Bunkamuraが⽇本と海外のクリエイターの共同作業のもと、優れた海外戯曲を今⽇的な視点で上演する企画に取り組んできた、DISCOVER WORLD THEATRE(以下DWT)シリーズ。同シリーズの第14弾として上演するのは、『トップ・ガールズ』や『クラウド・ナイン』など数々の話題作で知られる、現代イギリス演劇を代表する劇作家の一人、キャリル・チャーチルの二作品。一作目は2021年に上演されたチャーチルの最新作で日本初演となる『What If If Only—もしも もしせめて』。二作目は、2002年に初演され22年にはローレンス・オリヴィエ賞リバイバル部門にノミネートされた名作『A Number—数』。
この二作品の演出を手掛けるのは、これまでにDWTシリーズで三作品を演出し、キャストの実⼒をいかんなく発揮させることで高い評価を得ているジョナサン・マンビィ。英国で2010年に『A Number』を演出した経験があり“⽗と息⼦の⼀筋縄ではいかない対話が⾒事に展開された”と称賛を得ている。独特な表現スタイルと文体で人間心理を描くチャーチルの短編二作品をどのように紐解いていくのか、⽇英のコラボレーションで挑む今作に期待が高まる。

『A Number—数』で二人芝居に挑むのは、堤真一と瀬戸康史。人間のクローンを作ることが可能となった近未来を舞台に、秘密を抱え葛藤する父を堤が、クローンを含む三人の息子たちを瀬戸が演じる。これまでにマンビィが手掛けてきたDWTシリーズの『るつぼ』(2016)、『民衆の敵』(18)、『ウェンディ&ピーターパン』(21)の全てに出演し、マンビィと絶大な信頼関係を築いてきた堤。そして、マンビィ演出公演に初出演、堤とも初共演となる瀬戸が、複雑な感情を交錯させる親子の会話劇を繰り広げる。

『What If If Only—もしも もしせめて』には、舞台初共演となる大東駿介と浅野和之。愛する人を失い苦しむ“某氏”を大東駿介、“未来”と“現在”を浅野和之が、“幼き未来”(Wキャスト)と共に演じ、マンビィとの初タッグで、日本初演の戯曲に挑む。

両作品を通じて、“アイデンティティ”“悲しみ”“愛”といった普遍的なテーマをSF的に描き、劇場空間に濃密な時間を創り出す。

Bunkamura Production 2024/DISCOVER WORLD THEATRE vol.14『A Number—数』『What If If Only—もしも もしせめて』は、2024年9⽉10⽇(⽕)から29⽇(⽇)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演され、その後、10⽉4⽇(⾦)から7⽇(⽉)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、10⽉12⽇(⼟)から14⽇(⽉・祝)まで福岡・キャナルシティ劇場にて上演。

【演出家・ジョナサン・マンビィ コメント】
現存する最も素晴らしい英国劇作家であるキャリル・チャーチルの傑作戯曲『A Number—数』『What If If Only—もしも もしせめて』の演出で東京に帰ってくることができ、とても光栄に思っています。『What If If Only—もしも もしせめて』は日本で初めての上演となります。
この非常に力強い二つの戯曲は、アイデンティティ、悲しみ、そして愛の探究で繋がっています。どちらの戯曲も、一番愛する人のために私たちは何をする覚悟があるか、を問いかけます。
チャーチルは、これらの傑作戯曲の中で極限の人間の状態を見事に描き出しています。『A Number—数』には堤真一さんと瀬戸康史さん、『What If If Only—もしも もしせめて』には大東駿介さん、浅野和之さんら素晴らしい俳優の皆さんがご参加くださいました。信じられないほど力強い演劇作品が生まれると思っています。

【堤真一 コメント】
ジョナサンとの仕事は4回目ですが、彼は役者から生まれるものを第一に、いつの間にか役者がうまく階段を上がれるように導いてくれます。今回もクローンや遺伝子操作といったちょっと手強そうな内容の作品ですが、お互いに意見を出し合いながら、チームとしての方向性を明確に示してくれるのではないかと思います。最初はごく普通の親子の会話かと思いきや、よくよく聞いていると恐ろしい話になっていく。あり得ないとは言えない近未来の物語を、二人の会話だけでどう演劇として成立させていくのか。初めて共演する瀬戸君と一緒にじっくり取り組みたいですね。僕自身、ふと「親子って何だろう?」と不思議になる時があります。子供は親の所有物ではなく、一つの命であり、“個”でもある。そんなことを改めて考える機会になりそうです。

【瀬戸康史 コメント】
昨年、『笑の大学』で初めて経験した二人芝居がとても楽しく、もう一回やりたいと思っていました。コメディからシリアスまで幅広い役をされている堤さんと、初めてご一緒できることが楽しみです。以前、マンビィさんのワークショップに参加したこともあり、海外の演出家さんとの少人数での創作にワクワクしています。僕はクローンを含む堤さんの“息子たち”を演じますが、これは一人の人間のパラレルワールドのようなものではないかなと。顔は同じでも中身は別の人物である、と考えると納得しやすい気がします。「他にもクローンがいることは特に気にならない」という人物も登場しますが、僕自身もこの考え方に共感できました。何事もポジティブに捉えるほうなので。もちろん不安もありますが、それすらも楽しめたらと思っています。

【大東駿介 コメント】
日本初演のこの戯曲を読み終えた時、「出会えた!」と思いました。なかなか難解ですけれど、それくらい吸い込まれ、圧倒されたんです。現在は自分が生きてきた過去の積み重ねである一方で、この先に想像し得る未来との板挟みになっている。最近そんなことをよく考えていた矢先に、「生きるとは」「生命とは」「思考とは」など、次元を越えて人間を解釈しているような作品に出会えた自分は本当に幸せだと思います。何億という時間が数十分に凝縮されている感覚を持ちました。きっと稽古が始まったら苦しむんでしょうけど(笑)。気付かないうちに凝り固まっている自分の発想を、国境や思考、あらゆる意味で境界線を飛び越え開かせてくれる演出家のジョナサン・マンビィと共に創作できることが有難いですし、時間も空間も超越した作品に少しでも近づけたらと思っています。

【浅野和之 コメント】
作品そのものはとても短いものですが、戯曲を何度も読んで、ようやく「核」になるものがふわっと見えてきたかな、という段階です。私は「現在」「未来」という非常に抽象的な役どころで、この二種類をどう表現として変えるのか、あるいは変えないのか。誰もが「未来」というものに希望や思い描いていたものがあるだろうけど、必ずしもそれは自分の思っていた通りにはならない。そんなストーリーが浮かび上がってくる気がします。海外の演出家さんとは言葉の問題を超えて、いかに意思の疎通を図れるかが大切だと思っています。マンビィさんとも大東さんとも初めてですし、今までにない挑戦を楽しみにしています。年を重ねると周りに気を遣われたり、つい楽な方へと針が振れがちなので、挑戦できることはどんどんしていきたいんです。