挑発的、熱狂的でありながらも、美しい詩的なセリフが印象的な数多くの伝説的戯曲を生み出した劇作家・清水邦夫。本作は、1969年に安部公房の推薦で俳優座公演のために書き下ろした作品。劇作を始めて約10年たち、劇作家として一本立ちするのにふさわしいものを追い求めていた清水邦夫が新しい世代の作家としての地位を確立した、まさに転機の一作と言われている。
演出は2022年に上演された『加担者』と、安部公房作の『幽霊はここにいる』の演出で第30回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞した、今最も注目をあつめる演出家・稲葉賀恵が務める。

現代は若者が熱をもって物事に向き合うことが難しい時代と言われてる。狂気の中にも不思議と人を引き付ける力強い魅力を持つこの戯曲を、現代の演出家が手掛けることにより、人は本来何を求めているのか、この戯曲の熱の正体は何なのか問いかける。

主演はドラマ、ミュージカル、ストレートプレイと様々な分野で活躍する俳優の木村達成。本作では娼家の女主人のヒモで、逃れたくてもその優しさから逃れられずにいる青年役を演じる。娼家に集まる登場人物たちが始める家族ごっこの中では長男を演じることになる主人公の青年【出】を木村達成がどう演じるかにも注目したい。

ほかの出演者など公演詳細は今後逐次案内予定。

【演出:稲葉賀恵 コメント】
清水邦夫の作品はいつも現実が狂乱で虚構であることを教えてくれます。
それでいて書かれている言葉は絵空事ではなく本当にそこで感覚を生み起こすための装置です。その簡潔で明瞭でそれでいてアイスピックのように鋭利な言葉を切り開け、手を突っ込んでいくと、人間の臓物や肉片のようなものが実際にぬらぬらと光っていて、それはとても妖艶で挑発的です。
この作品はそのような言葉の応酬で、「家族」というコミューンを媒介にして「人間」というものを限界値まで解剖していきます。虚構であると同時に現実的、青春であると同時に絶望的。この言葉たちを、切ったら実際に血が滲み出る「今」の物語として構築し、お客様に快楽の伝達を目指そうと思います。ご期待ください。

【木村達成 コメント】
自分と向き合う素晴らしいチャンスをいただきました。
今回は自分が何度ぶっ壊れるか、楽しみです(笑)
みなさまに楽しんで頂けるように頑張りますので、是非観にきてください!

<あらすじ>
ピンクの照明が妖しげに光る娼家。大学教授と名乗る初老の男「善一郎」はここの女主人「はな」の客である。そして青年「出」は女主人のヒモで、ここから逃げようとしているが、彼女の優しさから逃れられない。この娼家には若い娼婦「愛子」もいて、彼女の客である若い男「敬二」もやって来る。
やがて彼ら5人はまるでここが一つの家族であるかのようなゲームを始める。初老の男が父親、女主人が母親、ヒモの青年が長男、若い娼婦が長女、その若い客の男が次男。
ところがその家族ゲームとは……。