三島由紀夫の代表作「近代能楽集」は、能の物語を現代の設定へと落とし込みながら、現実世界を超越した能の幽玄さが違和感なく融合する独特の世界観が最大の魅力となっている。

全八編の短編戯曲から成る「近代能楽集」から上演されるのは、「源氏物語」を原典に、時代を超えても変わることのない、嫉妬や欲望、情念など、心の内に秘められ
た闇を生々しくも幻想的に描いた『葵上』。
さらに終末観に腰を据えた青年がいかに大人の世界に復讐するかを軸に、滑稽にも見える両親とのやり取りと、主人公がこの世の終わりを語り、現実的なもの全てに対する敗北を表す最後の台詞が印象的な『弱法師』。

演出を務めるのは、これまでトークイベントやリーディング形式の上演で「近代能楽集」の作品を紐解いてきた宮田慶子。
主演は本作で舞台単独初主演となるKing & Princeの神宮寺勇太が務め、共演は5年ぶりの舞台出演となる中山美穂。

公演に先駆け、公開ゲネプロが行われ、その後の取材会には神宮寺と中山、宮田が出席した。

今回、神宮寺は『葵上』では美貌の青年・若林光役、『弱法師』では戦火で視力を失った二十歳の青年・俊徳役という、これまで数々の名優たちが演じてきた役に挑む。
初日を迎え、心境を聞かれると「僕自身のこういう姿っていうのを皆さんに見ていただくのはなかなかない機会なので、ぜひ足先から頭の上まで堪能していただければなと思っています」と話した。

神宮寺は舞台単独初主演で三島由紀夫の代表作に挑むこととなり、「1人だと立ち向かえないくらいの難しい大きな壁って印象がすごいある」と語りながら、演出の宮田からアドバイスをもらう中で印象に残っている言葉を聞かれると、「これ絶対聞かれると思っていたんですけど(笑)」と笑みを浮かべ、「役を纏ってステージに出るとか言うじゃないですか。そうじゃなくて、「役を食べちゃえ」っていうのが、纏うじゃなくて自分の中に落とし込むことを食べちゃうっていう表現が新しくて、すごい僕の中で印象に残っています」と明かした。

物語の時代的にも、また三島由紀夫の作品ということもあり、喋りづらい言葉遣いも多く、セリフを覚えるのには苦労した様子。
「夜も寝れなかったです。最初の頃は。本当にこれは自分に覚えられるのかっていうのもすごい思いましたね」と不安を見せながら、「でもたくさん稽古を重ねていただいたので、そこで色んなものを自分の中に落とし込む作業が出来たので、それは本当に助かりました」と振り返る。

宮田は神宮寺の印象を問われ、「とにかく吸収が良くて、日々色んなツッコミを入れてみるとことごとく帰って来て、次第に底なしのポテンシャルを持っているなこの人は、と思って色んな事を投げて投げて、投げてきました」と語る。
「難しい戯曲に対して、非常に知的に論理的に分析もしつつ、いざ演じていく時には、すごく動物的な勘と言いますか、そういうものを全部使ってやってくれるので、毎日楽しいですよ」と稽古中を振り返りながら、「日々アップデートって言ってるんですよ。毎日毎日とにかく探して行こうね、更新しながら行こうねって言ってます」と、さらなる成長に期待を寄せた。

中山は『葵上』では神宮寺演じる光のかつての恋人・六条康子を、『弱法師』では俊徳を救おうとする調停委員・桜間級子を演じる。
神宮寺とは初共演となり、印象を聞かれると「座長としてしっかりいらっしゃいましたし、驚くほど素直な方なんですよ。それで直観力もとっても働いて、すぐ自分の中でスマートに変換して動いていらっしゃるので、逆に私もそういう姿を見て刺激になりましたし、先輩とはいえ私も舞台経験が豊富ではないので、新人みたいなのに先輩みたいに言ってごめんねって心の中でずっと思いながらやっていました」と語った。

稽古期間中は稽古に集中していたということで、あまり会話をする機会がなかったという神宮寺と中山。
「落ち込んだり考えすぎて悩む時間が毎日でしたので、ふと和むような会話とか、食べ物何が好きなの?って会話すらしていないですね」と話した中山に、神宮寺も「稽古を長い期間やらせていただいたんですけど、僕自身に余裕が無くて、ずっと台本に向き合っていたので、本番が始まってから(会話を)しようっていうふうに思っていました」と答えながら、「僕、好きな食べ物はカレーです!」と告げて、笑い合う一幕もあった。

また、King & Princeのメンバーからは何かアドバイスをもらったのか問われた神宮寺は、「改めて、「どうやってセリフ覚える?」って聞いたりとか。あまりメンバーにはそういうのは聞かないんですけど、皆から「リズムで覚えちゃいな」って言ってもらったり、「俺は家で覚えている」とか、あと岸くんからは細かいことじゃなくて「大丈夫、神宮寺なら出来る」って言ってくれました。その言葉は心強かったですね。そういう言葉を胸に今立っています。」と力強く話した。

最後にファンの方へのメッセージとして、中山は「実際今夜から上演が始まりますけども、頑張ります。見ていただいた方にたくさん何かが伝わってくれればと思います」と語った。

神宮寺は、「初めて読んで難しい作品だなって思ったんですけど、読めば読むほど、そして演じさせていただけば演じさせていただくほど、すごい三島さんの作品に対する興味というのが僕自身すごい惹かれていったんですけど、もし見に来られる方がいたら、この三島さんの世界観や作品の世界観をこの機会に知っていただけたらなと思いますし、今回残念ながら来られないという方は、本を読んで、「もしかして神宮寺くんが演じる光はこういうふうにやるのかな」みたいな妄想もしていただきながら楽しんでください。頑張ります!」と締めくくった。

東京公演は、11月8日(月)から28日(日)まで東京グローブ座、大阪公演は12月1日(水)から5日(日)まで梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演される。

<あらすじ>
『葵上』
深夜の病院の一室。
若林光は入院する妻・葵の元を訪ねる。看護婦から、真夜中になると見舞いにやってくるブルジョア風の女のことを聞かされる。 光が病室にいると、かつて光と恋仲であった六条康子が現れた。毎晩、葵を苦しめていたのは康子の生霊であった。
康子の生霊は、再び光の愛を取り戻そうと昔の思い出を語り出す。次第に、光は葵のことを忘れそうになるが、葵のうめき声で我に返り、康子を拒絶する。康子の生霊は消えていったが・・・

『弱法師』
晩夏の午後。家庭裁判所の一室。2組の夫婦が、俊徳の親権を争っている。
高安夫妻は俊徳の生みの親である。俊徳が戦火で両親とはぐれ、火で目を焼かれて失明し、物乞いをしていたところを川島夫妻に拾われた。それぞれに権利を主張するも、俊徳はそれを嘲笑し、育ての親は奴隷、生みの親は救いがたい馬鹿だと言い放つ。
平行線をたどる話し合いに業を煮やして、調停委員である桜間級子が俊徳と二人だけで話をすることになり・・・