京極夏彦による百鬼夜行シリーズ第二弾として刊行され大人気となった長編推理、伝奇小説である「魍魎の匣」は、コミック化、アニメ化、映画化、さらに 2019年には舞台化もされたシリーズ最高傑作との呼び声に違わぬ根強い人気を博している。
「匣(はこ)」と呼ばれる研究棟から誘拐された少女、バラバラ殺人事件、穢れた金を浄化すると称して信者から財産を集める新興宗教と、一見バラバラに見える3つの事件が次第に一つに集結し、事件の裏に渦巻く「魍魎」の正体が徐々に明らかになっていく。

初のミュージカル化となる本作で、演出、上演台本、作詞を手掛けるのは、日本版脚本&歌詞・演出を担当した『FACTORY GIRLS ~私が描く物語』で、第27回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した板垣恭一。

主演は、映画、テレビ、舞台と幅広く活躍を続ける小西遼生が務め、古本屋「京極堂」を営み、宮司にして陰陽師の「拝み屋」中禅寺秋彦役を演じる。
ほか、出演に吉田雄、北村諒、神澤直也、熊谷彩春、加藤将、池岡亮介、 駒田一など、様々な場で活躍する俳優陣とイッツフォーリーズのメンバーが揃った。

公開ゲネプロ後に行われた取材会では、キャストの小西、吉田、北村、神澤、上演台本・作詞・演出の板垣に加え、原作者の京極夏彦が登壇。

主演を務める小西は、冒頭の挨拶で「今回、魍魎の匣を初めてミュージカルにするということで、僕も原作を読ませていただきまして、あの面白い原作をミュージカルにして、それをお客様に楽しんでいただくためにはどうしようどうしようと1ヶ月以上考え続けてここまで来ました。僕の役は歌で説明していくことが特に多いので、お客さんに果たして伝わっているかどうかを考えながら、脳が休まる隙間が一つもないです。ゲネプロをやったばかりなので、正直ちょっと意識が朦朧としてます」と、語った。

記者から「京極先生がいらっしゃるのはなかなかない機会だと思いますが、本番を控えて京極先生に聞いてみたいことは?」と聞かれ、小西は「今!?もう手遅れですよ!」と焦りながらも「(作中で)気に入った曲とかありましたか?」と質問。
京極からは「曲はどれも耳に残る良い感じで、皆さん声もよろしいですし、内容が入ってくるんです。ただ、ごちゃごちゃしてますから、入ってきて心地よく聞いていると抜けていくんですよね。でもこれが逆に良いかもしれないんじゃないかなと」といった回答が。

さらに、舞台中、北村演じる榎木津礼二郎が観客を飼っている熱帯魚に例えるシーンについて、京極から「今まで榎木津礼二郎が熱帯魚を飼っている設定は書いてないと思うんですけど」と指摘があると、「勝手に作りました」と答えた北村に、「実は熱帯魚を飼うことになっているんですよ」と応え、驚きの事実が発覚。
「逆にネタバレしちゃったかもしれない?」と焦る北村に、京極は「まだ書いてないんですけど、こっち(ミュージカル)が先だと思われたら悔しいんで今言いますけど」と返しながら、「それぐらい皆さん掴んでいらっしゃるんだなと思いましたので、ものすごく褒めてます」という嬉しい言葉もあった。

また、ミュージカル化にあたり、原作のどの部分に面白さを感じたのかを聞かれた板垣は、「先生を目の前に言うのは緊張するんですけど」と恐縮しながら、「京極先生は妖怪とかいないっていう話を妖怪シリーズで書いていることに驚いたんです。僕も演劇という人間を描く仕事をしているもので、どんなにすごい凄惨な事件があったり、勇ましい話、ハートウォーミングな話だったりしても、個人個人のレベルではささやかなことでしかなかったりするので、そういう意味で言いますと、一見仕掛けはおどろおどろしいんですけど、ものすごく普通の人間の人の営みの部分を中心に据えていらっしゃるって思ったので、やりたいと思いました」と語り、続けて、「”物語は解釈である”というとびぬけたことをおっしゃっているんですけど、物語を書きながら、物語というのは解釈だし、僕たちは物語の中に生きているに過ぎないんだよ、っていう風に中禅寺が言っていて、その言葉が一番感銘を受けました」と明かした。

そんな板垣の言葉を聞いた京極は、「私は字を書いただけで、あとはそれを受け取る人の解釈なんです」とし、「この舞台は、板垣さんの解釈。その解釈を受けた表現者の方の解釈、そして、見てくださった方もそれぞれに何かを解釈する、そういうことなので、私の出番はないです。小説が書きあがった段階で手を離れているので、どのように受け取られても、どのように表現されても僕は全然何とも思わないですね。よく原作を改変して怒る方もいらっしゃるんですけど、全くそういう気にはならないです。むしろそこから出来た一つの作品が面白いかどうかだけなので。今回は面白かったので全然OKです」と、太鼓判を押した。

お客様へのメッセージとして、代表して小西から挨拶があり、「劇場でいよいよお客様に見てもらえることを、稽古初日からずっとワクワクしていました。この作品に入る前に、原作を読みいただいた台本を読み、これがうまく作用したら皆さんにとても複雑なエンターテイメントを届けられると感じていました」と初日に向け期待を膨らませる。
「言葉というのは苦手な人は難しいものに感じるかもしれませんが、この作品の中にあまり答えがないので、僕らは脳を思いっきり揺さぶっていきたいと思います。お客様も受け取り方は自由だという(京極先生の)言葉もありましたし、そこに答えを求めずに、ぐわんぐわんの頭で帰っていただければと思います。今、劇場が100%の状態で開けられることが幸せだと思っておりますので、皆様の貴重な時間をほんの少し僕らにいただいて、良かったと思ってもらえるように頑張りたいと思います」と締めた。

そして、取材会の最後には、京極から「千客萬来」と書かれた色紙がサプライズで送られた。

公演は11月10日(水)から15日(月)まで、オルタナティブシアターにて上演される。

さらに、11月14日(日)公演の生配信も決定した。