――本作への出演が決まった時の心境を教えてください
最初に企画書をいただいた時に、着眼点が面白いし、とてもチャレンジングな作品になりそうだなと思いました。タイトルでもある『ぶぶ漬けどうどす』という言葉は、京都の本音と建前の文化を表すのにテレビとかでもよく使われていると思うんですけど、その“本音と建前”に切り込む映画は今までなかったんじゃないかなと思い、そして監督が冨永(昌敬)さんだと聞いて、ご一緒してみたかったので、すごく嬉しかったです。
――澁澤まどかという役にはどのような印象を持ちましたか?
いつも自分が演じる役の人物像を、台本を読みながら想像して膨らませていくんですけど、まどかはこれまでの役の中で一番難しかったです。動機とかがしっくりくるまで、すごく時間がかかって。とてもピュアというか、言われたことを裏の気持ちを考えずに受け入れられるというのがまどかの強さで、長所と言えば長所であり、短所と言えば短所なんですけど。あとは京都への愛情を持ち続けていないと成立しなくなる部分もあるのでそこは軸に置きつつ、冨永さんの演出が毎シーンすごく刺激的で面白かったので、その流れに乗りながらリズム良く撮影したいなと思っていました。

――まどかを演じるにあたり、意識していたことはありましたか?
京都愛やお義母さん、お義父さんへの愛情がまどかの土台になっていることと、型にはめようとしすぎないことを今回は意識していました。最初は京都が純粋に好きだったところから始まり、どんどんのめり込んでいくうちにつれて、“ヨソさん”が京都を壊そうとしていることが分かって、そのヨソさんから京都を守ろうと奮闘していくんですけど、京都の人たちから見たらまどかが悪いヨソさんになっているという、面白さや不条理さがあって。日常生活でも、自分がなんでこう思ったんだろうとか、どうしてこう言ったんだろうって意外と1回1回考えたりはしないので、意味とか理由にこだわりすぎず、感覚を大切にしてみようと思って臨みました。
――最初はピュアに京都への愛を一心に持っていたまどかが、本音と建前を使い分ける県民性に振り回され疑心暗鬼になっていく姿が描かれていますが、どのように心境の変化を演じていたのでしょうか?
狂気的な感じになっていきますよね(笑)。まどかは本当に不思議な人で、旦那さんが浮気をしていたんですけど、そこにはそんなに重きを置いていなくて、切り替えが早いんです。だけど、京都や家を私が守っていくんだという気持ちはものすごく強いパワーや根源になっている。もしかしたらまどかは何か居場所を求めていたり、孤独を感じていたのかな?と。東京で上手くいっていなかった自分の仕事が、京都に来たら世間的に話題を呼んで評価されていって、元々の京都が好きだった気持ちと、自分を認めてもらえた気持ちが複雑にねじれて大きくなりはじめて。本人の中ではすごく良いことなんですけど、それが周りを巻き込んでいってしまったんだと思います。
© 2025「ぶぶ漬けどうどす」製作委員会
――本音と建前を使い分けるという京都の県民性に触れてどのように感じましたか?
本音と建前は、いわゆる「ヨソさん」が簡単に理解しようとするのは難しいですよね。オブラートに包むのが京都ならではの美徳ではありますが、そういう表現をしない方ももちろんいるし、もしも自分が京都に住むことになったら、この映画を経てしまったからこそまどかみたいに「今言われたのは違う意味なのかな?」と変に考えすぎてしまいそうです(笑)

――どんどん京都に染まっていって京都弁を話すシーンもありますね
最後の方のシーンで京都弁を話し始めるところがあるんですけど、方言指導の先生と冨永監督と相談して、まどかに関してはちょっとぐらい間違えている、似非っぽい方が面白いんじゃないかと話しました。京都に馴染みたくて真似し始めたぐらいのクオリティで。お義母さんから「インチキ京言葉」と言われるセリフがあったので、見ている方にもちょっとイラっとしてもらえるシーンになっていたら嬉しいです。

――ご自身とまどか、似ているところはありますか?
好きなものに関して突き進んでいく、のめり込むところは似ているんですけど、私はそこまで100%真に受けることはできなくて。褒め言葉とかも、本当に思ってくれているのかな、お世辞じゃないのかなとか思っちゃうんですよ。お世辞でも嬉しいんですけど(笑)。まどかとは言葉の受け取り方が本当に違っていて、映画の中でテレビの取材が来るとなった時、まどかは良かれと思ってお義母さんに内緒で取材を受けてしまうけど、なんで1回言わないんだろうとかは考えるので、そういう感覚は真逆でしたね。
――監督から言われた言葉や演出で印象的なことはありますか?
情報解禁の時のコメントで「何が飛び出すか分からない玉手箱のような演出」という言葉を使ったんですけど、冨永さんの演出は、頭の中はどうなっているんだろうというぐらいの引き出しの数々で、毎日衝撃でした。本読みの時に中村先生役の若葉(竜也)くんに、元々は普通の喋り方だったところを「語尾を全部“ですよ”にしてみてもらえますか」とその場で言って、ちょっと癖がある喋り方に変えたり、私が台本のセリフではなく違うセリフを間違えて言ってしまった時に「それが良いので本番もそれでやってほしいです」とも言われたりました。
あとは、まどかが立小便禁止の鳥居を外して持って帰るのも台本には無くて、その場で「ちょっと外して持って帰っちゃいましょうか」となって、皆が驚いていました。冨永さんは事前に考えてきたわけではなく、現場を見て思いついたことを言ってくださるんですけど、その目の付け所が本当に面白くて!それだったらこういうことができるかなとか、まどか像もどんどん豊かになっていったので、現場で皆で作っていった作品という感覚がすごくあります。

――老舗の扇子屋と住居が実際の京町家で撮影されたそうですが、京都での撮影はいかがでしたか?
すごく楽しかったです!ちょうど京都で一番忙しい時期なんじゃないかという、10、11月に撮影していたんですけど、観光客の方とかも町中に溢れていて賑わいがありました。唯一大変だったのは寒さです。だから撮影が早く終わった日は、皆で温かいご飯を食べに行ったり、合間に美味しいグルメ情報を入手して食べに行くのも楽しみの一つになっていました。
――思い出に残っているご飯はありますか?
「大鵬」という中華料理屋さんがあって、そこは2回行きました(笑)。あとは喫茶店も、昔からある建物を活かして改装されたりしていて、とても素敵でした。

――まどかでいう京都のような、深川さんが大好きすぎて熱中してしまうものはありますか?
「パペットスンスン」というゆるキャラがいるんですけどすごく好きで、今ハマっています。動画とか何回も見ていて、すごく可愛いんです!友だちに広めまくっていて、青いぼわぼわした毛のパペットのキャラクターなんですけど、可愛くて癒されるんです。
――ありがとうございます。最後に、作品の見どころを教えてください
京都に実在する老舗のお店にも協力していただいて、京都の町の魅力もたくさん詰まっていますし、私も今まで知らなかった、まだまだ知らない京都の文化が描かれています。でもそれだけではなく、今のSNSの匿名性の問題や、人と人とのコミュニケーションの難しさなどをコミカルなタッチで描いています。京都が好きでよく行く方にも楽しんでもらえるような、今まで皆さんが見ていたのとはまた違う切り口で京都を楽しめる映画になっていると思うので、ぜひこの奇想天外さを面白がってもらえたらと思います。


撮影:秋葉巧
ヘアメイク:鈴木かれん
スタイリスト:山口香穂