戦後を代表する劇作家・秋元松代の代表作である本作は、近松門左衛門の「冥途の飛脚」をベースに他作品の要素を加え、近松作品の魅力をふんだんに盛り込んだシンプルで力強い 言葉と、故・蜷川幸雄氏の劇的な演出により、観客からの圧倒的支持を得て千回を超えて上演され、演劇界の金字塔と称された。

元禄時代における境遇の違う二つの恋の情景を、華やかな演出で描いたことで人気を博した本作を、演出の長塚圭史は、格差を問われる現在に驚くほど重なる、普遍的な戯曲と捉え、 俳優とともに台詞の魅力を紐解きながら新たな「近松心中物語」を創り上げる。

出演者には個性豊かな俳優が揃い、主軸となる男女二組には、亀屋忠兵衛に人間味あふれる演技と存在感で長塚からの信頼も厚い田中哲司。
傘屋与兵衛に映画『御法度』で の デビュー以来、圧倒的な個性と魅力で常に注目を集める 松田龍平。
遊女梅川には数々のミュージカル 作品のヒロインを演じ、舞台を軸に活動の場を広げる笹本玲奈。
与兵衛の妻・お亀には、注目の若手実力派女優として多彩に活躍する石橋静河。
また、忠兵衛の飛脚屋仲間・ 丹波屋八右衛門には、確かな存在感と彩りを備える石倉三郎。お亀の母・お今にはストレートプレイでの活躍も光る元宝塚トップスターの朝海ひかる、その他にも多方面で活躍する、個性が光る俳優が名を連ねた。

そして音楽は、昨年デビュー30周年を迎えたラップグループ、スチャダラパーが担当。ラップ×近松心中物語の異色の組み合わせにも、期待が高まる。

公演は9月4日(土)から20日(月・祝)まで神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場<ホール>、その後、全国ツアーで5都市を巡る。

<あらすじ>
物語は元禄時代、大阪・新町(遊郭街)で始まる。
真面目な飛脚宿亀屋の養子・忠兵衛は、新町の遊女・梅川に出会い、互いに一目で恋に落ちる。梅川に、さるお大尽からの身請け話が持ち上がる。
金に困った忠兵衛は、幼馴染みの古道具商傘屋の婿養子・与兵衛に金を借りにいく。
与兵衛が快く貸してくれた50両で、梅川の身請けの手付金を払い安堵する忠兵衛と梅川の元に、大尽からの身請けの後金 300 両が届いてしまう。
一方 お人よしで心優しい与兵衛は、与兵衛に恋い焦がれる女房のお亀 、舅姑とともに、大店の婿養子として身の置き所のない想いを抱いて暮らしていたのだった。
忠兵衛と梅川・与兵衛とお亀。
華やかな元禄の世に生きる境遇の違う男女二組。
恋い焦がれる人と共にいるために心中を選ぶ、それぞれの恋の炎を描く・・・。

【スタッフ コメント】
●長塚圭史(演出)
肉体が純粋渇望するもの。
『近松心中物語』は大阪新町の見世女郎梅川と飛脚宿の養子忠兵衛の叶わぬ恋を発端に描くドラマです。
ふたりは出会い、恋の炎が燃え上がりますが、金に行き詰まり、とうとう身分を捨て、社会の枠組みから飛び出します。
秋元さんは身分制度のあった江戸時代の社会を、味わい深い台詞で紡ぎます。見世女郎よりも更に身分の低い、河原で客を取る辻君にも今夜帰る家があること。丁稚の長松や久作は幼いながらも親元を離れ、仕事をして、ご飯を食べていること。不機嫌な小役人にも女房が待っていること。皆、生きる為に、働いて、眠り、暮らしています。そんな当たり前の日常からはみ出していく忠兵衛と梅川。例えどんな地位であれ境遇であれ、私たちは人間であることを求める。心中とありますが、死は生を鮮やかに照らします。
このエネルギーが現在の皆様に届けばと思います。KAA神奈川芸術劇場でお待ちしております。

●スチャダラパー(音楽)
最初に長塚圭史氏から聞いた構想(近松心中物語を、セットも極力シンプルに、少ない役者達で最後はスチャダラのラップがかかって終わる)が、本当に言った通りの形になったのだから感無量です。

【キャスト代表6名 コメント】
●田中哲司
もう少しで舞台初日です。
でも、いつ中止になっても悔いの無いよう、舞台稽古の一回一回を本番のつもりでやっています。なので、これまでの舞台とは恐らく本番の重みが違います。
今回、完成しつつある長塚圭史君の作り上げた『近松心中物語』はシンプルな装置の上で、個々の役者がさらけ出される舞台です。誰一人として気を抜けない舞台で、それに負けないよう皆頑張っています。
今回の舞台、僕は好きです。
こういう状況なので、大手を振って観に来てくださいとは言えませんが……大変な中、観に来てくださった方の心を少しでも揺さぶる事が出来るよう頑張ります。

●松田龍平
明日から近松心中物語を公演します。現代から江戸時代へ、心を重ねて観てもらえる作品だと思います。その時代を生きる人々と、その中で、心中することでしか結ばれることができなかった男女の物語をぜひ劇場でご覧ください。
長塚さんをはじめスタッフ、役者一同、力を合わせて舞台を盛り上げていきますので、お楽しみに。

●笹本玲奈
稽古では、忠兵衛、与兵衛、梅川、お亀をはじめとする登場人物たちが、いまよりも自由が制限されている時代背景、生活環境、身分制度の中で、それぞれが一生懸命に生き抜く姿に心動かされ、愛おしさが増す毎日です。
時代が違えば良かった事、時代が違っても変わらない事、シンプルなストーリーですが、さまざまな視点から見て楽しむことができる作品です。
現代では日常で使われない美しい日本語と、梅川の芯にある強さと愛情深さを大切に、心を込めて演じたいと思います。

●石橋静河
日々の稽古でお亀という女性に向き合いながら、何か果てしない可能性のようなものを感じています。毎日新しい発見があり、幕が開いてからもきっとたくさんの気づきがあるだろうと思います。改めて、素敵な役と出会えたことを有り難く感じています。
廓の街の華やかさ、儚さを目で耳で、楽しんでいただきたいです。また、お亀・与兵衛の可笑しくも切ない恋のゆくえを見守っていただけたら嬉しいです!

●朝海ひかる
長塚さんの演出による新しい『近松心中物語』が、皆様にどの様に届くのか、とてもワクワクしております。
現代から元禄へのタイムトリップをどうぞお楽しみください。

●石倉三郎
ホントにこの忌ま忌ましいコロナのせいで、徹底的に検査、予防、何を触るにもアルコール消毒! マスク絶対着用、不安感だらけの稽古がやっと明けて、扨漸く無事初日を迎えられる運びと相成りました。この文化の殿堂、横浜のKAATで、嬉しい限りであります。
秋元松代作・長塚圭史演出『近松心中物語』。
演劇に余り関心のない方でも、充分に楽しめること請け合いです! スタッフ・キャスト、皆懸命に頑張りました。何卒御高覧の程、伏して宜しくお願いお願い申し上げます。

撮影:阿久津知宏