
本作の撮影は、2023年8月上旬から9月上旬までの約1か月間、広島県尾道市でのオールロケで行われた。青春映画の名手・大林宣彦監督の『時をかける少女』(1983)を始めとする“尾道三部作”や、小津安二郎監督の名作『東京物語』(1953)の舞台として知られるこの街は、多くの映画人に愛されてきた“日本映画のふるさと”とも言われ、数々の物語を紡ぎ出してきた特別な場所だ。
“尾道オールロケ”に至るまでの松居監督の思いはどのようなものだったのか。

『リライト』を尾道で撮影したことについて、「大先輩にあたる大林監督が『時をかける少女』を尾道で撮られていて、『リライト』の原作の舞台とは異なるものの、同じ“時間”をテーマに扱った作品として、尾道で撮影することに、大きな意味を感じました」と語り、大林監督の『時をかける少女』へのリスペクトがこめられていることを明かした。尾道の街並みに対しても、特別な思いを抱いており、「どこをカメラで捉えても絵になり、時間が止まっているような原風景を感じます。そんな土地で未来人との交流を描くというのが面白いですよね」と語る。
そんな尾道での撮影について“観光地としての尾道”ではなく、ここに住む人にとっての景色、“日常の尾道”を撮りたいという思いがあったという。「日本のどこにもない穏やかな風が吹いていて、優しい景色というか、ノスタルジーを感じるんです。尾道で撮ることができて本当によかったと思います」と、尾道での撮影を振り返る。さらに、ロケ地に尾道を選んだ背景には、開発が進む現代への違和感もあったという。「日本各地で元の風景が失われ、合理的になっていく中で、300年後の未来から現代にやってきた保彦が感じた、温かさや匂いを感じられる場所で本作を撮ることに意味がある」と語る。過去と未来を行き来するタイムリープの物語だからこそ、尾道という町が持つ温かさや、そこでしか感じられないリアルな空気感が作品に欠かせなかったのだ。
未来からやって来た保彦が見た、どこか懐かしさを感じる風景。そして、その景色に描かれる物語には、大林監督作品への敬意が息づいている。