
全世界でのシリーズ累計部数が8,000万部突破、荒川弘が描くダークファンタジーコミックの金字塔『鋼の錬金術師』。
2001年8月号から『月刊「少年ガンガン」』(スクウェア・エニックス刊)にて連載を開始、2010年7月号まで全108話が掲載され、2021年7月時点で全世界シリーズ累計部数は8,000万部を突破。通称『ハガレン』として数多くのファンから愛されている本作は、これまでにテレビアニメ、アニメ映画、ゲーム、実写映画と、数々のメディアミックスを繰り広げてきたが、この度、満を持しての初舞台化となる。
舞台化の発表に際し、東京・時事通信ホールにて製作発表会が行われた。
プロモーション映像が初公開された後、キャスト6名と脚本・演出の石丸さち子が登壇。
石丸は「本作のお話をいただいた頃は2.5次元作品を演出したことがなかったので、自分が適任かどうか分からなかった。けれど原作を全部読み終えた時には、私が一番適任だと思っていました。この舞台をぜひとも作らせてくださいと私の方からお願いをしました」と、作品に魅入れられたことを熱弁。
主人公のエドワード・エルリック役を演じる一色洋平は、「決まったご報告をいただいた時は人生で初めて最寄り駅から家までノンストップでダッシュするっていう奇行に走りまして。走ろうとして走るんじゃないですね。走っちゃうんですね。足が止まらない。気づいたらもう家っていう。そのぐらい湧き上がるものがあって走り出すっていうのは初めての経験で。それは本当に自分とって忘れられない夜の街の光景でした」と興奮気味に当時の喜びを思い返す。
オーディションの内容については、「石丸さんのオーディションは稽古でした。だからこのシーンをこのメンバーで作るぞって気概でやっていたので床は汗だくだし、だけどアクションシーンをやるから人の汗で滑りに滑り、七転八倒しながらシーンを作り、途中から誰がどの役を掴むかどちょっとどうでもよくなって、皆でこのシーンを作ろうってことに注力することになりました」と振り返り、「ピリピリしたものとかはなくて、健全に俳優たちが戦って、だから今二人でエドをやらせていただきますけれど、そこのオーディションにいた皆のエドも乗っかっている気がすごくしているんです。だからその人たちの分も背負ってやっていきたいと思います」と、他のオーディション参加者の想いと共に演じていると語る。
Wキャストで同じくエドワード・エルリック役を演じる廣野凌大も「役者人生の中で一番考えたオーディションになったというか、オーディションの段階から作って頑張っていこうと気合いを入れて行って、言葉で言い表せない体験をその時はさせていただいたんですけど、それが終わって合否を待っている時も、やりきったから悔いはないなというのは思ってたんですけど、改めて決まりましたよって連絡をいただいた時に、初めて腰が砕けました」と明かした。
アルフォンス・エルリック役の眞嶋秀斗は、「オーディションの期間は、時間を忘れるくらい楽しかった」と笑顔を見せ、「オーディションでは半日以上皆で熱を注ぎ込んでやっているので、身体にダメージもくるし、声もカスカスになったりするんですけど、そんなことどうでもいいくらい、審査を重ねるたびにこの作品に出たい、絶対出てやるぞっていう想いみたいなのが乗っかってきて。オーディション期間はとにかく芝居が楽しいなっていうのを感じていました。決まった時は嬉しかったです」と朗らかに答えた。
エルリック兄弟の幼馴染で、機械鎧(オートメイル)の技師でもあるウィンリィ・ロックベル役を演じるのはAKB48の岡部麟。「世界中の方から愛されている作品ですし、私の偏見かもしれないですけど、こういった作品をやる時にアイドルという肩書を持った者が演じると『お前出来んのか?』っていう目がもっと厳しくなると思うので、それをはねのけるぐらいのパワーで皆さんに負けないように頑張りたいと思っています」と意気込みを語る。
ロイ・マスタング役の蒼木陣は演出の石丸と縁があったようで、「実は舞台の現場で石丸さんとご一緒したことは無いんですけど、数年前に一週間ほどのワークショップをやっていただいたことがありまして。いつかこの方と作品をやってみたいんだっていう気持ちがあったので、ようやくこうやって作品で交わることが出来て、ましてや役もロイ・マスタングという多くの方に愛される役をいただいて、大きなプレッシャーはありますし毎日不安で夜眠れなかったりするんですけど、でもこの作品や役や座組の皆さんとの出会いを通して役者としても人としても大きく成長できる機会になるだろうなという想いでいっぱいです」と感慨にふける。
同じくロイ・マスタング役の和田琢磨も、「漫画原作の作品に携わって13、4年ぐらいになるんですけど、いつ『鋼の錬金術師』という作品が舞台化するんだってずっと気にしていた時に話をいただいてとてもありがたいですし、今回は主人公のエドワードとロイ・マスタングがダブルキャストということで、4人で2つの役を作り上げていくような気持ちで、すごく高揚感に溢れています」とコメント。
4ヶ月にわたるオーディションを経てキャスティングが決まったというエルリック兄弟。決め手について石丸は、「表現するもののエネルギーって“愛”と“怒り”だといつも思っているんです。廣野くんに会った時にものすごく怒りを強く感じて、一色くんとやった時に一番愛を表現することに迷いが無かった。怒りを強く出せる人は必ず愛を持って、そして愛を表現するのが上手い人は必ず怒りも持っていると思うんです。その二人を錬成すればエドワード・エルリックが出来ると思った」と、それぞれの印象を語る。
そしてアルフォンス役については「心と声が近い人を選びたかった」とし、「眞嶋くんは心が動いた時にそのまま声になってこちらに届けてくれたので、この人だ、と思った。そして弟として兄を見る目、兄を愛する準備を一番感じたんです。それで迷いなくいきました」と明かした。
それぞれが演じるキャラクターについての魅力は?という質問に一色は、「小学生の頃に漫画を読んでいた時はどうしても派手な錬金術の方に注目していたんですね。ところが大人になって読むとまず一巻の一ページ目で「痛みを伴わない教訓には意義がない。人は何かの犠牲なしには何も得ることはできないのだから」っていうのに食らうんですね。ダークファンタジーと謳われる理由はこんなところにもあったのかって。大人になればなるほど面白いセリフが散らばっていたんだと」と、漫画について熱弁。そして、「エドの描写もすごく痺れました。彼はまず10代半ばから物語がスタートするんですけれども、時折クッと本当に苦労した成人男性しかよらないシワみたいのがあったりするんですよね。そういうところもしっかりとやれていけたら良いなと思います」と、細部まで役になりきろうとする気概を見せる。
廣野も「大人になってから改めて『鋼の錬金術師』という作品に向き合った時に、全てがきらめいていて羨ましかったんですよね」と、子どもの頃に読んでいた時の受け取り方が変わったことを明かしながら、「エドたちはまっすぐ困難にがむしゃらにぶち当たっていって、それを持ち前の精神力だったりで乗り越えていくあの様が見ていてすごい気持ち良くて。『鋼の錬金術師』の中でもがいている二人を見て僕らがそれを感じるっていうのはどこかで憧れている部分があるんだろうなと。僕ら人間が憧れて羨ましがった上で、キャラを落とし込んで理解した上でやる意味っていうことに重大な責任感を思ったので、本当に決まって嬉しかったですし、生半可なものでは絶対にお届けしないので。ここにいるキャスト一同、“命と等価交換”でいけたらいいなと思いますのでこれからも末永く応援をよろしくお願いします」と覚悟を伺わせる。
アルフォンスについて眞嶋は「まず優しさがやっぱり魅力なんじゃないかなと思っています」と話し、「最後のオーディションでスーツアクターの方が動きをやられて、そこに声を当てるシーンがあったんですけど、それをやった時に初めてアルの鎧の姿での想いだとか、「元の体に戻りたい」っていうセリフがあるんですけど、それをどういう感情で言ったのか、そこがものすごく奥深いところだなと思って、まだ自分でも答えが見つからないんですけど、その答えを舞台を通して僕もしっかり向き合ってアルフォンスに魂を込めて、そしてスーツアクターの桜田航成さんと一緒に丁寧に演じていけたらいいなと思っています」とコメント。
岡部は「ウィンリィはおばあちゃんに育てられてはいるんですけど、まるで男の子の中だけで育ったような強さを持っていて、多分エドたちにとっても親の様な存在でもあるし、精神的にも機械鎧(オートメイル)としても二人の支え役という大切な役になってくると思うので。でも強さの中にも可愛らしさとか優しさがちょっと見えるところが可愛いところなのかなって思いました」と笑顔で語る。
ロイ・マスタングについて、蒼木は「当時小学生ぐらいの時に初見で読んだ時はかっこいいお兄さんだなみたいな印象が強かったんですけど、気づけば僕もロイとほぼ同い年になってしまい、原作を読んでいると大人の余裕とか隠しきれない優しさとか、たくさん魅力の詰まった役だなと思いつつ、一番は常に心の中で炎が燃えている、それが見え隠れしそうな、でもぐっと抑えているような役なのかなって印象が強いです」、和田は「ものすごく色んな意味で圧倒的な人間だと思っていまして。圧倒的ってどういうのかというと僕は2パターンだと思っていて、手を伸ばしても届かない高い人間か、どこまで底があるんだろうって深い人間かどっちかで、ロイ・マスタングは深い人間だと思っていて。深い愛情だとか信念、強さみたいなのを表現出来たら良いなと思っています」と、それぞれ感じたロイ・マスタング像を熱弁。
そして、発表会の中では舞台『鋼の錬金術師』テーマ曲『鋼の絆』が一色と廣野によって披露され、歌唱後には熱い抱擁も。
そして、最後に一人ずつメッセージを送る。
一色は、「エドは漫画の中で“格の違いってやつを見せてやる”というセリフがありますが、最終巻では“俺たちとお前の格の違い~”と変わるんです。今はまだどんな歌があるか、そして主演としてどう引っ張っていけるかドキドキも不安もありますけれども、初日には舞台ハガレンチーム全員で“俺たちの格の違いを見せてやる”と言い放てるような舞台を錬成したいです」と役柄のセリフをなぞり、力強く語る。
廣野は「エドとアルが自分たちの答えを見つけたように、僕たちも舞台『鋼の錬金術師』の答えを皆様の前で提示したいと思います。応援よろしくお願いします」
眞嶋は「『鋼の錬金術師』の世界の中に映る生き物の弱さだったり強さだったり、色んなことに僕自身力をいただいて励まされてきました。舞台として皆様にお届け出来るよう、このカンパニー一同で最高のスタートを切っていけるように頑張ります」
岡部は「なかなかこんなたくさんの男性の方に囲まれることがないので、正直オロオロしているところもあるんですけれど、でもウィンリィのように皆の心の支えとなるような、でも負けない度胸やパワフルさを岡部麟としても舞台の上で生きていけたらいいなと思います」
蒼木は「皆さまの心にずっと残るような作品を目指したいなと、座組一同、洋ちゃんと凌大に引っ張ってもらいながら、僕も精一杯頑張りたいと思います」
和田は「ロイ・マスタングのように、深い強さと深い愛を持ってこの作品に挑んでいけたらいいなと思っていますので、どうか二人の兄弟の物語を最後まで見届けていただけたらと思います」
そして石丸は「先ほど『鋼の絆』という歌がとうとう生まれました。このように偶然集まった人たちが一つ一つ生み出していって、それをいずれお客様にお届け出来るっていう、私たちの愛することがこんなに素敵な形で新しく始められるんだと思ってワクワクして。もちろんワクワクの裏側には恐怖があるんですけど、それをバネにして素晴らしい舞台を作り上げたいと思っております」と語り、製作発表会を締めくくった。
舞台『鋼の錬金術師』は2023年3月8日(水)から3月12日(日)まで大阪・新歌舞伎座、2023年3月17日(金)から3月26日(日)まで東京・日本青年館ホールにて上演される。
<あらすじ>
錬金術の盛んな国家・アメストリスに、そう呼ばれる国家錬金術師がいた。彼の名はエドワード・エルリック。史上最年少で難関の資格を得た天才錬金術師は、かつて最愛の亡き母を生き返らせるために、弟のアルフォンスと「人体錬成」という禁忌を犯していた。代償としてエドワードは左足と右腕を、アルフォンスは肉体の全てを失いからっぽの鎧に魂を宿す。絶望の淵に立たされた兄弟だが、失った身体を取り戻すことを決意する。
手がかりとして、莫大な力を持ち錬金術の基本原則を無視した錬成が可能になるとされる「賢者の石」を探し求め、兄弟はすべてを取り戻す旅を始める―。