
本作は、2018年に韓国で初演、2021年の韓国ミュージカルアワードで大賞をはじめ5冠を総なめにした、創作ミュージカル。
19世紀ヨーロッパ、まだ科学が男性のものだった時代に、元素ラジウムの発見をするなど、女性研究者の道を切り拓き、2度のノーベル賞に輝いたマリー・キュリーの情熱と苦悩、そして研究者としての強い信念を、Fact(歴史的事実)とFiction(虚構)を織り交ぜ、「ありえたかもしれない」もう一人のマリー・キュリーの物語として描く作品となっている。
この話題の『Fact(歴史的事実)×Fiction(虚構)=ファクション・ミュージカル』を、小劇場から大劇場、ストレートプレイ、ミュージカルと多種多様なジャンルの作品を精力的に手掛けている鈴木裕美の演出で、日本初上演となる。
主演は、宝塚歌劇団在団中のトップ娘役在任期間が6年7か月と歴代三番目の長さを誇り、2018年の退団後はミュージカル『エリザベート』、『泥人魚』、『マタ・ハリ』といった舞台作品から、大河ドラマ『青天を衝け』への出演など、飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍をみせる愛希れいか。これまでにもエリザベートやマタ・ハリなど、数々の気高き女性を演じている彼女が主人公マリー・キュリーに扮する。
共演には、近年は『レ・ミゼラブル』『エリザベート』などの大型ミュージカル作品への出演が続いている上山竜治、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』での鮮烈なデビューを経て、現在に至るまで舞台・映像作品に立て続けに出演している清水くるみ、俳優としての活動のみならず、振付や、LIVEプロデュースなど多方面で活躍をする屋良朝幸といった、多くの作品で経験を重ねてきた実力派俳優が顔を揃えた。
公開稽古では3シーンが披露された。
まずは、20代のマリー(愛希れいか)が大学進学のためパリ行の汽車に乗車し、親友となるアンヌ(清水くるみ)に出会い、互いの夢を語らいながら未来に胸を躍らせ、再会を誓い合う「すべてのものの地図」。
続いて、講演を行う投資家のルーベン(屋良朝幸)の元に集まる科学者たちの数ある論文の中から、マリーの論文に興味を持ち、研究に支援することを約束する「遠い世界へ」。
そして、研究室でラジウムの新たな可能性について仮設を立てるマリーと夫のピエール(上山竜治)。ルーベンを説得し新たな資金援助を受けた2人は、ラジウムが不治の病を治す希望になることを信じ、研究へと突き進む「予測不能で未知なるもの」。
公開稽古の後に行われた取材会には、愛希、屋良、上山、清水、演出の鈴木が出席。
公開稽古を終え、愛希は「私は稽古場公開というのが初めてでして、どういう風な気持ちで挑もうと思ったんですけれども、今までの稽古にはない集中力を感じまして新鮮だったんですけど、今日ちょっと今やってみて発見があったので」と話し、「あとマスクをして毎日稽古させてもらっているので、初めて相手の方の表情が見えました。すごく新鮮だったので、私自身がすごく勉強になりました」と笑顔を見せた。
屋良は、「マスク無しだとこんなに喋りやすいんだなと。やっぱりこのご時世ですから稽古も大変な中やっていて、本番になったら皆さんの表情が見えるかなと思っていたんですけど、今日改めて見て、可愛らしいなと思いながら……」と顔を見渡し、愛希や清水が照れ笑いする一幕が。「口元の表情って大事だし、皆の素敵な表情が見られて良かったです」と続けた屋良だが、「可愛らしかったですか?」という上山からの問いかけには「上山さんはそうは思わない(笑)」とバッサリ。
上山は「愛希さん演じるマリーさんと共同研究をしながら献身的に支えていく夫のピエール・キュリーを演じます。よろしくお願いします。あとは皆さんと同じ気持ちです」と役柄を説明。
清水は「マスク無しでやることが本当に久々なので、どうやって口を動かしてたっけな?みたいな気持ちにもなったり、皆こういう表情してるんだなって思って、この稽古自体が良い経験になったのと、稽古場公開を見ていただくことによって、本番では舞台上でどうなっていくんだろうって思っていただけると思うので、ぜひ色んな方に見てもらいたいなと思います」と期待を寄せる。
そして演出の鈴木は「本日これから2回目の通し稽古を予定しておりまして、稽古は皆ですごく話し合ったり意見を交換したりをとても頻繁にやって順調に進んでいますので。また、マスクがないと1個も2個も相手役からもらえるものとかが多くなって、本番ではもっと豊かな表現になると思いますので、どうぞご期待ください」とコメント。
それぞれの役どころについて改めて聞かれ、主人公のマリー・キュリーを演じる愛希は「最初にお話をいただいた時は、小学生の頃に読んだキュリー夫人のイメージが強かったんですけど、この作品の中でのマリー・キュリーというのは、ベースはもちろん変わりませんし、ノーベル賞を受賞した彼女なんですけど、とても人間らしいと言いますか、今回はファクション・ミュージカルなので、史実とフィクションが織り交ぜられてるということで、皆さんがご存じのマリー、プラスアルファ人間らしいところが出ていて、私はとても共感出来たり、心を寄せられる部分がとても多いなと感じています。なので、ここで喋りたいことはいっぱいあるんですけど、見に来ていただきたいです!」とガッツポーズを見せた。
投資家のルーベンを演じる屋良は、「とても不思議というか異質というか、そういうキャラクターで存在しているんですけど、自分の目的を果たすためにマリーを利用しているという部分と、あとはお客さん目線で、お客さんと同じ気持ちでシーンを見ている。もう一つは、これは僕の勝手な観点ですけど、シーンを牛耳っているような、色んな角度からの演じていてルーベンを自分の中で感じていて、それが実在するルーベンだったり、時空を超えているルーベンだったり、というのがある意味日本版ならではなのかもしれないし、ファクション・ミュージカルっていう意味で言ったらダンスっていう部分でもそれを表現してたりしていて、すごく演じていて面白い存在だなと思うし、こういうキャラクターを今まで自分が演じてくることも無かったので、新しい自分の引き出しを自分でも見させてもらってる感覚ですごく楽しいです」と役柄を解説。
そして冒頭で既に役どころを話してしまった上山は「本当にすみません!」と恐縮しながら、「私史上一番優しい役です。革命家だったりとかテロリストの役とかが多かったので、すごく新鮮な気持ちで、温かい気持ちでやらせていただいてすごく楽しいです」と、微笑んだ。
清水が演じるアンヌは架空の人物だが「もしもマリーがアンヌという人物に出会っていたら、っていう話になっています。裕美さんの言葉を借りるなら、稽古中何度も言ってくださるんですけど、”マリーが静”だったら”アンヌは動”、マリーが”クラスで勉強が1番出来る人”だったら”運動が一番出来る人”みたいな、対比している役になっています」と語った。
稽古場の様子を聞かれると、「頭すごい使うよね!ずっとラムネ食べてるもん!隣の席の屋良さんとずっと食べてる」と話す上山に、屋良も「上山さんがずっと食べてるから僕もそれに影響されて食べちゃってるんですよ。“集中力が上がる”とか書いてあるから」と、続けると清水が「お菓子の交換を良くしてますよね」と上山と屋良の可愛らしい一面を暴露。
鈴木が「求められてるのはそういうお菓子の話題じゃないんだよ!」と思わずツッコミながら、「でも難しいからね、言葉も。科学用語も。だから疲れる気持ちは良く分かる」と共感。
キャスト同士それぞれの印象について、愛希と上山はミュージカル『エリザベート』で共演したばかり。
役柄は全く異なるようで、上山が「前回は僕がストーリーテラーとして命を狙うためにずっと外から見てて、目も合うこともなくずっと見てて、ずっと狙っていたっていう役で、今回は逆に守る役っていう」と語り、愛希も「だからそういう意味ではものすごく新鮮ですし、自分が思いつかないところからアプローチしてくださったりするので、そういうのは本当に面白いなと思って」と。
屋良とは初共演となる愛希は「マスクされてて目力がものすごいので、その目力に、どうしよう……ってやられそうになって、頑張って立っていなきゃっていう。なんかそれをずっと感じていて」と屋良の目力を感じながら「あとは集中力がものすごくて、振り覚えがものすごく早いんですよ。驚きの集中力で!」と絶賛。
屋良は「これはジャニーズで無茶苦茶な経験をしてきた賜物かもしれないです」と冷静に答えるも、さらに鈴木から「だって15分休憩しますって言って休憩終わったら1曲振りが付き終わってたもんね」と屋良のすごい一面が明かされる。
「しかも簡単な振りとかではなかったじゃないですか。だから、これをあの時間で!?っていう、その集中力には本当に驚きで、そういうストイックさを目の当たりにして、私も勉強させてもらいますって感じです」と続けた愛希。
そして、清水については「くるみは、席が隣で話し合いながら本当に親友みたいな感じで作らせてもらってて楽しいです」と役と同じく親友の様な空気感を作れている愛希だった。
演出を務める鈴木から見たキャスト陣にの印象について、愛希は「非常にストイックな方だと思っていたんですけど、今回初めてご一緒させていただいて、稽古をしていてもすごいストイックで、マリー・キュリーが猪突猛進なところっていうのはご本人も似てるって思ってるんじゃないかなと思います」と語る。
屋良には「前から存じ上げてはいたんだけどご一緒するのは初めてで、何本も作品を拝見しているんだけど、今回はちょっと不思議な役じゃないですか。でもすごく似合ってると思う。あんまりこの役見たことないけど、ちょっと悪口になるかもしれないけど、サイコパス気味なところもすごく似合ってると思うし、あんまり私は見たことがないアニメーションっていうダンスの技法があるんですが、それで歌って踊る、これはちょっとネタバレになっちゃうかもしれないけど、それで歌うのは本邦初じゃないかなと思いますけど、そのアイデアを出し合うのとかが楽しいですね。『こここれ入れてみて、好きに』って言ってるだけであとは任せてるところがたくさんあります」と見どころを明かした。
上山には「今まで何度もやってて、時々言ってることが分からないし私の言ってることも分からない、謎の和みタイムがあって(笑)。ただものすごくオリジナルな発想があったり、そこでその感情にそこまで沸点が上がれるのかみたいなところに救われることもすごくあるんですけど、芯が強かったりする部分があるので、非常に稽古してて愉快だし、今回は非常に本人が言っているように優しい包容力のある役で、根が本当に優しい人だと思うので、そういう意味でも彼も役に合ってるなって思います」と、人柄に触れた。
そして清水には「お芝居をご一緒するのは2回目なんですけど、よくご飯とか食べてたりする中で、すごく彼女は正直者だと思うんですよね。それは今思ったことを口にして大丈夫か?って思う時もたまにあるけど、でもそこがアンヌと似ているというか、「『いやいや、これ正しいよ』って思うことを口にするようなところで、非常にご本人と皆さん似てるところがあって」と共通点を挙げ、4人とも通じて本人と役で似ている部分があると話す鈴木。「似てないところもあると思うんですけど、似てる部分がはっきりあるのは、演じてて面白いんじゃないかなと思いますし、おすすめポイントでもあるし、見てるお客様も違和感なく見ていただけるんじゃないかなと思っているところです」と語った。
韓国ミュージカルが日本初上演ということで、日本版ならではの見どころを聞かれると、トップバッターに「はい!」と挙手した清水。「ミュージカルなんですけど、裕美さんの演劇的理解をキャスト側に求める感じがあって、ミュージカルよりも演劇を見てるって感覚になるのが日本ならではなのかなって思います。そこが『これこういう意味だったんだ!』ってキャスト側も想いますし、めちゃくちゃミュージカルだけど演劇だと思いながら演じているので、そこは見てくださる方にも面白いなって思っていただけるポイントじゃないかと」と語り、「あとは屋良さんが踊りますから!」と隣に座る屋良の方を見る清水。
「じゃあ僕もいいですか?」と挙手し、2番手に名乗りを上げた屋良は「裕美さんがアニメーションっていうダンスのスタイルがあるって言ってたんですけど、今回はキャストに様々なコンテストで優勝したり賞を取ったりしている聖司朗くんが、本当に異質な空間を作ってくれてて、さっき言った通りミュージカルっていうジャンルの中では本当に新しい表現だなって思ってて、聖司朗くんと二人で踊らせてもらうナンバーとかあるんですけども見たことないですよね。アニメーションをやりながら歌うっていう自分的には新しいチャレンジなのでめちゃくちゃ楽しいし、ちょっと聖司朗くんを推したいなと思います!」と、共演するキャストを熱烈プレゼン。
上山は「群像劇のように一人一人が個性豊かで、本当に素晴らしいキャストの皆さんで楽しいしもらうものもたくさんあるし、今回裕美さんの演出でコンテンポラリーダンス的な要素だったりとか、これぞ鈴木裕美演出っていうような部分がすごくあって、日本ならではの解釈でやってるので、これは向こうのスタッフの方たちも『これはちょっとやられたな!』ぐらいな感じに思ってもらえるところはあるんじゃないかというような、すごく想像を搔き立てられる作品になってるので、2回ぜひ見ていただけたら見え方が違うと思います」と複数回の観劇を勧めた。
そして、鈴木は「ファクション・ミュージカルという真実と虚構が織り交ざってあるミュージカルで、非常に大胆な虚構を事実に入れることによって非常に劇的なうねりっていうのを生み出せてると思いますし、曲がすごくいいです。素晴らしい楽曲だなという風に思ってますし、やはりそこは韓国の演劇やミュージカルファンの皆さんはその辺りとても期待されるところじゃないかと思いますけど、すごくエモーショナルで劇的な、感情がほとばしるというようなシーンがあるし、それをほとばしらせるのにちゃんと支えてくださる楽曲があって、それはすごくミュージカルとして楽しい、しっかりした部分だなと思いますし。歴史の勉強をするつもりだとちょっと違う。マリーという人が外国人であったりとか女子が科学をやるものとして認められていない中でどうやって生きていくのかっていうところを史実としてではなく、楽しんでいただけるものになっているんじゃないかと思います。あとはスタッフも含めて皆すごく働いています」と熱く見どころを語った。
最後に、代表して愛希からメッセージ。「稽古も佳境となっていて、まず日本初演ということで色々乗り越えなきゃいけない壁というか、初演ということでやらなければいけないこと、分からないことが多いですし、そういうところを皆でアイデアを出し合いながら、力を合わせながら稽古をしている段階です。マリー・キュリーと聞いて科学者・ノーベル賞を受賞した、ということでなんだか難しいんではないかって思われる方がきっと多いと思うんです。でも先ほど楽曲披露させてもらったんですけど、それ以外にも科学的な部分だけじゃなくて人間ドラマだったり皆の熱量の高いエネルギッシュな舞台になっていると思いますので、難しそうだな、なんて思わずにぜひ一度劇場に足を運んでいただけたら、そのご期待にお応え出来るように頑張りますので、来ていただけたら嬉しいです。お待ちしております」と取材会を締めくくった。
ミュージカル『マリー・キュリー』は、2023年3月13日(月)から3月26日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場、4月20日(木)から4月23日(日)まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演される。
<あらすじ>
9世紀末、マリー(愛希れいか)は、大学進学のため、パリ行きの列車に乗っていた。そこで出会ったアンヌ(清水くるみ)と希望に胸を躍らせ、当時、少なかった女性科学者として、研究者のピエール・キュリー(上山竜治)と共に新しい元素ラジウムを発見し、ノーベル賞を受賞する。ところが、ミステリアスな男・ルーベン(屋良朝幸)が経営するラジウム工場では、体調を崩す工員が出てきて……。
撮影:平野祥恵