――三浦さんにとって、石丸さち子さんの演出の魅力はどのように感じていますか?
愛情だと思います。厳しいところはたくさんありますが、僕は石丸さんの愛情しか感じていません。

――それは人に対する愛情ですか?それとも作品に対する愛情ですか?
全てだと思います。演劇をとにかく愛されている方だと思いますが、「私を信じてついてきてくれれば大丈夫だから」という風に、役者に対しても放っておかないというか。僕をここまで舞台に立たせてくれたのも石丸さんですし、石丸さんに出会っていなかったら、お芝居をここまで好きになることは無かったと思います。一度、蜷川幸雄さんのもとでお仕事をさせていただいた時に、お芝居ってこんな楽しいんだと思わせてもらいました。でも蜷川さんがいなくなってしまって、どうしたら良いんだろうと思っていた時に、石丸さんとお会いして、そこから改めてお芝居の楽しさや厳しさ、怖さなど、様々なことを教えていただいています。

――お互いに信頼関係と愛情が生まれているのでしょうか
僕が何を石丸さんに渡せているかは分かりません。ただ精一杯やることと、石丸さんが叶えたい夢は、僕にできることなら叶えてあげたいなと思いますし、それは役者として、人間として、できることはやりたいなと思います。せっかく出会えたのだから。

――イオカステを演じる大空ゆうひさんは初演から続投となります。一緒にお芝居をしてみて、どのような印象がありましたか?
大空さんをはじめ、ほとんどのキャストの皆さんと前回はあまりお話できませんでした。僕に余裕が無さすぎて、気づいたら始まっていて、気づいたら終わっているぐらいの感じでした。大空さんとも全然お話できていなかったのですが、それでも取材の時間があって、そういった時にお互いの気持ちをお話ししたり、大空さんから聞かせてもらう瞬間もありました。お芝居って不思議なもので、同じことを毎日やっているんですけど、今日は乗ってないなとか、色んなことを感じるんです。お互いに空気を感じながら、すごく繊細に生きられたと思います。大空さんとは何か似ている部分がある気がするんです。だから改めて今回話してみて、答え合わせをしたいなというところもあります。似ているというのはすごく抽象的かもしれないですけど、性格の面で、理解しないと1歩も進めないというところが似ているんです。理解したつもりでお芝居をやろうと思えば、できる人も中にはいらっしゃると思います。演じるという意味では、技術で埋められるところもありますが、僕は嘘がつけなくて、ちょっとした引っかかりが全然前に進ませてくれなくて。そういう嘘をつけないところがすごく似ているなと思うので、嘘の無いお芝居を2人で創りたいなと思っています。

――初演の頃よりは話せる余裕はありそうですか?
(話したい)気持ちはいつもあります。なんならひとりぼっちは嫌で、皆と喋りたいんです。なので、今回は自分から行けるように努力します(笑)

――そして、イオカステの弟・クレオンを演じる岡本圭人さんは別の作品でご一緒されていました。岡本さんの印象は?
すごく前向きに色んなことに取り組まれる方だなと思いました。あまり僕の周りにはいないタイプで、ちょっと変わっている人だなって……僕も変わってるってよく言われるので、僕が言うのもあれなんですけど(笑)。変わっている者同士なので、仲良くなれる気はしています。ご一緒した作品も石丸さんが演出だったんですけど、岡本さんと石丸さんの2人で色々な話をされていたし、色々なことに前向きに取り組んでいる姿を見ました。とにかく岡本さんはすごく想いが溢れる方だと思います。「僕はこう思っています」「僕はこう思うんですけど、どうですかね?」と、すごく質問されていたし、それに石丸さんが答えて、みたいな。コミュニケーションを上手にされていました。僕はそういうことを全くできないので……。言われたことは全部、「はい」って言って持ち帰って、それで分からなかったら初めて恐る恐る聞く、みたいな。でも、そういうコミュニケーションってすごく大切だよなというのは彼を見て思いました。

――初演に続いて東京公演はパルテノン多摩で上演となります。この劇場にどのような印象がありますか?
まだセットが組まれていない時に、一度劇場に行ってステージから客席の方を見たことがあります。マイクを付けずに恐る恐る声を出してみたらとんでもない響きで、もう一気にテンションが上がりました。その瞬間に、ここでこれ(『オイディプス王』)をやるんだと。不安もたくさんあったのですが、よし、ここに立つんだ、という覚悟を決めた感じもあったのですごくワクワクしていましたし、再演でまた立たせていただけるというのは本当に光栄なことです。『リーディングシアター GOTT 神』でもお世話になりましたが、やはり素敵な劇場だなと思いますし、もうとにかく響きがすごいですね。当たり前の話ですが、集中していないと自分の声を聞いちゃうんです。そのくらいすごく綺麗な反響をする劇場だなと思います。あとは、まだ僕はこの劇場の客席で作品を観てないので、早く観たいです。

――初演を観た方がもう一度ご覧になる場合もあると思いますし、今回初めて『オイディプス王』を観る方もいるかと思います。この作品でどのようなことを伝えたいですか?
人間の理不尽さや、でもすごく深い愛情など、とにかく『オイディプス王』は最後にすごく衝撃的な展開が待っています。セットはシンプルですが、客席に座った瞬間に作品の世界にぐっと引き込まれると思います。なので、とにかく劇場に来ていただいて感じてほしいです。照明もとてもダイナミックで、でも繊細で、衣裳やメイクも妖艶で素敵なので、そういったところも全部含めて、僕が演る『オイディプス王』によってギリシャ悲劇の難解ではない魅力を体感していただければなと思います。膨大なセリフ量の作品で、全く知らない方たちからすると「難しいんでしょ?」と感じる方もいると思います。特に若い世代の方たちはこういった作品に触れる機会もあまり無いかもしれません。でも、とにかく劇場に来ていただいたら世界にぐっと引き込まれて、あっという間に終わると思います。他のギリシャ悲劇や他での『オイディプス王』は分かりません。ただ、僕が演じる『オイディプス王』は、すごく色々な要素を皆さんに感じていただける作品になっていると思います。

撮影:泉健也、ヘアメイク:春山聡子、スタイリング:ゴウダアツコ