©2025 A Pale View of Hills Film Partners

1989年にイギリス最高の文学賞であるブッカー賞、2017年にノーベル文学賞を受賞し、二つの世紀を代表する小説家となったカズオ・イシグロの鮮烈な長編デビュー作「遠い山なみの光」を、『ある男』(22)で第46回日本アカデミー賞最優秀作品賞含む最多8部門受賞を果たした石川慶監督が映画化。
長崎時代の悦子を演じるのは広瀬すず、佐知子に二階堂ふみ、イギリス時代の悦子に吉田羊、ニキにはオーディションで選ばれたカミラ・アイコ、さらに悦子の夫に松下洸平、その父親に三浦友和と、日英映画界の煌びやかな至宝がそろった。そのほか、日本パートには柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜(子役)らが出演。豪華実力派キャストが集結し、物語を彩る。

この度解禁となったのは、思い出の詰まったイギリスの自宅の売却を決め、荷物を整理していた中、次女のニキに乞われ、ずっと口を閉ざしてきた過去の記憶となる戦後間もない長崎で出会った佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出を窓辺で静かに語りだす悦子の姿や、悦子とイギリス人の父の間に生まれ、大学を中退して作家を目指すニキとイギリスの自然をバックに二人並ぶ親子でのショット、さらに何かに向かって深い眼差しを向ける悦子の憂いを秘めた表情がとても印象的なアップのカットなど、物語の軸となる難しい役どころとなった「悦子」をミステリアスかつ奥深く演じ、「悦子が現れた」とイシグロ氏も絶賛した吉田の魂の演技に期待が高まる場面写真となっている。

悦子役のキャスティングは、製作に加わったイギリスのプロダクションNumber 9 Films主導でオーディションが行われたが、たくさんの候補者がいる中で、決め手に欠けていた。そこで石川監督から「吉田羊さんにお願いしたい」という要望が出た。吉田ほどのキャリアを積んだ俳優にオーディションへの参加を依頼するのはためらわれたものの、吉田はすぐに英語の台詞で演じるテープを送ったといい、石川監督と日英プロデューサー陣がテープを見て、全員一致で即決となった。
撮影前から単身イギリスに入り、数週間ホームステイをして英語のレッスンを受けるなど渾身の想いで本作に挑んだ吉田。はじめての全編英語での演技という難しい環境にもかかわらず、撮影前の滞在で生活者としての視点を得たことで英国チームのスタッフたちにも自然に溶け込み、常に現場を引っ張っていたという。
そんな吉田に対して、石川監督は「頼りっぱなしでした。長崎パートの映像をすべて吉田さんに送って、長崎の悦子から30年後の悦子を吉田さんなりに作ってくださいとお願いしました。内心、相当な無茶ぶりだと反省していたのですが、僕がイギリスに着いた時には、非常に説得力のある悦子を既にご自身の中で作ってらっしゃったので、さすがだなと安心しました」と語る。

さらに撮影現場に訪れた原作者のイシグロは、吉田を見て「悦子が現れた」と喜んだという。吉田は白玉粉と抹茶の粉を現地で調達して日本のお団子を作りイシグロ氏とスタッフにふるまったといい、「演技に集中しながらも、そういう海外の現場でのフレッシュな体験を全力で楽しまれている。素敵だなと思いました」と福間プロデューサーも語る。
また、『愚行録』をはじめ石川監督の作品が好きで以前より観ており、たまたまある映画イベントで以前、石川監督に会って以来その人柄に触れ『いつか一緒にお仕事がしたい』と目標にしていたという吉田。そんな中、本作のオファーを受けた時の心境について「自分の人生にこんな奇跡が起こるのかと思うほど本当に嬉しく、また今回イギリス側に私の大好きな映画『キャロル』を作られたNumber 9 Filmsが入られると聞いて、本当にいまだにふわふわして現実味がないというのが正直なところです」と、現場で喜びの言葉を口にしており、さらに本作について「自分らしく生きようとする女性たちの逞しさが美しく胸に響いて、悲しみと共にある希望に、すごく勇気づけられる映画だと思いました」と語る。
また石川監督の脚本は「原作の雰囲気をそのままに、石川さんならではの不穏さや歪さも加わって幻想的でありながらもリアルな手触りがあって。過去と現在、夢と現実を行き来しながら境界線が曖昧になっていく感じがとても不思議で面白い」とも。
さらに「私の父が長崎の出身で、父が5歳の時に原爆を経験していますから、原作を拝読した時に真っ先に浮かんだのがやはり父のことで、その長崎にルーツを持つ私だからこそ感じられるものもあるのかなと期待しながら、今回この作品に入らせていただきました」と語っており、吉田にとってまさに運命的な役柄、作品となったことがコメントからうかがえる。