気を引き締める。

浅利は「近年まれに見るぐらい大変な仕事に携わったなという実感がございます」と苦笑いしながら、「ですので、毎日、1公演1公演しっかりやっていきますので、身体的な表現もそうですし、6000メートル級の山の上にお客さんを連れていけたらなと思っております」と意気込んだ。

古川は「皆さん驚かれると思います。その空気を早く肌で感じたいなと思っているんですけど、登山の話ではありますが、私自身、全然登山の経験がほとんどなかったんですけど、心に届くメッセージがたくさん詰まった作品になっているので、ぜひたくさんの人に観に来ていただきたいです」と笑顔を見せた。

そして正門は「無事この日を迎えられたということで、後は1つずつ丁寧に安全第一で、観客の方もスタッフさんも、僕ら演者も、全員が楽しむというのが本当に大事なことだと思います。1公演1公演丁寧に楽しんでいくのと、積み重ねていくのを大事にしていきたいなと思いますし、小説が原作で映像化もされていたり、ファンの多い作品だと思っているんですけど、僕は1番舞台でやる意味があるというか、皆さんに体感してもらってやっと届く感動があると思っていますので、ぜひ生でこの作品を感じていただけたらなと思います」と語り、会見を締めくくった。

パルコ・プロデュース 2024『Touching the Void タッチング・ザ・ヴォイド ~虚空に触れて~』は、10月8日(火)から11月4日(月祝)まで東京・PARCO 劇場、11月10日(日)から17日(日)まで京都・京都劇場にて上演される。