撮影:岡千里

本作は、世界的ロックバンド・ビートルズの創成期を描いた1994年公開の伝記映画『BACKBEAT(バックビート)』を、イアン・ソフトリー監督自ら舞台化。結成当初は5人編成だったビートルズに、メジャーデビューを待たず袂を分かつことになるバンドメンバーが存在した…という史実が基になっており、日本では2019年に初演、2023年に再演。翻訳・演出は石丸さち子、音楽監督は森大輔が手掛け、ビートルズ結成時のメンバーたちの葛藤や心の揺れを描く青春物語を再び創り上げる。
今回の公演では、森による書き下ろし楽曲に加えて、さらにブラッシュアップされた舞台セット、演出での上演となり、再再演にして深化し続ける舞台『BACKBEAT』に期待が高まる。

絵画の才能を持ち唯一無二の不思議な魅力でジョン・レノンをも惹きつけるスチュアート・サトクリフ役は、芸術を追求し独特のオーラを放つ戸塚祥太(A.B.C-Z)だからこそ成しえる。ジョン・レノン役は、決して綺麗な歌声だけではない、当時のジョンの喉を酷使したしゃがれた声を見事に表現する加藤和樹。後に世界的大スターとなる彼の垣間見えるカリスマ性を映し出す。

撮影:岡千里

ジョージ・ハリスン役は、初演の際はギター初心者だった辰巳雄大(ふぉ~ゆ~)が誰よりも長い時間ギターと向き合い、「静かなるビートル」の愛称を持ち音楽を愛したジョージの人生を体現する。ポール・マッカートニー役は、自身のバンドでは右利きでギターを奏でるJUON(THE& ex FUZZY CONTROL)が、ポールを忠実に演じるために左利きを習得。舞台経験がなかったJUONが参加することでロックの風を吹き入れ、欠かせない存在となった。複雑な心情を持つこととなるピート・ベスト役は、上口耕平が繊細に演じ、下積み時代に重要な役割を果たした彼の存在意義を見出す。
19年の初演から熱量高く演じ、絆を深めてきた5人が若き日のビートルズとして再集結。各自の役割が明確に出来上がっている彼らが、再再演となる今回はより一人一人の存在感とそれぞれの関係性を浮き彫りにし、ストーリーに深みを与える。
さらに、劇中の20曲以上もの楽曲を生演奏し、ただ楽器を奏でるだけでなく、ビートルズの音に近づけるため個人の癖や声質をも研究を重ね、今となっては聴くことが出来ないビートルズサウンドを蘇らせる。ビートルズ本人たちが使用していたモデルの楽器で演奏する楽曲もあり、ファイナルとしてこれ以上ない環境が整った。

撮影:岡千里

ビートルズに大きな影響を与えるアストリッド・キルヒヘア役は愛加あゆが再演から続投。今作初出演でカンパニーに新しい風を吹き込む林 翔太がクラウス・フォアマンとリンゴ・スター2役を演じる。
加えて、鍛治直人東山光明田川景一安楽信顕と個性豊かなキャストが揃った。そして、1966年のビートルズ来日公演の際に前座を務め、彼らの貴重な生演奏を間近で体感している尾藤イサオが初演・再演に引き続き出演。尾藤が“キング・オブ・ロックンロール”と称されたエルヴィス・プレスリーのナンバーを歌唱する姿にも注目。

撮影:岡千里

先日発表された第40回日本ゴールドディスク大賞では、「アーティスト・オブ・ザ・イヤー(洋楽)」をGD大賞史上最多となる10度目の受賞を果たし、変わらぬ人気を証明したビートルズ。そんなビートルズが日本を熱狂させた初来日から60年。羽田に降り立った瞬間も、武道館で鳴り響いたあの一音も、今なお伝説として生き続けている。世界を変え、歩み始めた“原点の物語”『BACKBEAT』が、この記念すべき年に甦る。

【オフィシャルレポート】
2019年、粗削りなバンドサウンドが持つパワーと、若きアーティストたちがビートルズを体感する喜びが満ち溢れた初演。2023年再演、“彼らのビートルズ”はひとつのバンドとして確立そして覚醒。約20曲の生演奏には、間違いなくビートルズの物語が宿り、役者が役を纏って演奏することの崇高さを知る。
そして2026年。奇しくもビートルズ来日60周年のこの年にFINALと銘打った『BACKBEAT』が開幕。彼らのサウンドと生きざまともいよいよお別れなのかと寂しさが過るも、プレビューを拝見し、観客でありながら達成感のような感覚を得た。戸塚祥太、加藤和樹、辰巳雄大、JUON、上口耕平――この5人のビートルズが、ある種の完成形を観せてくれからだ。『BACKBEAT』にあるのはアート、時代を司る音楽、青春の息吹、友情、情熱、恋、憤り、苦悩、嫉妬、光と闇を持つ未来……どの要素も濃厚なビートルズのリアルストーリーを構築する。FINALはその要素のバランスが抜群!何かが特出して爆発しておらず、避けられなかった悲しみが喜びを消し去ることもない。どれも、この時代にビートルズに起こったことなのだと、スーッと胸に収まっていくような説得力がある。
戸塚スチュアートはスチュの持つ激しさよりも静寂さの精度が際立ってきた。2幕の途中からはもうあちらの世界に近いような神がかった気配があり苦しむ目さえ美しい。加藤ジョンは苦悩の人間味が深く、我々が知らないジョン・レノンまで見せてくれるような多彩さ。辰巳ジョージはチャーミング過ぎて、この人のおかげでジョージ・ハリスンの人生をもっと知りたくなるほどだ。JUONポールは初演時は演技面では初心者だったが、優秀な俳優陣の中いて、もはや全く遜色ない。JUONの俳優としての魅力に気づけたのは得でしかない。上口ピートが演じたやるせなさ、悔しさは誰もが共感し得るものであり、そこで倒れない強さが刺さる。
忘れてはならないのが、アストリッド役を演じた愛加あゆの存在だ。愛加の迫真の演技が、物語に深い陰影と人間的な温度を与えている。今回初参加の林翔太は2役を担い、リンゴ・スターとしてドラム演奏もお見事。スキルメンと呼び声の高い林翔太を見せつけた。
そして、ビートルズ来日時に前座を務めた尾藤イサオが歌うエルヴィスのナンバーは必聴。技術も味もスペシャルだ。ほか、『BACKBEAT』の世界観を隅々まで描くすべてのキャストがFINALに集結した奇跡。これから始まるツアーを見逃すことなく音楽と共に胸に刻んでいただきたい。

撮影:岡千里

取材・文:堀江純子
撮影:岡千里