本作は、米ソ冷戦激化の時期を背景に、シベリア抑留者の帰還をめぐって当時の日本社会を揺るがせた実際の事件「徳田要請問題」をテーマに木下順二が書き下ろした作品で、誠実に生きたいと願った青年が、苛烈な政治的対立の抗争の場に引きずり込まれ、ついに自殺へと至った事件を、寓意あふれる蛙の世界に写し取った傑作。

演出はウォーリー木下、音楽はトクマルシューゴと西村直晃、振付は北川結、仁科幸が務める。
出演に中山優馬、矢崎広、音月桂、中村里帆、市川しんぺー、神保悟志、温水洋一など彩り豊かな俳優たちが集結し、懸命に生きるユニークな蛙たちを演じる。
世間のありように揺さぶられ、容易にゆがめられてしまう「個」という存在の脆さを生々しく抉り取り、人間の存在の意味をも私たちに問いかけます。

【演出・ウォーリー木下 コメント】
この『蛙昇天』は蛙しか出てきません。小さな池の、蛙の世界で起こる「戦争」にまつわる悲喜劇です。戦後の混乱の中で実際に起きた事件を元に、1951年に木下順二氏が風刺劇として描いたもの。それから80年近く経ちましたが、果たしてこれは過去の話なのでしょうか? 民主主義とか、個人とか、自由とか、それらを踏み潰そうとする暴力や分断は、もしかしたら現在の方が悪化もしくは色濃く顕在化しているのかもしれません。僕がこの戯曲に強く惹かれるのは木下戯曲の持つ遊戯性とユーモア、そして登場人物たちの迷いが常にマーブル模様で(水の中の光の反射のように)ゆらめいていること。それらを固定化せずに、同じ木下姓として、ついでに木下大サーカスもリスペクトして、パフォーマンス劇として作ってみたいと思います。お楽しみに。
ウォーリー木下

<あらすじ>
ここは池の底に広がる蛙の世界。自分たちの住む池に突然石が投げ込まれる事件が起こる。取り囲むアオガエルたちは、これは陰謀ではないかと騒ぎ始める――。
アオガエルの国では、2大政党のデモフリ党とカプリ党が政権争いを繰り広げていた。デモフリ党の構成員たちはカプリ党を陥れようと、あれやこれやと画策する日々を過ごしている。そんなさなか、アカガエルとの戦争に負け、捕虜に取られていた仲間たちの帰還が活発化。帰ってきた一部メンバーから、あるアカガエルの一言についてデモフリ党に告発が舞い込む。カプリ党から捕虜が「アカガエルになるまでは帰してもらっては困る」と要請があった、と言っていたというのだ。格好の争いの種となったこの発言をめぐって、大騒動が勃発する。その矢面に立たされたのは、この一言をアオガエル語に通訳した帰還兵のシュレ。たくさんの思惑が渦巻く中、シュレは証言台に立つ。彼はただ、あるがままの真実を伝えようとするのだが――。