――本作品は夏休みの間に起きた物語ですが、井上さんの夏休みの思い出は?
私は田舎育ちで、とにかく野生児みたいな感じだったんですよ(笑)。一歳上の兄と一緒にいつも外に出て、セミを捕まえたり、川で魚とか沢ガニを捕まえたり、野鳥を見に行ったりしていました。夏休みが大好きで、ずっと外を走り回っていました。
夏休みの宿題で、セミの抜け殻を大量に集めて作った作品を提出したら先生にドン引きされたことがあって(笑)。国語や算数とかの宿題は全然やらないけど、自由研究とかに熱心に取り組むタイプでした。
――劇中で土方先生がかつて映画監督を目指している回想シーンがありましたが、この撮影はどうでしたか?
監督の出身校の映画部の方々に出演いただいたんですけど、普段から自分たちで映画を撮っている方々で、色々意見を出してくださってありがたかったです。撮影シーンはとても楽しかったですね。

――撮影現場で印象に残っているエピソードを教えてください
子どもたちがとにかく可愛すぎて毎日癒されていたんですが、子どもたちもやっぱりプロだなと思うところがいっぱいあって。最初のリハーサルの段階から、脚本を読み込んで既に自分たちが演じるカメラマンさんの動きや照明さんの仕草とかを熟知している感じで、「この子たちは普段から映像を撮る時に周りの人を見ているんだな」って思ったんです。もし自分がカメラマン役になったら、いきなりどう動いて良いか分からないと思うんです。でも子どもたちはリハーサルからすぐに自分で動いてやっていたのですごいなと思いました。例えば音声さん役はマイクの持ち方もすぐに出来ていましたし、スタッフさんのことをちゃんと観察しているなと思ったので、私のことも見られていると思って気が引き締まりました。
――宮岡監督はどのような方でしたか?
ホワホワとしていて柔らかい印象の方で、強い指示ではなく、むしろ「こういうの良いですね」ってすごく褒めてくださる方でした。とてもやりやすかったんですが、映画に対する熱量はものすごく熱くて、だから主人公の陽太くんが大人になったら多分監督になるんだろうなって感じが伺えました。実際に監督が小学生の時に作った映画も拝見したんですが、本当に映画が好きなんだなということが真っ直ぐに伝わってきて、映画を心から愛している方と一緒に仕事が出来たことは私にとってもすごく刺激になりました。
――「やり残したことがないように過ごしなさい」というのがキーワードになりますが、井上さんがやり残したことや後悔していることは?
自分が芸能活動を始めたいと思った時に、唯一賛成してくれたのが母だったんです。母だけが頑張れと言ってくれたから今の自分があると思っています。それでも、高校卒業のタイミングで大学に進学して将来は就職しようか、先が見えないけれど芸能界で続けていこうかと悩んだ時期があったんです。大学の見学にも行ったりして。それを母に相談したら「今しか出来ないことをやった方が良いよ」「今の自分は今しかないから」と後押しされて芸能活動を続けようと思ったんです。だから、その選択は今でも後悔はしていません。でも、唯一後悔があるとしたら、学校生活をちゃんと送っておけば良かったなって……。修学旅行とか文化祭とか運動会とか、今思い返すとその時にしか出来なかったなって思います。その時はお仕事をやりたいから気にしていなかったんですが、両方頑張る方法はなかったのかってあの時の自分に言いたいなと思うことはあります。
――現時点で、今しか出来ないことを続けられている実感はありますか?
やっぱりその年齢でしか演じられない役もたくさんあって、今までは生徒役の方が多かったんですが、今回の先生役で、自分もそういう年齢に達したんだという実感がありました。そして、その時その時に来る役によって自分を客観視したり、じゃあ次はこういう役に挑戦してみたいと思えたりして、少しずつ今しか出来ない、今の自分にしか見せられないものをもっと大切にしていこうという気持ちが増してきた気がします。

――改めて、地元である埼玉で撮影出来た感想はいかがでしたか?
私は本庄市出身なんですが、実は入間には初めて行ったんです。でも都会からのアクセスも良いし、自然も豊かで、都会と自然の両方良いとこ取りの街だなと思いました。子どもたちも「いつかここに家建てたい!」と言っていたぐらい、とても居心地が良かったです。
――本庄市を舞台にした作品も出来たら良いですね
いつかやってみたいですね!本庄市は川がとても多くて、私もよく沢ガニやザリガニとかを素手で捕まえていたぐらい自然が豊かなんです。戦争で空襲をあまり受けていないということもあって歴史的な建造物がたくさん残っていたりするんですよね。それが街並みの中に馴染んでいて、蔵を再利用したカフェとか素敵なところがいっぱいあるので、そういうところで撮影が出来たらなと思います。
――この作品を通してどのようなことを学びましたか?
子どもたちが主体で自分の持っている夢や憧れに対して真っすぐに突き進む姿もすごくキラキラしていて素敵なんですけど、その周りにいる大人たちの在り方も教えてくれる作品なのではないかなと思いました。自分の在り方についても教えられるような、ただ楽しい作品なだけではなく深い部分もある作品だなと思いました。
――井上さんから見たこの映画の見どころを教えてください
埼玉の入間が舞台になっているので、埼玉の魅力を全国に発信出来たらなと思いますし、出演者も埼玉出身の方が多くて、同じ地域で育ってきた人たちが東京で再会して、また地元で仕事が出来るという感覚がすごく嬉しかったので、自分にとって大事な方々との出会いになった作品です。あとは、コロナ禍を通して感じるのが若い世代の方々が次の時代を作って行くはずなのに、その子たちが今すごく生きづらくなってしまっているという状況に胸が痛くなることがたくさんあって。でもこの作品には何か自分の好きな物や憧れを大事にする気持ちをしっかり持っていてほしいというメッセージも含まれている気がしているので、若い世代の方に見てもらいたいですね。また、夢を諦めてしまいそうな、今壁にぶつかっているような大人たちが見ても心に刺さる作品になっていると思います。子どもを持つ親にとっても、子どもへの接し方などすごく学べるところも多くて、老若男女すべての皆さんの心に響く作品です。たくさんの方に見ていただきたいです。


カメラ:秋葉巧、文:村松千晶