古代ギリシャの三大悲劇詩人の一人ソポクレスが紀元前427年頃に著した『オイディプス王』。世界最高峰と称されるギリシャ悲劇でありながら、実は解りやすく求心力の強い作劇、ミステリアスな展開は眼も耳も捉えて離さず、人生の不条理を魅力的にドラマティックに描いた大作。
この『オイディプス王』を、パルテノン多摩はリニューアルオープン1周年記念として2023年7月に上演。演出は石丸さち子が務め、本作に渦巻く人間の不条理、交錯する深い愛情と愛憎、叙情的な台詞と衝撃の展開が連続する世界観を、悲劇でありながら圧倒的な感動作として創り上げ大好評を博した。

主演のオイディプス王は、2023年公演時に“ゆるぎない表現力とカリスマ性”が絶賛され、今回さらなる進境が期待される三浦涼介、先王ライオスの妻でオイディプスの母、のちにオイディプスの妻となるイオカステは、元宝塚歌劇団トップスターで退団後も舞台を中心に活躍を続ける大空ゆうひが務めます。国民から信頼されるイオカステの弟クレオンには近年舞台俳優として躍進する岡本圭人。さらに、浅野雅博、外山誠二、大石継太、今井朋彦と実力派キャストが集結。加えて、多彩な舞台で活躍する俳優とダンサー計16名が「オイディプス王」上演史上で最も多層的なコロス陣として出演し作品世界を支える。

公開稽古では、プロロゴス神官(今井朋彦)が登場し、コロス16名が祈りの舞を披露。オイディプス(三浦涼介)が現れ、神官がオイディプスに「国と民を救ってほしい」と嘆願するシーンから、アポロンの神殿からクレオン(岡本圭人)が戻ってきて神託を告げるシーン。さらに預言者テイレシアス(浅野雅博)がオイディプスと舌戦するシーンが披露された。






また、公開稽古終了後には、三浦涼介、岡本圭人、演出の石丸さち子が囲み取材に登場。
公演初日を2週間後に控え、三浦は初演を思い返し、「僕は舞台に立てるんだろうかという不安感の中で日々過ごしておりまして。『オイディプス王』の初日が開けたということは僕が生きていたということでしょうという話をしていたんですけど、何とか無事に幕が上がり、幕が下りたわけですが、そこからすぐ再演のお話をいただいて、すぐに『オイディプス王』の気持ちでした。楽しみにしていました」と笑顔を見せる。そして、稽古真っただ中の現在、「前回はたくさんのキャストの皆さん、スタッフの皆さんに支えられて、オイディプス王として立たせていただきました。今回はできるかぎり僕ができること、何か皆さんに渡せるもの、できることなら助けてあげられること、たくさんのことを心に決めてお稽古場に入りました。それがすごくオイディプス王を演じるにあたって大切なものになっているなと。シーンごとにたくさんのことを皆から受けて、オイディプス王として立たせていただいている稽古期間です。充実しているなと心から思っています。楽しんでお稽古に励んでいます」と、初演とはまた違う心持ちで稽古に臨み、充実さを感じている様子だった。

初演当時のことは「記憶が無いんです……」と振り返る三浦は「毎日精一杯やるということだけだったんですけど、今回再演で稽古に入り、こんなに皆優しい顔しているんだとか、こんなに皆面白い人なんだって知れました。当時使っていた稽古場用の洋服があったんですけど、こんなデザインだった?っていうことすらも前回は全く分かってないまま、ただそれを着て歩いているというぐらい、本当に記憶がございません」と話しながら、「ですが、それを経たからこそ今がすごく幸せだなって思うことばかりで、一個一個大切にして、これからの人生にためになることをいただいている状況なので、精一杯やろうと思っています」と微笑んだ。

本作がギリシャ悲劇初挑戦となる岡本は「元々強い憧れはあったんですけど、シーンに入ってセリフを言うごとにつれてだんだん自分が持っていなかったものだったり、知らない感情とかっていうものがギリシャ悲劇の言葉が何か自分の奥底から出してくれているような気がして、そういった感覚を味わえるのがギリシャ悲劇ならではだなと思います」と語る。「自分のセリフの中で、オイディプスに対して『真の友を切り捨てようとするのは、その身から最も大切な命を切り捨てるようなもの』という言葉があるんですけど、その真の友というのは三浦さんのオイディプスを指しているわけで、早く真の友になれるように……なってないわけではないんですけど(笑)」と笑いがこぼれると、三浦が「僕のInstagramをフォローしてくれました」と報告し、続けて岡本が「オイディプスの抱えている問題だったり、使命だったりそういったものは本当にすさまじくて、その中で孤独に生きている人だと思うので、自分の演じるクレオンというのが、寄り添うシーンはそんなに無いんですけど、オイディプスとの関係性をどういうふうに見せられたら、こっちが感じられたら良いのかなというのを思っていて、昨夜、まずはInstagramを(笑)」と、実生活でも三浦との距離を縮めたことを明かした。

「この稽古期間の中、自分が出ていないシーンを見ていて心が揺さぶられるばかりで、コロスのメンバーの人たちも本当に素晴らしいですし、ダンスだったり、体の底から出てくる動きというのが涙を誘いますし、三浦さんが演じるオイディプスも本当に素晴らしくて、今、こんなオイディプスを演じられる俳優さんってなかなかいないんじゃないかなと、稽古を見ていて思っていて、早く自分もこのチームに参加して、何か影響を与えられるように稽古を頑張っていきたいなと思っています」と意気込む。
ただ、課題点があると話し、「クレオンという人物の深さや考えていること、オイディプスとの関係だって、もっと深いと思っていて、まだそこの部分というのは見つけられていない部分でもあるので。でもそれは不安ではなく、それを石丸さんと一緒に探して見つけていった時に、どういう人物になるんだろう、どういう劇になるんだろうとすごくワクワクしている状態です」と期待を寄せる。

「これほど言葉を信じて、言葉を自分の中から探して、言葉を届けるというこんなにオーソドックスな演出をしている、そして役者さんたちがすごいエネルギーを持っている舞台は、今まで自分の人生の中であまり見たことないぐらいのエネルギーが稽古場の中で蔓延していて、自分自身がこのカンパニーの中に入ってできること自体がすごい光栄だなと思います」と恐縮し、「見てて分かるんですよ、言葉が分からなくても。とりあえず分かるという、聞いていて、見ていて。そこまでのギリシャ悲劇というのは今までの人生の中で見たこと無いなと思っていますので、だから今年やるギリシャ悲劇の中で一番すごいものになるんじゃないかなと自分が稽古に参加していて、そして見ていて思います」と絶賛。「ここまで伝わるものというのは古典ならではだなと思いますし、2500年間世界中で上演されていた力がこの戯曲にはあると思うので、ちょっと難しそうだな、暗そうだな、まだ迷っている方はぜひ見に来ていただきたいです。今を生きている皆様が、この2500年前に書かれた『オイディプス王』を見た時に何を感じるのか、自分もすごく興味があるところなので、ぜひ劇場に来ていただきたいなと思います」と語った。

演出を務める石丸は本作について、「本当に悲劇だけを見るんだったら、今世界を見てればいくらでも、本当に胸の痛むような時代ですけれども、悲劇を演じる中に独特の美しさがあって、かつ、我々が作った『オイディプス王』はそれでもまだ生きている、自分を追放することでこの国を救ったんだという希望を持てる『オイディプス王』にしようと三浦さんと話をしていて、それを叶った時は大きな喜びで、すぐに再演が決まったというのは、この魅力がしっかり伝わったからだと思うんです」と語り、「再演はまた怖いもので、焼き直すわけにはいかず、かつての輝きが戻ってくるか、色んな恐怖と戦わなければいけないんだけれども、再演の稽古で会った三浦くんは笑顔で、そして最初から信念を持って舞台に立っていて、それでいて皆と穏やかに接しながら、内にまた新しい恐怖を持っているような気がしまして。私もその有様を見て、またこの作品を再び演出するための気合いが入りました。本番にはきっとご期待に応えられると思います」と熱弁。

最後に、公演を楽しみにしているお客様へメッセージ。
石丸は「今までのギリシャ悲劇のイメージを覆すような、とても鮮烈で繊細な心の揺れが表現された、そしてとても美しいオイディプス王の舞台になると思っています。こればっかりは劇場に来ていただかないと、その輝きを受け取っていただけないので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいと思います。それだけの価値のある時間が流れます。お待ちしております」と呼びかけた。
岡本は「このオイディプス王という作品をパルテノン多摩で上演するという。すごくないですか?なかなか見れることじゃないなと思ってて、このためにパルテノン多摩って作られたんじゃないかなとか思ったりして(笑)。大阪公演はSkyシアター(MBS)で空の劇場って、これもギリシャっぽいなって思っていて、その場所で今のこの時代に、皆さんとともに過ごせたら幸せだなと思います」とコメント。

そして三浦は「前回、ゲネプロ後に『命かけます』ってことを言ったんですけど、今回は命大切にします(笑)」と笑いを誘いながら「というのは、お芝居をする上で体の健康だったり、心の健康だったり、それがすごく大切だと思ったので、自分のことを大切にして、相手のことも大切に思って、精一杯信念を果たせれば良いなと思いますので、心を込めて演じますので、ぜひ劇場でお待ちしております」とメッセージを送った。