――映画『散歩時間~その日を待ちながら~』に出演が決まった時のお気持ちをお聞かせください
オーディションで役をいただけたことがとても嬉しかったのと同時に、驚きました。オーディションの場では、「私はこういうことができるので合格させてください」という思いで臨むのが通常だと思うのですが、この作品のオーディションでは、監督の優しいお人柄につい本音をたくさん話してしまって……。自己アピールをする場のはずなのに、なぜか「私ってこういうことが苦手で……」とネガティブなことを話していたんです。
――悩み相談みたいになってしまったんですね
そうなんです。監督の優しさに甘えてしまって、「自分が思っていることを言えなくて、溜め込んでしまうタイプなんです」とか「あまり本音を話すのが得意じゃないんです」という話をたくさんしてしまいました。なので、出演が決まった時は「ネガティブな話ばかりしてしまったのにどうしてだろう」とすごく驚きました。
オーディションのタイミングで台本を読ませていただいていたのですが、ゆかり役のオーディションというわけではなかったんです。なので、最終的にゆかりを演じることが決まったと知った時は、私のネガティブな一面がゆかりに通ずる部分だったのかもしれないと思いました。
――共通点があったんですね
想いをあまり伝えられないことで亮介とギクシャクしてしまう役だったので、そういうところを監督が見抜いてくださったのかなと思います。

――台本を読んだ感想は?
コロナ禍を舞台にしている作品はいくつかあると思うのですが、そういう作品に自分自身が参加できるとは思っていなかったので、新鮮な気持ちで受け止めました。物語は大事件が起こるわけではなく、ものすごくドラマチックな展開になるわけではないんです。だからこそ私たちの日常を丁寧にしっかりと切り取ってくれているということが台本を読んだ時点で伝わってきたので、この雰囲気を大切に、そのまま映像にできたらいいなと思いながら臨みました。
――登場人物の皆さんが、本当にこの世界に存在しているんじゃないかと思えるくらい身近に感じました
群像劇なので、私たちのパート以外でも、タクシーの運転手さんやフードデリバリーで働く人、学生さん、街中で一瞬すれ違っただけの人にもそれぞれのストーリーがあって、皆コロナと静かに向き合っているんだということを教えてくれる作品です。見終わった後、色んな人に優しく接したくなるのではないかと思います。

――大友さんが演じたゆかりの役柄と、演じる際に気をつけたところを教えてください
亮介と結婚するにあたって、色々と心配や不安を抱えている女の子です。23歳という私と同世代の設定だったので、等身大な気持ちで迷いながら結婚に向かって踏み出しているゆかりの気持ちが想像できました。背伸びしすぎず、肩に力を入れすぎずにゆかりを演じられたらなと思いました。
――役を演じるにあたり難しかったところは?
ゆかりは全体的に何かに対してずっとモヤモヤしているんです。何かというか、主に亮介なのですが……(笑)。でもそのモヤモヤとした感情は、ゆかり自身もどんな気持ちなのか分からずにいて、感情に名前が付けられていないんです。怒りなのか心配なのか不安なのか。それは劇中でも「この感情が不満なのか不安なのか分からない」と、ゆかりのセリフにも出ているのですが、だからこそどこまで怒って、どこまで弱弱しくお芝居しようか、というバランスは考えました。怒りすぎるとゆかりばかり強くなってしまうし、弱弱しすぎると可哀想になってしまうし、そのバランスは監督と、前原(滉)さんが演じている亮介と向き合いながら模索していました。

――戸田彬弘監督はどのような方でしたか?
監督は私たち役者を尊重してくださる方でした。アドリブのシーンもあったのですが、「こういうのがいいんじゃない?」「こんなのどうかな」と、その都度聞いてくださるので、私たちもそんな監督にお応えしたいという想いで自分から発信したり挑戦したりしていました。
――撮影の中で印象に残っている監督の言葉は?
亮介が二人にとって重要な話をゆかりには相談してくれなかったことを知って、今まで溜まっていた想いが溢れて泣いてしまうシーンがあって、何度も本番を重ねていく内に、私が一度、「あれ、泣けないな」と思った時があったんです。その時監督から言われた、「ここで泣こうとしなくて良いよ」という言葉で心がすっと軽くなり、ありがたかったです。「何ならちょっと休憩しよう」という流れになって、柳(ゆり菜)さんたちも「チョコ食べる?」と言って気遣ってくださったので、上手く気持ちを切り替えられました。