
作家として芥川賞など数多くの賞を受賞し、劇作家としても多数の作品を発表した、昭和を代表する作家・劇作家・安部公房。PARCO劇場が43年ぶりに上演する安部公房作品は、翻訳版がヨーロッパなど世界各国でも上演され、国内でも度々上演されている傑作戯曲『幽霊はここにいる』。
「前衛的」「ナンセンス」といった言葉で表現される安部公房らしさに満ちた喜劇的作品であり、コーラスなど音楽的要素も効果的に取り入れた祝祭感やエンターテインメント要素の強い作品でもある。
この作品に挑むのは、翻訳古典劇から日本の近現代劇まで様々な戯曲と真摯に向き合い、その丁寧な演出で高い評価を得ている、PARCO 劇場初登場となる文学座の若手演出家・稲葉賀恵。
本作の主人公で、幽霊を連れており会話ができるという謎の男・深川啓介を演じるのは、PARCO劇場初登場となるジャニーズWESTの神山智洋。
そして、主人公・深川を取り巻く登場人物たちには八嶋智人、木村 了、秋田汐梨、田村たがめ、堀部圭亮、真那胡敬二、福本伸一、伊達 暁、まりゑといった個性豊かなキャスト陣が顔を揃えた。
「死」がかつてない身近さと、実感のなさを伴うようになった現代で、人は「死」とどうやって向き合い生き続けていくのか。実体の見えないものでさえ商品になり得るいま、この現代にも通じる物語に期待が高まる。
翌日の公演初日を前に、フォトコール及び取材会が開催され、取材会には神山、八嶋、木村、演出の稲葉が出席した。
初日に向けて今の気持ちを聞かれた神山は、「非常に稽古中は楽しくてですね、和気あいあいとした稽古場になって、その中でも八嶋さんがムードメーカーとしても良い空気にしていただいて感謝ですね。時間のないタイトな稽古スケジュールの中で、皆で一丸となって作り上げました。昨日の昨日までずっと修正してたので、本番始まっても修正できるところはもちろんしていくべきだと思うし、アップデートはこれからもし続けていきたいなと思います」と稽古の手ごたえとさらなる進化を語る。
八嶋は、「この作品は60年以上前に書かれた安部公房という作家の何とも刺激的な作品を、きっと神ちゃんのファンの方もたくさん見に来てくださると思うので、それがバトンタッチしていければいいかなと思ってます」と歴史ある作品へ思いを寄せながら、「演出の稲葉さんがイメージをより具体的に、よりブラッシュアップして作っていくために最後まで探求している良い座組だなって思います。そのエネルギーを皆さんに受け取ってもらえたらなと」とコメント。
そして、木村も「安部公房さんが60年前に書かれた戯曲がこの現代に蘇るということで、全くもって古臭くないので、絶対楽しめる作品になっていると思います。『幽霊はここにいる』って聞いただけでもホラーだなと思う方もいらっしゃると思うんですけど、純粋に楽しめるので、ぜひ劇場に足を運んでくれたらと思います」と語った。
そして演出を務める稲葉は「楽師の方を含めるとキャストは21人いて、裏にいるスタッフの皆さんも含めてかなり大勢の方々と一丸となって作ってきました。その中でもキャストの皆さんが前向きに舞台上で輝いているのを見て、早くお客様に観ていただきたいなという気持ちでこれまで舞台稽古を繰り広げてきたので、明日からがすごく楽しみだし、ここから成長していけるように日々健康に気をつけていきたいなと思っています」と意気込む。
今回の演出面のこだわりを聞かれると「私が演劇をやっている時に持っている視点の全てがこの戯曲に入っていて、20代の時からやりたかった戯曲だったので、音楽劇だったりコメディー、人を楽しませる要素がありながら、今の人たちに問いかけるものがものすごく多い作品だと思うので、自分事のように感じていただける目線が今だから多分作れているっていう。しかも神山さんが深川という役をやることによって、60年前のものではなく、自分事のように感じられる作品になったなとすごく感じています」と話す稲葉。
また、神山の印象について稲葉は「神山さんは芯がめちゃくちゃ強い。本当に芯が強くて正直だなって。すごく舞台上にいて嘘がない気がしていて、そうするとものすごく素直な声としてセリフがポンって聞こえてくるんですよ。それがすごく気持ちよくて、スペシャルな声を持ってる人だなって」と神山の声を大絶賛。
それを受けて八嶋が「化粧水ボイスですから」と補足し、神山も「スーッと染み渡るみたいです、私の声は」とまんざらでもない様子で返した。
さらに「あとは本当に熱い人だなって思います。ものすごく覚悟を持って前に立ってくださるので、すごく助けられました」と続けた稲葉。
その言葉を受けて感想を問われた神山は「全くその通りだと思います」と力強く返しながら、「でももちろん主演としての覚悟というのはもちろん持たないといけないものだと思ってますし、深川という役がこのお芝居の中で唯一幽霊が見えるという立ち位置なので、キャストの皆さんにも観に来てくださるお客さんにも幽霊の存在というものをしっかり認識してもらわないといけないということもあるので、本当に幽霊がそこにいるっていうことを常にイメージしながらずっとやってますし、台本の中にも幽霊のセリフがあって、そこでどういうことを言ってるんだっていうのは言いはしないですけど、自分なりにとか稲葉さんと考えたりとかしながら作っていきたいです」と本作との向き合い方を語る。
続けて神山は、「でも演劇って面白いなって毎年やらせてもらって思ってて、今回の『幽霊はここにいる』もそうですけど、僕自身そうやし見に来てくださる方たちも戦争を知らない方がほとんどだと思うんですよね。そういう人たちに、過去に日本でもこういうことがあったんだよ、その人たちの命の上に僕たちが立たせてもらってるんだよっていうのをこの舞台で感じてもらえたらなというふうに思っています」と使命感を熱く話した。
幽霊が見える設定は大変か?という問いかけには「最初はめちゃめちゃ大変でしたね。どうしても見えないものをお芝居が進んでいく中で『次はどこにいるんだ?』っていうのが多くて、最初は点でしかなかったんですけど、それを稽古をしながら線にしていくというか。自分の動きも幽霊の動きもしっかり作りながらやっているところではあります」と苦労を語り、記者から「本当に見えているように見える」と言葉があると「いますよ!今も隣にずっといます。たくさんいますよ!」と周りを見渡す場面も。
また、伝統あるPARCO劇場での主演が決まった時の気持ちを聞かれ、「喜びももちろんあったんですけど驚きの方が強くて、『僕なんかで良いんですか?』っていうのがすごくあって」という心境を明かした。
舞台用に髪形も変えたことを告げ、「お話をいただいたのが今年の春ごろだったんですよ。その時にちょうど髪の毛も伸ばしてたし、とりあえずお芝居で役柄がどうなるか分からんから、髪型が決まるまでとりあえず伸ばしとこうと思ってずっと伸ばしてたんですよ。黒髪にはライブの期間が終わってすぐにしたんですけど、このお芝居の中でこういう風にしてほしいっていう髪型が決まって、1年ぶりにバッサリ切って、キャストを含め稲葉さんもそうですけど色んな人から『可愛い』という声を非常にいただくんですよね。好評です!」と笑顔を見せた。
取材会の中でも神山と八嶋の息が合っていることが伺えたが、共演は今作が初めて。
神山について八嶋は、「20歳以上違うんですけど、僕よりしっかりしているっていう。僕が稽古の合流がちょっと遅れたもんですから、セリフがちょっとおたおたしたり、さっき皆さんに見ていただいた中(フォトコール)でも、いくつか僕は間違いを犯してるんです。それをものすごく落ち着いて、どんなに僕が悪球を投げても胸元にちゃんと返してくれるんです。だから僕も次の球を投げやすくて、それはびっくりしました。常に色んなアクシデントが舞台上で起こりますけど、一番落ち着いて全部対処しているのではないかなという落ち着きと、ジャニーズの方は皆そうかもしれませんけど、何か段取りがついた時に覚えるスピードが早いですね」と称賛。「安心です。座長がこういう方だと周りがわちゃわちゃしても、稲葉さんが作った作品自体はぶれないということで言えばとても頼りがいがあるんじゃないかなと思います」と、座長・神山の姿について語った。
八嶋が演じるのは、深川が出会う怪しげな元詐欺師・大庭三吉で、物語では一緒に行動しているシーンが多い。
「大体ずっと一緒で、最後はもう一人になります」という八嶋の言葉に、一瞬静まり返る会場。そこで神山が「僕たちがフュージョンするっていう」と一言があり、「こうやってポカーンとした空気をちゃんとフォローしてくれるんです!」と座長の頼もしさを証明する八嶋。
深川の幽霊話を信じようとしない新聞記者・箱山義一を演じる木村は、「八嶋さんが言う通り神山くんはものすごく落ち着いていて芯が通っているので、こちら側が何をしても全部受け取ってくれるし真っ直ぐ返してくれるのでとてもやりやすいですし、八嶋さんは本当に太陽の様な方なので、稽古場にいるだけで明るくなるし、本当にバランスの取れた稽古場で、そこで稲葉さんがいることで統率がとれた座組になっていますので、本当に多くの方に舞台を見ていただきたいなって思います」とそれぞれの印象について語る。
作品にちなみ「幽霊であっても会いたい人は?」という質問が。
「それはもう僕はジャニー(喜多川)さんですね」と答える神山は「ジャニーさんはやっぱりすごい偉大な方ですし、僕自身を見つけていただいて、デビューさせていただいてっていう。で、今色々お仕事をさせていただけるようになったのも本当にジャニーさんがいたからやと思ってます。芸能界の父やと思ってるんで、幽霊になってでも会いたいなって想いはもちろんありますし、僕も含めジャニーズWESTのライブであったり舞台だったり芸能の活動を、ジャニーさんはどこかで見てくれてると思うんですけど『頑張ってるよ』っていうのをしっかり伝えたいですね」と力強く回答した。
八嶋は、「亡くなった方ということを考えると、僕は自分が思っていればいつも会えるって気がするんですけど、会話はできないんですよね。僕はお喋りだから何でも良いから返してもらいたいなっていう。コミュニケーションが取りたいっていうのがあるので、なんか照明が急にパーンって割れたりとかポルターガイストとか、年を重ねていくと怖いというより『誰かいるのかな?』って思うと嬉しくなるので。限定した誰かはいないですけど、こういう商売をしてるからか常にいる感じはするんですよね。だから楽しいです。大勢いるって感じです」と話す。
木村は「僕も20年くらいこのお仕事をさせていただいているんですけど、ジャニーさんには一度も会ったことがなかったので、一度会ってみたかったなっていう想いはあります」と明かし、「日本のエンターテイメントを作った方なので、どういう思想があったのか、その先はなんだったのかっていうのが、すごく世界に目を向けていたのかそういうところは直接会って聞いてみたい」と語った。
そして、稽古期間中に行われていたワールドカップの話題になると、八嶋から「これ聞きたかったんだけど、僕はちょこちょこ見てましたけど、この芝居を作るっていう稽古場の空気が熱かったんで、言って良いものなのかどうか……。皆見てるのか見てないのか分からなくて、稽古場では話をしなかったんですよ!見てた?」と舞台上で確認する場面があり、神山は「僕はクロアチア戦だけ見ました。本当にいい試合でした。家でウオ~!って」、木村は「ちょこちょこ見てました」、稲葉は「一切見てないですね」と明かした。
日本代表へのメッセージを求められた神山は「僕で良いんですか!?」と恐縮しながら、「僕はクロアチア戦しか見れてないんですけど、本当に惜しい試合でしたね。PKまで行ったし、史上初のベスト8まで行ってほしかったなっていうのはもちろんあったし、悔しい想いは選手の皆さんの方があったと思うんですけど、日本が一丸となって応援してたと思うので、感動しました」と言葉を送った。
八嶋は「SNSでそんなたくさんではないですけど、長友(佑都)さんが『ブラボー!』っておっしゃったのが“八嶋智人みたいだ”っていうのが流れてきたんですね。だから舞台上で『ブラボー!』って言ってます。今お見せしたシーンでもうっすらと言っていたんですけど、本番ではもっとはっきりオマージュとして言っていこうと思います」と宣言。「舞台もセリフのパス回しですし、アイコンタクトも必要ですから」とサッカーに重ねる八嶋に、「実質ここもワールドカップです」と返す神山だった。
最後は神山からメッセージとして、「最後まで怪我無く病気も無く一人も欠けることなく、キャスト、そしてスタッフ、さらには幽霊一同、この会場で皆さんのことをお待ちしておりますので、ぜひとも楽しんでこの『幽霊はここにいる』という世界観に飛び込んでもらえたらなと思っています」と意気込んだ。
パルコ・プロデュース2022『幽霊はここにいる』は、2022年12月8日から26日まで東京・PARCO劇場、2023年1月11日から16日まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される。
<物語>
元・上等兵で、いつも幽霊を連れているという不思議な男・深川啓介(神山智洋)。その幽霊は生きていた頃のことを覚えておらず、深川は幽霊の身許捜しをしていた。とある街にたどりついた深川は、うさん臭げな男・大庭三吉(八嶋智人)と出会う。大庭の妻・トシエ(田村たがめ)と娘・ミサコ(秋田汐梨)は不審に思うが、大庭は、深川が幽霊と会話出来るということを知ると、これはいい商売になると考え「死人の写真高価買います」というビラを町中に貼り、幽霊の身許捜しを兼ねた珍商売を始める。それを怪しむ新聞記者・箱山(木村了)は彼らの動きを探るも、地元の有力者や町全体をどんどん巻き込み、一大事業に発展していく・・・・・・。