『モンスター』は、家族から十分な愛情を受けられず社会に問題児として扱われる生徒と、かつての華やかな職場から逃れ、自分自身も深い問題を抱える新人教師との対峙を軸に、大人の子育てと責任、未成年の反社会的な行動といった、教育・家族問題を鋭く表現した物語。
本作の演出を手掛けるのは、国内外の骨太な戯曲の本質を浮き彫りにして見せると同時に、アングラから歌舞伎、そしてシェイクスピアまでジャンルを問わず様々な演目に挑み、観客の予想を裏切るポップかつダイナミックな演出が特徴の演出家・杉原邦生。
主役のトムを演じるのは風間俊介。心に深い闇を抱えながらも状況を変えたいと考えているトムが、教師としてダリルと対峙することで自分の問題とも向き合っていく。共演は、トムと対峙する14歳のダリルに松岡広大、トムの妻でダリルに脅かされるジョディに笠松はる、ダリルの祖母リタを那須佐代子が演じ、濃密な4人芝居を届ける。
登場人物それぞれが抱える“苦悩=モンスター”は、現代社会が抱える問題でもあり、役者という鏡を通して観客も“モンスター”と向き合い、物語を追体験することとなるだろう。
東京公演初日に先駆け、取材会及びプレスコールが行われた。取材会には、風間俊介、松岡広大、笠松はる、那須佐代子、演出の杉原邦生が出席。
地方公演を回り、手ごたえを感じているかという問いかけに風間は「やっと東京公演が始まるということで、今まで3か所で上演してきたんですけれども、すごい皆さん集中して、この空間に一緒にいるような、そんな感覚で観客の皆さんが観てくれているということがひしひしと伝わってきて、そこが嬉しく思っています」と笑顔を見せ、「この作品はこれから皆で考えていきたい、これから社会をどういうふうに捉えていくのか、深く切り込んでいる作品なので、どこか他人事ではなくて、観客席に座ってくださった方々が、同じくこの体験をした雰囲気で観劇してくださっていることに、とても手ごたえを感じています」と語る。
対して松岡は「手応えは個人的には一切なく……」と弱気。「その理由はなぜかというと、非常に毎回極度の緊張感を持って演じているところもありますし、実年齢より本当に下ですので、14歳を演じるということで、毎回色々トライアンドエラーをしながらやっている最中でございますので、慢心してはいけないなという思いでやっているので、まだ手応えはないですが、東京公演でさらに成長できる、新しい景色を見られると思うと非常に心躍るので、何よりも謙虚に、邁進していきたいと思います」と気合を入れた。
そんな松岡の言葉に風間は「こんなにしっかり素晴らしい答えをしてくれるとさ、これから見ていただく皆さんが多分びっくりされるから」と話し、「これからダリルは刺激的な感じで登場してくれるので、皆さん楽しみにしててください。これだけちゃんとしてるとさ、ある種ちゃんとできないダリルが出てきてくれるわけじゃない。だから広大くんのすごさがたぶん伝わると思います」と、松岡とダリルのギャップをアピール。
そして笠松は「この作品は、このシーンはこうあるべきとか、このセリフは絶対こういう意味だ、みたいなことがある種結構不明確な作品で、なので、お稽古中から皆でこうかもしれない、ああかもしれないって考えながらやってきて、いざ舞台に乗ると、やっぱり毎回毎回作品がすごくうごめいていて、毎回、今日はこういう着地点になった、今日はこういう感じだったっていうのが、その3都市の会場のお客様と一緒に体感して、毎日毎日違う『モンスター』ができているという体感なので、またここ新国立劇場にきて、そのうごめくモンスターが最終的にどう変わっていくのかを自分自身もとても楽しみにしているところです」とコメント。
那須は「地方公演は毎日初日みたいな気持ちで、場所も移動して環境が変わるので、ずっと初日が続いているみたいな気持ちでやっていました」と振り返り、「手応えというと、実際に直接感想を聞く場面がなかったので、カーテンコールの時のお客様の雰囲気でしか推し量れないんですけれども、その感じで見ると、あるインパクトは届けられたんじゃないかなというのは常に思ってはいます。私もこの作品自体がこういう答えがあるとか、こういうメッセージを伝えたいということがはっきりしているというより、受け取り手の皆さんに、それぞれにとって何を考えられるかというような作品になっているので。私自身もまだ舞台の上で、特にラストの部分や風間さんとの実際のやり取りの中で、今日はこんな感情を受けた、というようにやってきています。なので、これが育っていくんだろうなと思っていますし、新国立劇場ではちょっと長い期間やるので、腰を据えて、よりブラッシュアップして皆さんにお届け出来たら良いなと思っております」と微笑む。
そして演出の杉原は「この『モンスター』という作品は、もうタイトルのまま、本当に手を焼くような、演出家としてどういう風にやったら良いんだろうって考え込んでしまうような作品だったんですけど、稽古場でもディスカッションしながら作品を作っていったので、僕が最初に戯曲を読んで受け取った印象と、最終的に稽古場で立ち上がったものと、そこから上演を重ねて、また僕が客席でお客さんと一緒に観ながら感じ取ることが全然変わってくる、そういう作品だなと思っています。見方によって色んな見方ができちゃうモンスターみたいな感じで、作品そのものがモンスターだなということを感じながら、日々地方公演やってまいりました。で、かなり熟成もされてきていると思うので、東京ではさらにパワーアップした『モンスター』を皆さんにお届けできると思います」と力強く宣言。
それぞれの役の見どころや、お気に入りのシーンについては、風間は「全部が繋がってこの作品が出来ているので、全てではあるんですけれども」と前置きしながら、「唯一僕が出ていない場面が1つだけあるんですね。でもそこがこの物語の核となっていて。なので、僕が演じるトムが主人公とは言われてはいますが、トムという人物もこのシーンのためにあった礎だなと感じているので、僕が出ていない、ダリルとジョディの2人のシーンを楽しみにしていただければと思っております」とコメント。
松岡は「登場人物一人一人の会話が非常に濃いので、その丁々発止というものは非常に見どころなのかなと思います。こうした純粋な会話劇、対話をしっかりしているような作品は久々なので、会話というところを全体通して重点的に見ていただけたら嬉しいです」と見どころをあげた。
笠松は「私は松岡さんとのシーンもあるんですけど、それまでに風間さん演じるトムとのシーンがずっとありまして、その時のトムというのが、学校教育の話なので学校現場のシーンが多いんですけど、私といる時は家庭内の外面じゃないトムが出てくるシーンなので、私はこの台本を読んだ時に、共に暮らして一緒のものを食べて生きている人たちの会話の空気感みたいなものが、ダンカンさんが書かれた本にすごく出ているなと思っていて。日常の会話の中で、ジョディは妊娠してお腹がどんどん大きくなっていく役なんですけど、人がどんどん変化していくという本の面白さみたいなものが伝わったら良いなと思っています」と述べた。
那須は「最後のシーンがやはりこのお芝居のメッセージとしては多分とても大事なシーンだと思っていて。ただ、多分風間さんもそうでしょうけど、私もこうだってまだ決め込んでいなくて、非常にライブ感で作っている感じがあって、毎日今日はこうだった、ああだった、と思ってやっていて、それが役者として楽しいし、作品が生きている感じがするというか、毎日劇場の空気感とかを感じながらやってもいるので、それがお気に入りかなとは思います」と語った。
本作が3年ぶりの単独主演舞台となる風間は「僕自身は、この作品をトムという役の主人公の単独主演とは捉えていなくて、この4人で繰り広げる作品だと捉えています。その心が、この作品がやはり物語としては、異分子であるこのダリルという役、そしてその周りの対峙する人たちを描いてると思うんですね。けど、それをダリルを中心にではなくて、トムという役を中心に描くということは、多分きっと観に来てくださる方々へ、自分たちが異分子と出会った時に皆さんはどう思いますか、っていう問いかけでもあると思うので、ある種僕は主演ということではなく、観に来てくださる皆様代表というような気持ちでやっているので、この物語は4人が主役だと思ってやらせていただいております」と謙遜するも、杉原から「とはいえ、出ずっぱりですけどね」とつっこまれる一幕があり、風間は「本当にこんなにドキドキしながら、作品もスリリングなんですけれども、舞台上にいる時にスリリングさ。そして舞台セットも斜めになっていて、どこか踏ん張りがきかない不安定な、これもすべて作品の日常に潜む怖さみたいなものが表現されているので、観に来てくださる方々はそこも楽しんでいただけたらと思います」と呼びかけた。
共演者から見た風間の座長ぶりについては、松岡は「もうまごうことなき主演ですよ!」と即答すると笑顔に包まれ、風間は「コミュニケーションがすれ違っていく物語ではあるんですけど、裏では仲良いですね、私たちね。一つの楽屋に集まり出しますね」と仲の良さをアピールする風間は「クリスマス公演があるんですけれども、そういう作品じゃないにもかかわらず、皆でチキンを食べられたらって話で盛り上がってます」と裏側を明かした。
最後に代表して風間が「世の中に物語がたくさんあって、明日が楽しくなるような、そんな作品もたくさんあります。でも、演劇らしいなと思うのが、今まで抱えていた社会に対する悲しい出来事、ニュースが流れた時に憤りを感じたりとか、辛さを感じたりとか、それが溜まっている人たちが見に来てくださった時に、もう一度改めて社会に、問題に、事件に向き合ってみようと思う勇気をもらえるような、そんな作品だと僕はこの作品を捉えております。なので、年の瀬で、街が華やいで楽しい気持ちになりたい方もいらっしゃると思うんですけれども、今年1年、また、今まで生きてきた中でつらかったりとか悲しい思い出を少し浄化するような、支えてもらえるような作品と出会いたいと思ってくださる方々に、ぜひ劇場に足を運んでいただければと思っております」とメッセージを送り、会見を締めくくった。