2020年にコロナ禍の影響で公演が延期となっていた、いのうえ歌舞伎『神州無頼街(しんしゅうぶらいがい)』は、主宰・いのうえひでのりが、歌あり踊りあり立ち回りあり、そのすべてをショーアップさせて創り上げる、王道“いのうえ歌舞伎”最新作。

劇団☆新感線らしさ満点の活劇でありながらも、ひと味違う魅力に満ちた今作。幕末という乱世を舞台に中島かずきが書き下ろした、歌あり踊りありアクション盛りだくさん。猥雑で賑々しく、そして奇想天外な伝奇時代劇がいよいよ東京公演開幕となる。

物語の主人公で博識の若き町医者、秋津永流<あきつながる>を演じるのは福士蒼汰。
陽気でお調子者の口出し屋、草臥<そうが>を演じるのは宮野真守。
更に、新感線5回目の登場となる“準劇団員”松雪泰子、新感線初参加となる髙嶋政宏。さらに、木村了、清水葉月も加わって、この4人が富士の裾野に“無頼の宿(ぶらいのしゅく)”を開く、ワイルドかつ謎に満ちた侠客・“身堂蛇蝎<みどうだかつ>一家”を演じる。
さらに、粟根まことらお馴染みの劇団員も勢揃いし、作品を彩る。

開幕前取材会には福士と宮野が出席。
東京公演初日を翌日に控え、これまで稽古、そして大阪、静岡公演を経てパワーアップした二人のバディ感について聞かれた福士は、「劇団☆新感線『髑髏城の七人』(Season月)からご一緒させてもらって、2年前に浦カチというプロジェクト(『浦島さん』『カチカチ山』)をやらせてもらってどんどんお互いの距離が縮まり、今回で一つなんじゃないかってぐらいくっついちゃって」と、共演を重ねていく中で距離も縮まったと話す。

宮野も、「ずっと一緒にいるんですけど『この人と芝居するのがこんなに幸せなんだ』ってどんどん噛みしめていて、のオフの時でも芝居の話とかが絶えなくて、この作品に対してお互いの理解もどんどん深まって、こういう考え方をするんだとかこういうことを素直に言えるな、とかって言葉を交わし合いながら進んでこられたので、かなり良い空気感になっているんじゃないかなと思います」とコメント。

本来は2020年に行うはずだった本公演。2年越しの開幕となった心境を、福士は「コロナ禍という状況で、舞台というか生ものっていうものが本当に難しくなっている中、お客さんの声がすごく集まってきてそれで開催出来ているっていうある種の奇跡のようなものを感じていますし、大阪、静岡でやって来れて東京でも明日ようやく開幕することが出来るというのは非常に嬉しいなと思うし、自分の仕事をやっててよかったなと思う瞬間です」と喜びをかみしめ、宮野は「単純に嬉しいです。幸せです。世の中的にはまだ苦しい状況が続く中ではあると思うので、無事に出来ているっていうことを大々的に言うのもはばかれるんですけど、でもやっぱり僕たちが一生懸命色んなことに気をつけてここまで進んできたことが何よりも嬉しいです。それは見てくださる皆様も一緒になって頑張って気をつけて時間を作ってくれたと思うと本当にかけがえのないことだなと思います」と感慨深く語った。

共演は本作が初となり、お互いの印象を聞かれると、「良いんですよ!」と口火を切ったのは宮野。「『良い役者だな、良い芝居するな~!』って毎公演更新されるぐらい、気持ちが高まっています」と熱く話す。
一方の福士は、「すごく良い方で誰に対しても笑顔を絶やさないですし、自分があるべき状況をすごくちゃんと考えていて」と語りながら、「この人とずっと一緒に居ても良いなって」と突然の艶っぽい声で告白し、「声優の技を僕から学ばないで!!」と照れ隠しのようにツッコミを入れる宮野の姿があった。

本作の脚本を担当した中島かずきは、福士のテレビドラマ初主演作品『仮面ライダーフォーゼ』のメインライターでもある。
「かずきさんは芸能界にたくさんいるお父さん(のような存在)の一人で、本当に僕のことをよく見て、書き下ろしてくださった」と話し、「かずきさんの書く脚本はすごく胸アツになる、少年が大好きな作品だなっていう感じなので、今回も演じていて展開が進むにつれて熱くなっていくのがやっていて嬉しいです」と語る。

大阪、静岡公演の反響については、「非常に良い反応が返ってきています。『神州無頼街』って固そうに見えるタイトルなんですけど、歌アリダンスありでもうお祭り騒ぎな舞台なんです。それを皆が存分に楽しんで帰ってくれているっていう声がたくさん届いているので、それが嬉しいですね」と微笑む宮野。
また、福士も「歌が多いので、3時間の舞台なんですけどあっという間だったっていう声はすごく聞きますね。普段舞台を見られない方でも舞台ってこんな楽しいんだって思ってもらえるような作品になっているかなと思います」と続けた。

既に20公演近く行われている中、未だ稽古の熱は冷めやらぬ様子で、「いのうえさんが毎公演毎公演本当に細かく僕らの動作を見てくれて、”ここはこうした方が良い”って演出をどんどん進化させてくれていっているので、ちょっとネタが変わったり、一回見た人でも『ここ、こんなすごいことになってる!』って発見が多いと思います」と、常に進化しているとのこと。

また、本作は歌や踊り、激しいアクションと盛りだくさんの内容となっている。
それぞれ役割があるようで、宮野は、「基本僕が歌担当で、(福士が)アクション担当、みたいな一応作品の中でもキャラクター性もあってそういう役割になっているんですけど、僕以外も劇団員の方々の歌とかもふんだんに盛り込まれていて、歌で紡いでいくシーンが多いんです。それは見どころだと思います。僕もロックだったりジャズだったりミュージカル調だったり、色んな種類の楽曲を歌っているので楽しめると思います」と語る。

物語の中では宮野演じる草臥がギターを演奏するシーンもあるようだが、それについて福士から「ギター弾くわ、踊るわ、歌うわで、まもちゃんのライブなんじゃないかって言われてます」とコメントが。

そしてアクション担当と言われる福士については、「見せ場が本当にすごくて、一人でバッタバッタ倒していくシーンが見ごたえがあります」と力強く語る宮野。
福士は、「4年前に髑髏城をやった時には殺陣があんまり出来なかったなと個人的に思っていて、それから早乙女太一くんに弟子入りさせてもらって稽古してもらって今回臨んでいるので、太一くんに教わったことを今回は見せられているんじゃないかなと思っています」と、前回の悔しさを糧に殺陣に力を入れた様子。今回の殺陣の見どころは、「剣術というより棒術なので、剣で戦う皆とまた違った動きをするのが特徴的かなと」と話す。

それぞれが思う本作の見どころを問われると、福士は「個人的には生き方の話かなと思っていて、自分自身が今生きている中で、生まれや育ちがあるけどその中で自分がどういう選択をして生きているかという話で、永流は自分の生きる道を探している姿が描かれているので、そこを見てほしいなと思います」と語った。

宮野も「確かにキャラクター一人一人に生き方があるんですよね」と続け、「どう生きるかとか深みみたいなのが、それが僕らのバディ感にも表れているし、それだけではなくて蛇蝎一家っていう人たちがその象徴みたいなところなですけど、この人たちがどうやって集まったのか、どういう目的で生きているのかというところは非常に注目ポイントですし、何よりも髙嶋さんも松雪さんも濃い。いのうえさんたち曰くこの変態夫婦(笑)が、もう濃いんですよ。その濃厚さも楽しんでもらえたら。悪役としてもそうなんですけど、生き様としても濃いので」と、魅力的なキャラクターについても注目してほしいと話す。

そんな中、永流と草臥の関係性については、宮野は「ずっと昔から続いているバディ関係というよりも、出会って、目的が一緒になるからこそお互いのことをだんだん知ってバディになっていく関係性になっていて、その裏にはどんな思いがあるのか二人で話し合いながら細かく設定を作って行ったので、その二人の関係性も見てもらえれば面白いと思います」と、含みを持たせる。
福士からも「この舞台が終わった後にもこの二人がこうなっていくんだろうなって想像出来るようなラストになっています」と、気になる言葉があった。

最後に、公演を楽しみにしているお客様へメッセージとして、福士は「『神州無頼街』は大迫力のお祭り騒ぎなので、単純に楽しめると思いますし、深く生き様を感じられる作品でもあります。殺陣も歌もやっているのでぜひ楽しんでもらえたら嬉しいです」、宮野は「とにかく楽しい作品です。苦しい世の中で苦しい状況が続く中だけども、この時だけは明るく楽しんでもらえるように僕らもエネルギーを出して舞台でやっておりますので、存分に笑って楽しんで帰ってほしいなと思っていますし、全力で演じますので見届けてほしいなと思っております。ぜひ劇場にお越しください」とコメントし、会見を締めくくった。

東京公演は4月26日(火)から5月28日(土)まで東京建物 Brillia HALLにて上演される。

<あらすじ>
時は幕末、ところは駿河国の清水湊(しみずみなと)。
清水湊にその人在りと噂された侠客・清水次郎長<しみずのじろちょう>の快気祝いのため、ある料亭に甲州駿河の名だたる博徒の親分衆が集まっていた。
続々訪れる親分方を調子よく迎える男がいた。他人の事情に勝手に口を出しては銭にする“口出し屋“の草臥<そうが>(宮野真守)である。さっそく次郎長一家からも銭をせしめようと、幹部の小政の人探しを手伝うことに。次郎長が出入りで受けたひどい傷を直したという、評判の町医者・秋津永流<あきつながる>(福士蒼汰)だ。次郎長復帰の立役者を宴席に誘うため、探しにいく草臥と大政、小政。
座敷では次郎長の快気を祝い、親分衆が膳を囲んでいた。そこへ、今売り出し中の侠客・身堂蛇蝎<みどうだかつ>(髙嶋政宏)が現れる。妻・麗波<うるは>(松雪泰子)、息子・凶介<きょうすけ>(木村了)、娘・揚羽<あげは>(清水葉月)を引き連れ、己の顔見せのために次郎長の宴席へと乗り込んだのだ。無作法な挨拶にいきり立つ親分衆だったが 、突然もがき苦しみはじめた。首に痛みを感じた次郎長が掴んだのはなんと蠍(さそり)。当時のこの国では見かけ
ない毒蟲を使い、親分衆を皆殺しにし、彼らのシマを貰うとうそぶくと姿を消す。そこに 駆けつける永流。瀕死の次郎長だったが、永流は持っていた毒消しでかろうじて彼の命を救う。
一方、辺りを調べに走った草臥は凶介に出会う。その顔は、昔なじみと瓜二つだった。だが、凶介は覚えがない。不審に思う草臥。
日の本にはいない毒蟲を使う侠客。昔なじみにそっくりの男。
謎に満ちた身堂一家を探るため、永流と草臥は彼らの根城である富士の裾野の無頼(ぶらい)の宿(しゅく)を訪れる。
蛇蝎と麗波が築き上げたその街は、喧騒と猥雑と絢爛と頽廃に満ちていた。
豪胆にして無慈悲な蛇蝎が仕掛ける、人の命を金で買う大博打。その妖しき美貌と奇怪な術で人を惑わす麗波。草臥に刃を向ける凶介の正体は。揚羽と側近の風天千之介<ふうてんせんのすけ>(粟根まこと)らに秘められた過去とは。
身堂一家が巻き起こす無頼の風に巻き込まれる永流と草臥。その果てに己自身の宿命と因縁が明らかになり、やがて、日の本の命運すら揺るがす策謀と立ち向かうことになることを彼らはまだ知らない。

撮影:田中亜紀