1960年9月20日に開業した映画館「丸の内 TOEI」が、東映株式会社本社の入る東映会館の再開発に伴い、2025年7月27日(日)に閉館となる。約 65年という長い歴史のグランドフィナーレを彩る「さよなら 丸の内TOEI」プロジェクトとして、5月9日(金)から7月27日(日)まで傑作特集上映が行われている。

『老後の資金がありません!』は、主人公に襲い掛かるお金にまつわるあらゆる災難を、実直かつ痛快に、そして明るく朗らかに描いた作風で、興行収入12億4000万円という大ヒットを記録。悩み、もがき、奮闘しながらも、逆境に立ち向かう主人公に胸打たれる老若男女が続出し、新型コロナウイルス感染症蔓延防止の規制が緩やかになり始めた当時の映画館にふたたびお客様が戻ってくるなど映画業界全体に“ハッピー”をもたらした作品でもある。
そのムーブメントを牽引し、主演として徹底したコメディエンヌっぷりを見せつけた天海祐希と監督を務めた前田哲が登壇する舞台挨拶が行われ、今だからこそ振り返れる撮影時・公開時の思い出を語る。

今回の舞台挨拶の機会について天海は「嬉しいですよ。もう一回上映していただけるなんて、幸せなことだと思います」と笑顔を見せる。
本作は当初、2020年9月公開予定だったが、新型コロナウイルスの影響で翌年10月に延期に。コロナ禍に上映されたにもかかわらず、最終的には100万人動員突破し、大ヒットとなった。当時のことを「1年延期になるということで、これは良い方に進むための1年だと思って、それが良い方向に転ぶんだと願っていました。それでたくさんの方に見に来ていただけて、とても嬉しかったですね」と前向きに捉えていたと振り返る。

また、天海自身が丸の内TOEIに作品を見に来ていたそうで「ここの一番後ろの列に、若村麻由美さんと氷川きよしさんと3人で」と明かしながら「ちょっとだけトラブルがあったんですよね。それに私たち3人が速攻気づいて、『ちょっと行ってくる!』って受付の人に言いに行きました」と、上映トラブルに遭遇し、劇場スタッフに声をかけに行ったことがあったそう。
「すぐに係の人が来てくださって、もう1回最初から。トラブルにすぐ気がつきました。これはいけない、と思って、『私が行ってくる!』って」と、主演自らが対応したという、丸の内TOEIにまつわるエピソードを披露。

当時の劇場の反応について「この映画の特色と言いますか、普段よりもお姉様方、お兄様方が足を運んでくださって……」と丁寧な言葉選びをする天海に対して、「それ、高齢者ってこと?」とストレートな物言いの監督に、ここはカット、とジェスチャーをする天海の姿もありながら、「一番後ろの席だとよく見えるんですよね。先輩の方々がたくさん笑ってくださっていました」と嬉しそうに話した。

撮影現場での思い出を、天海は「草笛さんも楽しくやってくださっていましたね。アクシデントもあったりして。ポロッと歯が取れてしまったところを、そのまま使いましょう、と」と草笛の差し歯が取れてしまったシーンの裏話に触れ、前田監督が「あまりにも面白い顔だったので…(笑)」と思い出したかのように笑うと、「面白い顔って言っちゃいけない!」と嗜める天海の姿があった。

撮影時、かなり自由度の高い現場だったようで、「自由にって言っていただいても、役の人がやるかやらないかを基準にして、アドリブっぽいものをやっていくので、本当に楽しかったです」と話す天海は、劇中での「実は宝塚入りたかったんです」というセリフについて「当人から見ると、これは笑えるのかな?って思っていたんです。すごくベタな感じがしたんですけど、あれは笑っていただけるんだ、って」と語った。
『老後は〜』の次回作なのかはたまた新作か、天海と監督が再びタッグを組むことはあるのか?という問いかけに、「多分仲良く色々バトルを繰り広げたので、なかなか誘ってくださらないかもしれない…」と心配するも「監督が懲りなければまた呼んでください」と微笑んだ。

最後に「演劇も映画も、劇場に足を運んでいただくことが私たちにとって励みになることですし、応援していただけることが次に繋がっていくことだと思うので、どんどん劇場に足を運んでいただいて、映画を見ていただけたらなと思います。ここが無くなってしまうのはすごく寂しいですが、これがまた新しい素敵なことに繋がると思って、希望を持っていきたいなと思います。これからもどうぞよろしくお願いします」と挨拶し、舞台挨拶を締め括った。