――舞台『染、色』に出演が決まった時のお気持ちを教えてください
世の中が大変な状況ではありますが、そんな中で初めて舞台に出演出来る機会をいただけて、本当にありがたくて幸せだなと思いました。不安もあったんですけど、早く皆様の前でお芝居をしたいっていう気持ちの方が強くて、ワクワクしています。
――『染、色』は加藤シゲアキさんの短編小説集『傘をもたない蟻たちは』に収録されているお話です。原作を読んでみた感想は?
原作は主な登場人物が3人で、主人公と、私が演じる杏奈と、主人公の浮気相手となる美優がいるんですけど、主人公が杏奈といる時と美優といる時で相手に対する接し方が違うんです。美優といる時は理想の自分で居られるような、すごく生き生きしているのに対して、杏奈には少し冷たくて生々しい会話もするような感じで、接し方に差がありすぎて杏奈のことが純粋に可哀想だなって思いました。こんなに好きで、主人公への想いが強いのに……って。原作では主人公が思う杏奈像しか描かれていなかったので、どのように演じたら良いのかを少し悩みました。

――舞台の台本を読んで、その悩みは解決されましたか?
舞台では主人公・深馬(正門良規さん)の周りにいる美大生の友だちとの関係性も描かれていて、深馬との距離感とかがより分かりやすくなって、杏奈への理解が深まった印象がありました。また、舞台の方でも深馬の接し方にやはり差があって、三浦透子さんが演じる真未と深馬はどんどん深い関係になっていくんですけど、その時杏奈は一人で深馬が何しているのか考えたり、深馬のことを知りたいっていう好きな想いだけがどんどん強くなっていくんです。そんな三角関係が濃く描かれています。
――杏奈は深馬のことを考えているのに深馬の気持ちは離れていく、というのは苦しいですね
演出の瀬戸山(美咲)さんには真未と杏奈を対極的に描いて、杏奈は痛々しい子にしたいと言われました。冷たく接する深馬に対して、それでも杏奈は深馬のことが好きで追いかけたいし自分のことを知ってほしい、深馬のことももっと知りたい、っていう気持ちを強く持って演じてほしいと。
――杏奈はすごく健気ですね
どれだけ好きって伝えてもあんまり反応を示してもらえないのは寂しいんですよね……。連絡とかも自分から一方的にするけど、あんまり重いと思われたくない、みたいな。健気で純粋で、すごく複雑な想いを抱える女の子です。
――杏奈を演じる上で気をつけていることはありますか?
関係性をよりはっきりさせるために、声の作り方を少し意識してほしいと言われました。深馬といる時は嫌われたくないので少し明るめで作り込んでいるような声で、周りの友だちに対しては明るく自然体な声、といった感じで声を使い分けるようにしています。
――そもそも舞台は映像とはまた違う発声になると思うので、そういった面も大変かと思いますがどうですか?
今まではマイクを通してのお芝居がほとんどだったので、大きな声を出すことが少なかったんですけど、声を出さないとお客様には届かないのでそこは頑張っているところです。でも声を大きく出そうとすると母音や語尾が強くなってしまうんですよね。杏奈は全体的に柔らかい雰囲気の女の子なんですけど、言葉の所々が強くなってしまって。
――口調が強くなると印象も変わりますよね
そうですね。なので大きな声は出すけど強くなりすぎないように気をつけています。

――稽古を重ねる中で、杏奈と黒崎さんで何か共通点はありました?
素直というか、真っ直ぐなところは私と通ずるものがあるのかなと思いました。私も感情や気持ちをストレートに伝える部分があって、深馬に対しての気持ちを前面に出してくる杏奈と似ているなって思います。あとは、杏奈が意図的に笑顔でいるシーンも多くて、寂しいけどそれを悟られたくなくて、気を遣わせたくないって思っている部分があって、そういうところも少し似ているのかな、と。
――深馬演じる正門さんの印象はどうでしたか?
正門さんは、初めてお会いした時に空気が柔らかい方だなって印象でした。喋り方とか考え方とかすごく自分の言葉を大切にしていて、あとは場を和ませてくれて、常にニコニコ笑っているすごく素敵な方です。
――稽古場でのエピソードはありますか?
今回のキャストが関西や地方出身の方が多くて、セリフのイントネーションについて話し合うことが多いです。「このセリフは危うい」って言い合ったり(笑)
――楽しそうな稽古場ですね
皆さんとても優しくて、初めての舞台ですけどすごくお芝居をしやすいです。私の演技を見て「ここはちょっと抑えた方が良いよ」とか「こう見えてるから変に動かなくても大丈夫」とか、自分で演じていると分からない部分もアドバイスをいただけるので、勉強になっています。