本作は、2022年3月に人気番組『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系列)を通して発見され、井上ひさしが「井上ひさし」を名乗る前の1959年、24歳の時に執筆した作品。東北の民話「馬喰八十八」(ばくろうやそはち)をベースとして構築された戯曲で、マレビトである主人公・太郎が、病身の母親と馬を一頭連れて村にやってくる。馬地主をはじめとする村の男たちを騙して金をとことん巻き上げていき、出会う女は全て虜にして捨てていく…。自らの弁舌と才覚だけを信じ、信仰も否定するという胸がすくほどの極悪ぶりで、閉鎖的なムラ社会と常識を破壊していく様が描かれる。若々しい筆の勢いと生命力に溢れ、のちの井上の名作に繋がる創意に満ちた痛快な作品である。

本作で、周りを魅了していく極悪人・太郎を演じるのは、人気グループWEST.での活動だけでなく、俳優として、舞台『エレファント・マン』で20年度読売演劇大賞・杉村春子賞を受賞し、昨年の『梨泰院クラス』でも評価が高い小瀧望。今回、初の悪役、初の井上ひさし作品への挑戦となる。
そして太郎に翻弄される村人たちには、音月桂、加藤梨里香、大鶴佐助、小松利昌、小林きな子、小柳心、尾倉ケント、森加織。更に安井順平、梅沢昌代といった個性豊かな実力派が集結。
パルコ・プロデュース『ラビット・ホール』と東宝ミュージカル『ラグタイム』で23年度読売演劇大賞の最優秀演出家賞と大賞に輝いた藤田俊太郎が、自身の出身地である東北を舞台にしたこの井上ひさしの原点ともいえる戯曲を、現代的な眼差しをもって演出する。

公演初日を前に、開幕前会見に登場した小瀧は「初日は明日ですが、今日初めて舞台上でのゲネプロをやるということで、非常に高揚感というか、ワクワクドキドキで。本当に内容が濃くて、それを一つ一つ、井上先生の言葉を余すことなく皆さんにお届けできたらなと思います」と、会見後に控えている公開ゲネプロへの想いを語りながら挨拶。

数々の名作を生み出してきた井上ひさしの未上演戯曲の演出について、藤田は「この愛おしいカンパニーのメンバーで、未上演作品を上演できるのは心から幸せに思います。僕自身、東北の秋田県出身ですが、小さい頃から親しんで敬愛する井上ひさしさんの作品に挑戦できるのはこの上ない喜びです。言葉、物語を大事に演出に取り組みましたが、気負うことなく、エネルギーにあふれた新しい作品に新しい気持ちで取り組みました」と話し、「井上ひさしさんがもし観客席で、もし明日来ていただけたら嬉しいなと思いますが、見ていただけたら、喜んでくださるんじゃないかなと思っています」と客席を見る。

井上作品への挑戦を、小瀧は「井上先生の作品を舞台で見たことはあるんですけど、この作品は若かりし頃の荒々しさみたいなものがどこか残っていて、この時代の言葉にしているところもあれば、現代っぽい言葉遣いもあり、それが入り混じってて、役者たちは非常に悩まされて苦しみました」と苦戦したことを明かしながら「何を描きたかったのか、テーブルワークから初めて、日々役者同士で意見を出し合って、なんとか井上先生に食らいつきました」と稽古の日々を振り返る。「一人で読んでいる時より、役者の皆さんが息を吹き込んだ方が、こんなにもコメディなんだと感じて、すごい悲惨なシーンもありますが、皆さんの軽快な会話を滑稽に思って楽しんでいただけたらなと思います」とコメント。
また、藤田の演出については「最初からこうです、と提示するんじゃなくて、役者に自由にやらせていただいて、どんどん自分の太郎の部分を引き出してくださるので、色んなことに挑戦できて楽しかったです」と笑顔を見せる。

会見に登壇した音月、安井、梅沢とは初共演となる小瀧。改めて共演した感想を「色んなところから色んな人が集まった感じなんですけど、梅沢さんがいらっしゃるのが、僕の大きな支えと言いますか、母と子という関係ではありますが、井上ひさしさんを知る役者の方がいるというのは、精神的支柱です」と、大先輩との共演が心強かったよう。

そんな梅沢は、小瀧について「素晴らしいですよ。ダイナミックで繊細だし、信頼できる役者さんだな、と」と言葉があると、嬉しそうにする小瀧の姿が。
音月からも「のんちゃんはアイドル活動もされていますし、他の作品を拝見すると硬派な役が多いように感じていたので、最初に初めましてで本読みをやった時に、すごく荒々しく、良い意味で印象にギャップがあったというか、ピカレスク俳優みたいな。こういう役をさせたら右に出るものはいないんじゃないかと。それぐらい台風のように色々なシーンを振り回してくださるから、素晴らしい役者さんだなという印象で、褒めまくる(笑)」と大絶賛に、小瀧は嬉しそうにしながら「汗かいてきました」と照れる場面も。

そして安井も「初期の段階で藤田さんから役者に対して質問があった時に、『僕は数ページ前のこのシーンがこうなっているので、こうします」というようなディスカッションをしていて、非常に本を読める俳優さんだなと思いました。きちんと本を読んでいるからこそ、その答えが出るんだなと、現場で垣間見えたので、こいつできる!と。素晴らしかったです」と続けると、あまりに褒められ続けて「ゲネプロ、ボロボロかもしれないです!」と笑いを誘う小瀧。

藤田は、稽古場の日々を振り返り、「のんちゃんはアイデアを持っている方。身体的にも思考的にも、本を読んでアイデアを持っている方で、稽古場ではのんちゃんのアイデアに音月さんが違うアイデアを引っ張り込んでくださって、それを梅沢さんががっしりと全体を見て受け止めて、さらに深いアイデ作品を包み、そして安井さんがまた違う角度で切り込んできて、どんどん作品が上昇していく良い稽古場でした」と、相乗効果が生まれていたと語る。その中で、小瀧について「稽古を通して、演劇の世界で生きて演出していますけど、演劇人・小瀧望を尊敬しています」と話すと、小瀧は「もう今日ゲネプロ休んで帰りたいです!不安で不安で。温かい目で見てください。良いところだけ使ってください!」と会見に駆けつけたマスコミへ呼びかけた。