本作は欧米の演劇界が注目する新進気鋭の劇作家、ジェレミー・O・ハリスの作品で、映画『チョコレート・ドーナツ』等でも著名なアラン・カミングら米国の実力派俳優陣が揃い、2019年にオフ・ブロードウェイのヴィンヤード劇場で初演。人種、セクシュアリティ、家族、格差社会、モラル、アイデンティティといったテーマをリアルな会話で鋭く描き、大胆で刺激的な内容で話題となった。

日本版を演出するのは、新国立劇場の演劇芸術監督でもある小川絵梨子。

そして、主人公のアフリカ系アメリカ人のアーティストであるフランクリンを中山優馬が演じる。
さらにフランクリンのパトロンで、年上の美術コレクターのアンドレを大場泰正、フランクリンの友人であり青年俳優のマックスを原嘉孝、SNSインフルエンサーのベラミーを前島亜美、フランクリンの才能を見出すアートディーラーのアレッシアを長野里美、敬虔なクリスチャンで気難しいフランクリンの母親・ゾラを神野三鈴が演じる。

公演初日を翌日に控え公開ゲネプロが行われ、その後の取材会には、中山、大場、原、前島、そして原作者のジェレミーが出席した。

ゲネプロを終えた手ごたえを聞かれ、中山は「この作品が明日からいよいよ開幕ということで本当にワクワクしております。なんといってもこのプールが前代未聞と言いますか、新大久保のグローブ座にプールが出現するということで、ワクワクした気持ちとドキドキした気持ちを劇場に来てくださる皆さんと一緒に体感出来たらなと思っております。手ごたえとしては、バッチリじゃないでしょうか!」と力強く語りながら、ここからスタートなので、これからもっともっと高め合っていきたいと思っています」と、コメント。

大場は、「とても充実して先ほどのゲネプロを迎えることが出来ました。最初はジェレミーの書かれた、私たちはある意味遠いかもしれない事を、自分の事として捉えることがだんだんと出来るようになってきて、この舞台上で初めて出会うっていうことを明日からまた続けていきたいなと思います」と話す。

原は、「この作品は簡単な作品ではもちろんなくて、色んなメッセージ性があるんですけど、実は通し稽古がそんなに回数をやったわけでもなくて、深いところを掘り下げるっていう作業ばっかをずっとしてきて。だから今日のゲネも本当に新鮮に目の前の人のセリフで刺さるものがたくさんありましたし、ここから本番を重ねていくにつれてもっともっと深い作品になっていくと思うので、一公演一公演楽しみながら頑張りたいです」と、公演へ期待を寄せる。

前島は「演出の小川絵梨子さんとカンパニー一同で“とにかく飛び込んでみる”というのをテーマに挑戦し続けた稽古期間だったなと感じております。この作品は壮大で背負いきれないような痛みから、家族や愛という誰もが共感出来る痛み、本当に色んなメッセージやテーマが詰め込まれている作品だと思います。お客様に観ていただいてさらに作品が深まっていくと思うので、明日の初日から千秋楽に向けて、また皆で冒険の気持ちを忘れず、小川さんと一緒に頑張って行きたいと思います」と話した。

そして、2階の客席から観劇していたジェレミーに日本人キャスト版の『ダディ』の感想を尋ねると、「こんにちは、ジャパン」と挨拶し、「まずは、若い頃からずっと日本に来たいっていうのが夢だったので、ここに来られて嬉しいです。皆さんに感謝を申し上げたいのが、日本のキャストの皆様が本当にこのプール、そしてこの作品に深く飛び込んでいただいて、素晴らしい作品にしてくださったと思います。この作品は僕にとってすごく個人的なストーリーでもあるんですけど、それが日本の皆様によって実現できたということは、この作品の普遍性を表しているのではないかと思います」と語る。

物語の舞台と日本とでは文化的な背景が異なっており、上演するにあたって理解を得られるか不安はなかったのかという質問には、「この作品を上演する時は、日本だけでなく常に不安があります。例えばニューヨークで上演した時、僕は南部の出身で、ニューヨークと南部も全く違う文化です。でも、毎回この作品が上演されるたびに、この作品について、そして自分について何か新たな発見をしています」と答えた後、「今日拝見して、その不安が飛びました。翻訳されることでちゃんとこの作品の伝えたいことが伝わるのかという心配があったんですけれども、日本語で拝見して、自分が考えていた元々のテーマを目の前に見せていただきました」と、日本版の『ダディ』の感想を寄せた。

それぞれが難しい役柄を演じている本作。苦労した点について中山は、「役柄を通して色々登場人物が背負うものは違うんですけど、その中で自分が何を欲していて、何を見つけたいのかっていうのを稽古の中でずっと毎日探っていたというところです。セクシャル的な問題に取り組んだということでは全くなくて、自分が欲しい愛はどこにあるんだろうということに関してだけのアプローチをし続けています」と、役柄との向き合い方を語る。

大場は、「多分全てのキャストの中で一番苦労したかもしれないと自分では思ってますけれども」と前置きしつつ、「まずこの作品を上演するにあたって、頭で理解するということが第一に必要かもしれないけど、今目の前にいる優馬くんや三鈴さん、亜美ちゃんや原くんと本当に舞台上で出会えるようにということを演出家が導いてくださって。だから自分のことを考えるよりもここの場所にいることを追求して、そのスタートラインに立つこと自体が一番難しかったと思います。でも今それがお互いが信じられてこの舞台にいると、それがすごくアンドレがその場で感じたように、自分が体験させてもらうというようなことがとても嬉しいし楽しいです」と話した。

原も「最初に台本を読んだ時から、全てが難しかったんですけども。この作品がどうやって形になっていくのか想像も出来なかったし、自分の役もゲイの役だけどすべてを理解することは出来ないんです。本人じゃないから。ただ、ジェレミーの書いた作品のメッセージをどうやって伝えていくかっていうのはすごく考えましたし、舞台なので生でここに存在すること、セリフの交換じゃない生の人間と人間のやり取りをこの場で見せるって言うことをそこに行きつくためにはもちろん全部セリフを入れて、深いところも考えてっていう地味な作業がずっとやってきたんですけど、それが今感覚として本当に存在出来ている感じがして、今はここからの本番がすごく楽しみです」と、作品への理解を深めた作業が身になった様子。

前島は、「私もベラニーという役について、どういう愛を求めていてどういう痛みがあってっていうのをすごく考え、悩み、そしてまだ千秋楽まで作り上げていこうと思っている段階なんですけれども、演出の小田さんと出会って、自分の役だけを理解しようとするんじゃなくて、皆で作る作品の事を、自分が出てないシーンも全て理解を深めたりだとか、ストーリーがどうやって進んでいって、お客様に何を伝えたいかっていうところをすごく考えたのは個人的にすごく新鮮な出会いだったというか、正解を教えていただきました」と、小田からの教えが響いたと話し、さらに「見た目としては、元々黒髪ベースの髪色をしているんですけど、ベラニーがインフルエンサーということで、髪の毛を染めに、初めてのブリーチをしたんですが、一回のブリーチだけじゃ足りないということで、初日ギリギリ、深夜までブリーチして完成させたので、髪色も見ていただきたいなと思います」と、笑顔を見せた。

舞台上に設置されたプールが特徴の本作だが、実際にプールに入ったことで身体が濡れたり、足元が滑りそうなど、普段の舞台に比べて配慮する点も多い。そのプールについて中山は「すごく刺激的ですよね!」と話す。
「舞台の裏でたくさんのスタッフの方たちがケアをしていただいています。僕たちは舞台上で濡れていることとか水が滴っていることとかも全てその時間を生きているアイテムの一つというか、その状況を表してくれるものなので、助かってる部分もたくさんあります」と、この作品ならではの部分と裏側を明かす。

「ただ単に楽しんでいます。コロナ禍になってからプールに入ってないんで。ここでは入れるんですよ!毎日、一日二回も!楽しいです!」と話す原に、「今日の天気なんかもばっちりですね!」と中山が返す一幕も。

さらに、大場も「ちゃんと温度調節がされていまして、そのスタッフさんがすごく気を使ってくださって。上演中はコントロールがされてないんですけど、空調との兼ね合いとかかなり綿密に計算されていると思います。なので最初入った時は大体温かいなと思って、逆に出た時にどうかっていうことをかなりケアしていただいて、水にぬれた状態で出て空調があると、やっぱりかなりきついことは確かです。でも今はそこをそんなに苦痛だと感じないけど……何回も入ってる人は?」と話しながら、キャストの中で一番プールに入る回数が多い中山を気遣うと、中山は「演劇をしている途中では全く気付かないんですけど。舞台公演なのでもちろん長い期間続きますし、そういう本番じゃない時のケアをするのがプロとしてやるべきことだと思っています」とコメント。

また、稽古場に水無しのプールのセットを組んで稽古をしていたとのこと。
「実際に水があるのとないのでは全然違いますね」と話す大場は、「そこから与えられるものっていうのはかなり大きいと思うし、このプール自体はすごく象徴的なものでもあるので、そういう意味で本当に水があってっていうことで身体で直に体験できるその大きさは本当に深いものがあると思っています」と、語った。

そして中山も、「特に僕にとってはただのプールではもちろんなくて、神聖なものになっていく一つの重要な要素なので、実際にこの劇場に来て、劇場の空間とリアルなプールのサイズと、水が入った状態で演じてみてより感じるものだったり、感覚というのはこの場に来て初めて受け取るものがたくさんあります」と、本物のプールでの演技によって得られたものがあったと話した。

そして、稽古期間中、小川絵梨子の演出を通して刺激を受けた部分や印象に残っていることについて聞かれた中山は、「この作品の全てを導いてくださる方ですし、フランクリンも絵梨子さんのお陰で生かしてもらっているなという印象です。僕たちにすごく寄り添ってくれて、最初の稽古でまだ本読みの段階で、繊細なシーンが多いし、それはお芝居をするのも人に見られるっていうことも怖いものなので、それは焦らずにゆっくりと進んでいこうということを教えてくださって、それですごく安心したというか、多分皆が絵梨子さんについて行こうと思った瞬間だったと思います。本当に細部にわたった丁寧に見てくださって、日々進化しているなっていうのが自分たちの肌感としても感じられています」とコメント。

「通し稽古よりも役を深める作業をたくさんした」という原の発言から、具体的にどのように深めていったのかという質問に中山は、「本読みの段階でセリフの一つ一つだったり会話だったり、ここはどういう意味があるんだろうとか、皆が持ってる疑問とかをシェアして、絵梨子さんを筆頭に「このセリフはこういう意味で、こういうことが起こっていてこういう時間が流れているんだ」っていうのを全てのシーンを丁寧にやっていった期間が2週間くらいありました」と振り返る。

大場も「最初の本読みの段階でそれぐらいかかっていると思います」と続け、「つまり普段喋っている言葉そのものに意味があるのではなくて、何が何をしているのか、その言葉を使いながら実は別の事をしていたり、そこに流れているものを見つけていく作業、それが全部最初から最後まで実は繋がってたりしていて、それはしっかり構造的に描かれている部分がありますので、セリフをどういうかじゃなくてそのセリフの底にあるものを皆で一つ一つ丁寧に見つけていって、それを繋いでいってるという作業をずっとしているんです」と、緻密にこの作品を作り上げていったことを明かした。

さらに原も、「例えば翻訳という面で、やっぱり英語で書いたものとそれを日本に持ってくる時に言葉のニュアンス一つで変わってしまう部分があって、そのすり合わせをずっとやっていましたね。最初もらった台本よりも、もっと日本人にどういう言葉でセリフを言ったら分かりやすくこの状況が伝わるのかっていう作業をしていました」と話すと、ジェレミーが「ちょっと付け加えたかったのが」と口を開き、「僕は大学時代に日本文学と翻訳という授業を取ったんですね。その時に学んだのが、日本語と英語のリズムの違いです。今日この作品を拝見していて、この作品がいかに深く細かく理解されていたかというのがすごく良く分かりました。それがリズムで伝わってきて、それが音楽とも相まってすごくよく伝わってきました。特に最後のティンパニが、フランクリンの精神みたいなものがセリフと音楽が一緒になってすごく良く表していたと思います。これは皆さんのお陰なので、本当に感謝しています」と、感謝を述べた。

中山と原は同じジャニーズ事務所所属ということだったが、お互いについて、中山は「事務所も一緒で、この作品が初共演ではないので、始まる前からもちろん頼もしさも感じていましたし、プライベートでも仲が良い二人なので、怖さが半減されるというか、そういう安心感はありましたね」と心強さを語った。
一方の原も「僕は優馬くんの作品を結構見に行かせてもらってますけど、やっぱり信頼感がすごくて委ねてました。作品が作品だけに、分からないことが多かったんですけど、隣にいてくれるだけで助かりましたし。あとは今回は、僕は筋トレを普段やってるんですけれども、ちょっと身体作りに筋トレをこの期間に初めて、そこだけは僕は先輩なので、色々教えてました」と、明かした。

最後に初日に向けたメッセージを代表して中山が、「文化の違いや人種の違いだったり、もちろんそれを演じることだったり、日本人にとってちょっと遠い問題なのかなと感じがちだと思うんですけど、そういうところが問題なのではなくて、人間なら誰でも感じる痛みがあったり、飢えであったり、愛であったり、そういったものがこの劇場のステージの上に息づいているんです。そういうものを見届けてほしいというか、舞台芸術としても素晴らしいセット、キャスト、スタッフさん含めて本当に素晴らしい最高のものが出来たと思っていますので、明日から千秋楽まで、この作品の流れている血を皆さんにお見せしたいなと思います。そして、この作品のタイトルの『ダディ』がどういう意味合いを持つのかというのをこの劇場で見届けてほしいと思います」と意気込みを語り、「ぜひ皆さん、濡れる覚悟をして見てほしいです!……冗談ですね(笑)」と最後は冗談で場内の笑いを誘った。

舞台『ダディ』は、7月9日(土)から7月27日(水)まで東京グローブ座、8月5日(金)から8月7日(日)までCOOL JAPAN PARK OSAKA TT ホールにて上演される。