加藤が2015年に出版した短編小説集『傘をもたない蟻たちは』に収録されている『染色』は、美大生のリアルな日常と葛藤を描いた物語。
自身の才能に葛藤する等身大の美大生・深馬役を演じる正門は、今作が舞台単独初主演。ほか、壁にグラフィックアートの落書きをする謎の女性に三浦、深馬の大学の友人役に松島庄汰と小日向星一、深馬の恋人役に黒崎レイナ、そして深馬が所属するゼミの教授役を岡田が務める。

当初は2020年6月の上演予定だったのが新型コロナウイルス感染症の拡大を受けてやむなく中止に。1年越しの復活上演となり、「すごく楽しみでワクワクしている」と正門。「正直めちゃくちゃ緊張してます。でも、この1年間で楽しみや期待の方がどんどん高まってきて、今は程よく色んな感情が自分の中にあります」と率直な思いを語る。

主演舞台『グリーンマイル』で演出×主演としてタッグを組んだ演出家・瀬戸山と、今作では演出×脚本としてタッグを組み直す加藤は、「クリエイターの加藤シゲアキです」と挨拶し笑いを誘う。「昨年の公演に向けて瀬戸山さんと何度も打ち合わせして、すごく良い台本が出来たねって話した次の日に決定してしまい、せっかく良いものを作れたのに悔しいですねという話をしました。もう一度上演する機会をいただけたのはすごく嬉しかったですし、この1年色々あった想いをエネルギーにして良い作品にしたいと、瀬戸山さんと気持ちをひとつにしてここまでやって来れたと思います。すごく良いものが出来るんじゃないかなと実感しています」と、上演に向けて期待を寄せた。

事務所の先輩である加藤の脚本ということもあり、プレッシャーを感じていた正門は「初めてお話をいただいた時はビビりまくってました」と当時を回顧。
「でもプレッシャーですよね」と話す加藤は、「決して簡単な役ではないですし、かといって正門に合わせるのも失礼かなと。なので、この役に飛び込んでもらうつもりで遠慮なく書かせてもらいました。稽古場に何度か足を運ばせてもらって、どんどん成長していく姿は見ていてたくましいですし、初舞台なのに堂々としてるなといつも感心しています」と後輩の頑張りに目を見張る。

共演者として、正門の俳優としての姿について問われた岡田は、「近年稀に見る真面目だなと思うぐらい真面目」と話し、「その姿勢はすごくこちらに伝わってくるので、アドバイス出来ることはいくらでもするし、逆に分からないことは全部聞いてっていう話をコミュニケーションの中でしていた」と明かす。「考えるタイプなので、周りが一瞬見えなくなっちゃうことがあったりして、そういうのを見てると可愛いなというか。自分も考え込んだ時期があったので、アドバイスをするわけでもなく外から見守って正門くんが答えを出すのを待つことが稽古でもありました。なんか調子悪そうだなと思った時は「今日調子悪い?」って聞いてあげたり、あまりノッてないねっていう時には「今日は乗り切れない?」って、身体の状態を聞くようにはしていました」と稽古中のエピソードを振り返り、正門は「ありがたかったです。カウンセリングに近いというか、本当に支えてもらいました」と笑顔を見せた。

劇中で正門と息の合ったコンビネーションを見せた三浦も、「岡田さんがおっしゃったように真面目で誠実で、しっかりされている方かなと思って、実際はほとんどそういう印象なんですけど……」と話すも続きがあり、「割と抜けているところがあるというか(笑)。そういう瞬間に稽古場でも笑いが起こって、たぶん意図してないと思いますけど、稽古場の雰囲気をすごく盛り上げてくれるなって印象です」と、明かした。

加藤から正門へ楽屋のれんが送られた話では、「昨日小屋入りで、入った瞬間にスタッフさんがぶわーって走ってきて「ちょっと待ってください!」って言って、携帯で動画を回しだして」と、正門。「何を撮られてるんやと思って、分からんまま楽屋の前に行ったらのれんがかかってて、そのファーストリアクションを動画に収めたいっていうのがあった」と話すも「その動画僕見てないんだけど?」と加藤の言葉に「見てないんですか?加藤さんに送ります!って言ってたんですけど」と正門が焦る一幕も。
写真は確認したものの動画は見てないようで、「あとで確認しておきます」と加藤。「そんなサプライズがありました」と嬉しそうに話す正門だった。

最後に意気込みを聞かれた正門は、「スタッフさんとこのキャストの皆さんと全員で、千秋楽まで完走するというのを目標にやって行けたらいいなと思いますし、来ていただいた方に後悔ないようにしっかり楽しんでいただけるよう、作品を届けたいなと思っております。頑張ります」と会見を締めくくった。

東京公演は5月29日から6月20日まで東京グローブ座、大阪公演は6月24日から6月30日まで梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演される。

撮影:阿久津知宏