『恭しき娼婦』は、20世紀最大の哲学者にして、現代思想の巨人、ジャン=ポール・サルトルが1946年に発表した戯曲。
非情な世界における人間の“権利”、“尊厳”、そして、“自由”といった、いつの世も人類が向き合う問題に正面から取り組み、最も完成度が高いと評されている。

舞台はアメリカ南部。冤罪を被せられて逃走する黒人青年をかくまう娼婦リズィー。だが、その街の権力者の息子であるフレッドはリズィーに虚偽の証言をさせようと、その黒人青年と由緒ある家系の白人の男どちらを救うか選べと迫る。街全体で黒人が犯人と決めつける状況の中で、リズィーが下した決断は……。

物語を大きく動かす重要な決断を迫られることとなる娼婦のリズィーを奈緒、街の権力者の息子でリズィーに虚偽の証言を迫る白人のフレッドを風間俊介が演じる。

そして、演出を手がけるのは、本作の上演をかねてから熱望していたという栗山民也。

プレスコール後に行われた取材会には、奈緒、風間が出席した。

初日を明日に迎え、心境を聞かれた奈緒は「2日前に劇場入りして、やっとこの紀伊國屋の今回立たせていただくことが初めてなんですけど劇場の空間にも慣れてきて、今日こうやって取材の皆様に入っていただいて、実際に客席に座ってらっしゃってお芝居をするっていうのはこういう感覚なんだなと、すごく新鮮な気持ちでさせていただいたので、緊張はあるんですけど稽古で重ねてきたものとまた新しいことと初日に出会えることを私自身楽しみに、一生懸命やりたいなと思います」とコメント。

風間は、「稽古を重ねていく中で本当に素晴らしい作品、演出家の栗山さん、そしてキャスト、スタッフの皆さん、そして劇場と、すべてが今揃っている状況で、あとはお客様に見ていただいてお客様に心が動いていただく、それを残すのみと思っております。僕自身もこの作品に出会えてよかったなと思う素晴らしい作品に今回なっていると思いますので、ただただ一生懸命やっていけたらなと思っております。多くの人にこの作品を見てもらいです」と力強く語る。

奈緒と風間は、2018年放送のドラマ『サバイバル・ウェディング』(NTV)以来の共演となるが、お互いの印象について、奈緒は「ドラマの時は同じシーンがなくて打ち上げでお話をさせていただいて、いつか同じシーンでお芝居が出来たらとずっと思っていたので、こうやって二人でのお芝居がすごい多い作品の中で濃厚な時間を過ごさせていただいて、風間さんには信頼しかありません。結構感情や言葉をぶつけたりするシーンもあるんですけど、フレッドとして立ってくださっているので、私も思いっきり胸をお借りして飛び込もうという気持ちです」と、風間に信頼を寄せる。

その言葉を受けた風間も「僕自身も信頼以外の何物でもないので、お互いにそう思っているんだったらすごいありがたいことだなと思いました」と返しながら、「すごく柔らかくて素敵な笑顔でって印象が強くて、でも今回リズィーという役を通して奈緒ちゃんを見ると、今まで持っていた奈緒ちゃんの像というのが微塵もなくて、そこには役柄としてむき出しの感情でリズィーという女性がそこにいるというのは、こちら側も背筋が伸びて、風間俊介としてではなくて役として対峙してっていう時間をしっかり作らないとなと改めて背筋が伸びる想いです」と、奈緒の芝居に一層気が引き締まった様子。

普段の印象とはガラリと違う役柄を演じる奈緒は、「稽古の中で栗山さんからも役の関係性に嘘をつかずに、毎日新しいものに出会って、稽古を重ねる中で新しいことに出会って毎日違って良いんだというお言葉をいただいて、私自身色んなことにシーンごとに調整をして、自分でもお芝居で使ったことのない声を使ってみたりしながら、日々が本当に新鮮で」と、新たな発見に手ごたえを感じながら、「そこで返ってくる風間さんのお顔も『こんな風間さん見たことない、フレッドだ!』って思う瞬間が本当にたくさんあって、自分自身も挑戦はたくさんあるんですけど、舞台上で生きるキャストを早く皆さんに見てほしいなと思うばかりです」と、自身だけでなく他のキャストについても熱く語る。

一方の風間も、腹黒い一面が伺える役柄について、「人間って一色じゃないというか、状況や人だったりで顔が全然変わってくるものだと思うんですね。僕自身もそうだし、役もそうだと思うし。だからきっと少し悪い顔だったりピュアな顔だったりっていうのが混在してて当たり前なんですけど」と分析し、「どこか分かりやすくキャラクターを見せようとしたりすると思うんですけど、栗山さんが「人間というのは多面的であって、その瞬間、その瞬間でパワーバランスも変わっていくんだ」っていうのをおっしゃって、当たり前のことっていうのにちゃんと向き合う時間を栗山さんにいただけたなと思っています」と、演出の栗山の言葉が響いたとのこと。

さらに、「本当にすごいんですよ!栗山さんっていう演出家は本当にすごいんです!」と熱弁した風間は、「『これ、どうしたらいいんだろうな』『ああすれば良かったのかな』とか、色んな悩みみたいなものが募っていくんですけど、栗山さんと出会ってそれが一つ一つ紐解かれていくようなそんな時間です」と、稽古を振り返る。

改めて、栗山からの言葉で印象に残っているものは?という質問に、奈緒は「『セリフが無いところで人は嘘をつけないんだ』っていうことを栗山さんがおっしゃっていて、これはお芝居をする上でとても大きい言葉をいただいたなと思っていて。今回の舞台上では皆さんに全身を見ていただくことになるので、そこで行動にも嘘をつかず、嘘をつけないリズィーとして舞台上にいられたらなと、その言葉を大事にしながら日々立っています」と語り、風間も、「ここは呆然としているとか、自分を失っているというのを栗山さんは『そのまま自分を失って歩けばいいんだよ』って言われるんですけど、”ここは自分を失っているから、自分を失っている自分を見せよう”って自我みたいなものが介入した瞬間に、栗山さんは見事に『それはそういう風に歩こうっていうのが見えます』と言ってくださるので、ただただ役としてそこにいるっていう大事さというのを、まだ出来ているかと言ったら、本当に日々成長だなと思います」と話す。

さらに風間から、「あとは奈緒ちゃんが稽古中に小さなカレーパンみたいなのを食べ始めたことがあって、栗山さんが『どうした?急にカレーパン食べて』って言ったら奈緒ちゃんが『あ、これカレーパンじゃなくてフィナンシェです』って返したあのやり取りがすごい記憶に残っています」と、稽古中のエピソードが明かされる一幕も。
奈緒は、「あの時怒られるのかって一瞬ちょっとビクッとしてしまって。話聞いてるときにお菓子食べて怒られるかなって思ったら、栗山さんも一つ欲しかったっていう(笑)。『食べますか?』って聞いたらすごく喜んで食べてくださいました」と笑顔を見せた。

本作の見てほしい部分として、奈緒は「テーマとして色んなテーマがある作品ではあるんですけど、あらゆる差別がこの舞台上で起こりますし、それはきっと皆さんに伝わるものだと思っていて、お稽古を重ねていく中で自分の中でも新しい発見がたくさんあって、きっと客席の皆さんには私たちが想像し得ないような受け取り方をしてくださる方もいて、色んな感情が客席で動いて感じてくださると思います。見ていただけたらきっと必ず皆さんに持ち帰っていただけるものがあるので、自由な選択をして、私たちもこの舞台上で色んなことに悩み、その度に選択をするんですけど、皆さんもどういう風に感じ取るかっていうことを選択していただいて、帰っていただけたら嬉しいです」と語る。

風間も、「奈緒ちゃんとほぼ同じになってしまうんですけど……」と前置きしながら、「昨今、多様性って言われますけど、多様性っていうのは本当に一面だけではなくて、我々の生きている世の中というのは色んなことが混ざっているんだっていうことだと思うんですね。なので、この舞台も男女の物語だと思ってくださる方が居ても良いし、人種の話、階級の話、その全てが入ってると思ってくださっても良いっていう本当に今を生きる人たちに見ていただきたい作品だなと思っています」とコメント。

さらに、風間の親友である嵐・相葉雅紀の主演舞台(『ようこそ、ミナト先生』)も本作と同日に初日を迎えるということで、何か話をしたのかという記者からの問いかけに、風間は「舞台の進捗状況はずっとお互いに共有している状態ではあります。『うち、明日通し(稽古)』『うちも明日通し!』って言ってキャッキャキャッキャやってます。サッカー部と野球部で明日試合って言っているような感じです」と仲の良さを伺わせた。
「今回、なかなかお互いに見に行くっていうのがもしかしたら難しいかなっていうくらい綺麗に公演スケジュールが重なっているんですけど心強いですね」と話し、さらに「生田斗真の舞台(『てなもんや三文オペラ』)も始まりますし、同世代で同じ時代を生きてきた者が改めて皆で頑張っている時間はありがたいし、負けてられないなと思います」、と嬉しそうに語った。

最後に、公演への意気込みとして風間は「皆さんの心に残る作品の準備はすべて整っております。あとは皆さんが劇場に来て客席に座ってくださった時に我々キャストが本番にどれだけのことが出来るか、それのみになると思います。そこに関しては我々キャストが必死にやっていきたいと思いますので、皆さんが客席に座りに来てくださったらこんなに幸せなことはありません。劇場でお待ちしております」と話す。

そして、奈緒も「私も舞台が好きで、お客さんとして見に行く時は五感を使って何かを掴んで帰ろうと思い、一つの席に座るので、きっとそういう想いで来てくださる皆さんに恥じないように、自分の全身全霊、その日一日に出せるものを、そして五感を全てフルに使って皆さんに届けられる舞台を作りたいと思っています。必ずそういう舞台にしますので、ぜひ皆さんも足元にお気をつけてお越しください。劇場でお待ちしてます」と締めくくった。

舞台『恭しき娼婦』は、6月4日(土)より19日(日)まで東京・紀伊國屋ホール、その後、兵庫・愛知でも上演される。