
唐十郎の初期作品『アリババ』『愛の乞食』の二作品。唐が旗揚げした劇団「状況劇場」によって1966年に『アリババ』が、1970年に『愛の乞食』が初演された。現実と幻想、現在と過去が溶け合うそれぞれの物語は、叙情的に紡がれる言葉の数々で、人々の中に眠る普遍的なロマンを呼び起こす。
演出を務めるのは、唐十郎と蜷川幸雄の両虎を師とし、アンダーグラウンド演劇に真正面から取り組んできた新宿梁山泊主宰の金守珍。今作では唐の初期作品二作を初の全編“関西弁”で連続上演。唐の独特な世界観を関西弁で再解釈することによって、新たな視点で戯曲の力を引き出す。
そして主演を務めるのは、2023年に『少女都市からの呼び声』で唐作品に初挑戦したSUPER EIGHTの安田章大。関西出身の安田が持つ言葉の感覚を通じて、唐が紡いだ叙情的な台詞の数々を新たなアプローチで届ける。
共演には、壮一帆、伊東蒼、彦摩呂、福田転球、温水洋一、伊原剛志、風間杜夫と、美しさと猥雑さが混在する唐ワールドを体現するに相応しい個性豊かな俳優陣が揃った。
公演を翌日に控え、行われた囲み取材。安田は「楽しいメンバーが集まりました。見ていただいたら分かる通り、色んな格好をしております。唐十郎戯曲の中でどんな広がり方をしていくのか、僕自身も楽しみで仕方がないです」と意気込む。
壮は「初めてとなる唐十郎さんの作品に、もうすでにどっぷりこの世界に浸かっております。千秋楽まで新鮮な気持ちで頑張りたいと思います」と笑顔を見せた。
伊東は、「すごい緊張しているんですけど、何よりもまずは自分が常に楽しんで、唐さんの書かれた世界の中でどれだけ自分が自由に楽しく遊べるかというのを常に頑張って、皆さんにも楽しんでいただきたいと思います」と初々しく語ると、安田が「マイクにびっくりするなぁ」と向けられたマイクに驚く伊東に対して優しく声をかけていた。
演出の金は伊東について「伊東さんの飛躍力、誤読力は、こういう少女を唐さんは待ってたんだと思います。すごいです」と話し、「安田くんが引っ張ってくれて、安田くんを見て、ここまでやって良いんだと突き抜けているようで、毎回違うんですよ。毎回ステップアップして、どこまでいっちゃうんだろう、ここにきてさっき見た時よりすごい力を持っていて、昔の樹木希林さんはこうじゃなかったかと、そんなことを話すぐらい素晴らしい人が訪れて、大変楽しい現場です」と大絶賛。
その言葉を受け伊東は「すごく嬉しいですし、その言葉に甘えずに楽しく、本当に稽古場から皆さんの稽古をされている姿を見て、とにかく皆さんの背中を追っていました。なのでここから本番が始まって、やっと皆さんに見ていただけるので、自分の感情に思わず出ちゃったみたいな、そういうのが皆さんと共有できたら良いのかなと思います」と語る。
彦摩呂は「唐十郎さんの舞台は大好きで、テント芝居から金さんのファンで観に行かせていただいたんですけども、参加させていただいて毎日稽古が楽しくて。その楽しさが客席に届けば良いなと思います。唐さんの戯曲を今回は関西弁に変えるという発想で、全体のキャラクターが特化しているのでものすごい世界観に私も一員になれて嬉しいです」と喜び。
福田は「見ていただいたら分かると思いますけども、大変年齢層が高くございます。皆で労わりながら、最後まで公演が終われば良いなと思っております」とコメント。
金は「最高のキャストとスタッフで、昨日の場当たりで感動してちょっと涙が出ちゃったぐらい。珍しいですね。唐さんの戯曲を大劇場でやるのは色々無理があるんですけど、今回は全く無理がないので、自信作でございます!」と自信を窺わせた。
温水は「学生の頃、演劇部の部室にあった唐十郎さんの作品をいっぱい読んでいたんですけども、まさかこの歳になって初めて唐さんの作品に参加することができて、機会を与えてくださって本当に感謝しています。メンバーがすごいので、圧倒されながら稽古をしていました」と話す。
続く伊原は「私も唐さんの作品は初めてなんですけども、自身も楽しみながら、お客様にも楽しんでもらえたらなと思って。ジョニー・デップみたいだと言われているんですけど、私自身も水に濡れるシーンもあるので、ジョニー・べっとり。ありがとうございます」と冗談混じりに意気込むと、安田から「さっき裏で考えてたでしょ!」とツッコミが。初の唐作品参加について「皆さん個性的で本当に楽しいです。ある時に金さんが『唐さんがまるで当て書きしたようなキャストに恵まれた』とおっしゃっていたので、その期待に応えたいなと思っています」と気合いを入れる。
そして風間は「金さんと出会ってから唐作品は6本目なんですけど。新しいメンバーで非常に個性豊かでやってて楽しいです!2作を主演で安田くんが突っ走りますから、そのエネルギーだけでも見応えがあると思います。楽しくやってます」と述べた。
6月には金が新宿梁山泊主催のテント公演で同演目を演出・上演していたが、今回の公演について安田は「全く違うものと考えていただけた方が良いのかなと思います。その人が変わればその物語が変わりますし。テントで演じた皆さまはそれがベストだったと思いますし、今回はこのキャストが正解だったんだとなるような流れかなと思っています。皆で0から1を作った感覚です」と話す。
また、テント公演との違いを「テントの中でしか得られないエネルギーの充満さはもちろん、借景や外で鳴っている音とか全て、シチュエーションによって効果的に使える特効になってくるので、それはその良さがあります」としながら、「こういう場所に来ていただいて、しっかり演技に集中いただくこの環境も、唐十郎戯曲を展開していく中で大事な見せ方なのかなと。何より自分達で足を運んで、唐十郎さんのことを大好きだった方々のもとに会いに行けるのがとても意味のあることなのかなと思います」と語る。
全編“関西弁”で上演される本作。演出も務める金は「唐さんの戯曲は笑いのセンスがないとダメなんですけど、ある意味、これが標準語だと固いじゃないですか。1回関西弁に置き換えたら、また安田くんがわざわざ感情を作るのに関西弁に1回置き直してから、標準語に戻すというのを2年前の(『少女都市からの呼び声』の)稽古で聞いて、これは思いっきり一度関西弁の安田くんを見たいなというのと、関西弁の持っているユーモアを。関西弁にして良かったと思うのは、とにかくこんな楽しいお芝居ない。本読むと難しくて皆さん訳分からなかったでしょ?最初。今は全部入ってきたでしょ?不思議ですよね、唐さんのお芝居って。また、5年の歳月がある2つの戯曲が繋がって1つになるという、これから唐十郎の初期作品を読み直すことは演劇界にとって大変重要なことだと思っております。一回関西弁で思いっきり笑って、楽しい芝居に置き換えてエンターテイメントにしたいと思います」と熱弁。
関西弁に置き換えて覚えている安田は「皆が逆にしてないんかな?って疑問に思うぐらいです」と周りを見渡すも、全員がしているわけではなさそう。「関西弁やから生まれる貧子との夫婦関係のうねり方とかリズムの持って行き方は関東の言葉とは違う。万寿シャゲとのシーンも然りなんですけど。関西弁で言葉が軽くならないように意識しながら、あとはリズミカルなところはリズミカルに進んで、止まるところはしっかり溜めて止まって、というのを意識している感じです」と明かした。
改めて、唐十郎作品の魅力を「戯曲を読んで分からないものを演じた時に、皆が共鳴し合うのが面白さだと思います。ブラックホールのように引き寄せられるので、戯曲はおもろいなと勝手に気持ちが乗っかっていくんですよね。何回演じてみても、色んな演じ方が見えてくるのが唐さんの戯曲の深さなのかなとも思います」と熱く語る安田。唐十郎の世界にどっぷりハマっているが、「11年前までは(ハマるとは)思っていませんでした。唐さんの息子である大鶴佐助と出会ったことが大きな人生の転換期ではあると思います」と振り返る。また、「今年20歳になられる伊東さんが、僕よりはるか10年も前から唐さんの戯曲に出会うわけですから、伊東さんが広げられる年齢層のところに広がっていくんだろうと思います」と期待を寄せる。さらに、「どんどん広がっていって、演劇=観に来なきゃいけない、そして観ること=堅苦しいが無くなっていくと良いなと。体験したことによって物語を理解できるとか、1年、5年、10年と年月が経った時に、あの時こういうことやったのか?って思えるような人生を迎えてほしいなということで、体験型、体感型だなと思います。知らない世界を知るって人生で楽しい時間なんじゃないかなと思うので、知らないものに触れるのは怖いでしょうけど、触れてしまえばその楽しさを追求していくことができるので、すごい贅沢な生き方に変わるのかなと思います」と語った。
最後に楽しみにしているお客様へメッセージを求められた安田は「何が良いでしょうかね?彦摩呂さん、何か良い言葉ありますか?」と振ると、彦摩呂から「エンタメのフルコースです!お腹空かせて観にきてください!」の言葉に現場は盛り上がる。改めて安田から、「おっしゃる通りで、空腹状態で来ていただくと本当にお腹が満たされると思います。これだけ各所から出てこられている方々がいて、エネルギーがごちゃごちゃ混ざっているんですよ。丸の渦ではなく、四角のガタガタした渦を渦巻かせようと生前唐さんがおっしゃっていたので、それをぜひ体験しにきていただけたらなと思います。言葉をお借りします。フルコースです。お腹を空かしてきてください!」と笑顔で呼びかけた。
Bunkamura Production 2025『アリババ』『愛の乞食』は、8月31日(日)より9月21日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて、さらに福岡・大阪・愛知にて上演される。