
2022年5月22日に逝去した石井隆監督は、1970年代より、名美と村木の悲しい愛を描いた「天使のはらわた」の劇画家として人気を博し、日活ロマンポルノでは『赤い教室』(79年/監督:曽根中生)、『ラブホテル』(85年/監督:相米慎二)などの脚本も担当。『天使のはらわた 赤い眩暈(めまい)』(88年)で映画監督デビューを果たした。
その後も、『死んでもいい』(92年)、『ヌードの夜』(93年)などを脚本・監督し、【名美と村木】という女と男の愛の姿を、性愛と暴力を通して、叙情的に、かつ情熱的に描き上げた。『死んでもいい』は、第33回ギリシア「テッサロニキ国際映画祭」で最優秀監督賞を受賞している。
また『GONIN』(95年)では、これまでの男女の物語を抑え、社会で行き詰った5人の男たちが仕組んだ強盗計画の顛末を、壮絶なバイオレンス・アクションで描き、新境地を開く。その後も『黒の天使』シリーズ、『花と蛇』シリーズ、遺作となる『GONINサーガ』まで、唯一無二の美学、世界観でファンを魅了し続けた。
竹中直人、根津甚八、鶴見辰吾、柄本佑、余貴美子、大竹しのぶ、夏川結衣、川上麻衣子など、石井監督の作品に常連で出演する俳優も多く、石井隆監督による世界線はどこか地続き、普遍性を持ちながらも、作品それぞれが、強烈な個性を放ち、エネルギーに満ち溢れている。
この度没後3年に合わせて開催される特集上映のタイトルは「石井隆Returns」。劇画家、脚本家、映画監督として、これまで数々の、男と女の愛の物語を描き続けた、唯一無二の映画作家・石井隆によって生まれた作品たちが、スクリーンに再び還ってくる!という意図が込められている。また、イギリス、フランス、北米などで、石井隆監督作品のワールドセールスがぞくぞくと決まるなど、海外で再評価が高まり、今回の特集上映の実現を後押し。そうしたムーブメントを受けて、今回の特集上映が「石井隆Returns」と名付けられた。
上映作品は、『死んでもいい』(92年)、『ヌードの夜』(93年)、『夜がまた来る』(94年)、『天使のはらわた 赤い閃光』(94年)の4本。88年の監督デビュー作の『天使のはらわた 赤い眩暈(めまい)』から3本目が『死んでもいい』となるため、映画監督としては初期にもかかわらず、すでに映画監督の成熟期と言っても過言ではない傑作ばかり。これまで複雑な権利関係により、まとめて上映される機会が少なかった4作品を、初めてHDリマスター版でのスクリーン上映が、ついに実現した。石井隆が愛し、描き続けてきた<運命の女(ファム・ファタール)>名美を、大竹しのぶ(『死んでもいい』)、余貴美子(『ヌードの夜』)、夏川結衣(『夜がまた来る』)、川上麻衣子(『天使のはらわた 赤い閃光』)が、それぞれどのように演じているのか、すでに見ている方も、初めて石井隆監督に触れる方も、是非、大きなスクリーンで確かめてほしい。
特集上映の開催を記念し、ポスタービジュアルも解禁。石井隆の映像作品に数多く登場する 夜のシーン、カラフルなネオンや照明、雨に濡れたヒロインなど、上映作品の4本より象徴的なカットがセレクトされている。4点のカットと共にデザインされた特集上映のシャープなロゴタイプにより、性愛と暴力の世界で、もがきながらも逞しく生きる女たちの強さを表現したビジュアルに仕上がっている。
さらに、本特集上映に先駆け、石井隆の命日(5月22日)にあわせ、先行上映イベントの開催が決定。『ヌードの夜』HDリマスター版の上映と共に、数多くの石井隆監督作品に出演してきた盟友・竹中直人と、石井隆ファンを公言している、ライムスター宇多丸によるトークショーも実施。当時の撮影当初のエピソードから、監督の人柄や魅力などを語っていただく予定。