本作は、鋭い観察眼と綿密な取材を基に人間や題材を多面的にとらえ、緻密で丁寧、時にコミカルで小気味よいタッチの会話劇を得意とする劇作家・横山拓也による戯曲。
“いつの間にか登場人物の葛藤に立ち入っているような感覚に陥る”横山作品を、国内外で高く評価される演出家・ウォーリー木下の演出で贈る。

主演を務める加藤シゲアキは、本作で描かれる二つの家庭の一方、築野家の長男・一(はじめ)を演じる。NEWSでの活動のみならず、俳優として、そして作家としても八面六臂の活躍を見せる加藤。2021 年に自らの著作を舞台『染、色』として舞台化した際には上演台本も手掛け、第66 回岸田國士戯曲賞では最終候補作にノミネートされるなど、ますます注目を集めている。
共演には、須賀健太、徳永えり、前野朋哉、河村花、そして多岐川裕美と、巧緻で周到な会話劇を織りなすにふさわしい、実力派俳優が集結。

開幕に先駆け行われた取材会では、キャストの加藤シゲアキ、須賀健太、演出のウォーリー木下が出席した。

「本日はお足元の悪い中ありがとうございました」と挨拶をした加藤は、「舞台自体がとても春らしい舞台なので、季節感を楽しんでもらえたらなと思いつつ、このひと月、公演を無事に出来るのかっていう緊張感をずっと抱えながら、昨日の通し稽古までずっとマスクをした状態ですごく気を遣ってやってきたので、今日を迎えられたことを本当にほっとしております」と、稽古期間を経て公演初日を迎えられた喜びを話す。

続く須賀も「シゲさんもおっしゃってくださったように、今日をまず迎えられることが、それ自体がものすごく一つの奇跡のようなことだなあと思っていて。もちろんどんな舞台でも初日を迎えられることはすごくありがたく大切なことですけれども、より一層その大切さやすごさを感じている状況です。最後まで全員で何もなく走り抜けることが一番の目標であるので、今日からも頑張っていきたいなと思っています」とコメント。

今作で加藤と須賀は兄弟役となる。それぞれの役柄について、加藤が演じる一は41歳のフリーターであり「だらしなく、家族に甘えてすねをかじるような、そんな兄を演じております」と話し、一方、弟の紡(つむぐ)を演じる須賀は「兄の一とは真逆というかしっかり者で。だからこそお兄ちゃんに対する色んな感情があったり、そこをお互いに会話の中で、ぶつけあうところが見どころかなと思っております」と説明。

お互いをどのように思っていたか問われると、須賀は「役とシゲさんのギャップがすごいというか、稽古場では引っ張っていってくださったり、方向性や細かいニュアンスを二人で相談しながら作らせていただいて、そういう部分は頼れるんですけど、役柄上は本当にどうしようもないお兄ちゃんなんです。10分前はこんなにしっかりしてたのに、めちゃめちゃダメな人になっちゃうみたいな、なんか脳がおかしなことになってました(笑)」と語る。

一方の加藤は、「どうしようもない兄なんですけど、健太本人も役もしっかりしていて、僕は本当に甘えていましたし、毎回稽古ごとに違うことをしても受け止めてくれる包容力があるので、感覚的にどっちがお兄ちゃんか分からないようなところがありました」と振り返った。
普段はしっかりしている真面目な役を演じることが多い加藤は、「こんなにふざけられるって楽しいんだって思いました。ふざけすぎて本番どうなるか自分でも分からないところもありますけど、すごく楽しみです」と期待を寄せた。

どのような物語になっているのかを問われると、「家族の話であり、宇宙の話です」と返した加藤。「兄弟と夫婦の二人ずつの話なんですけど、”運針”という時計の針が進んだり、編み物の針で色んなものがどんどん編まれていくような作品になっていて、小さな話がどんどん広がって、壮大なところに帰結していく、宇宙的な話です」と説明し、「どんな話か気になる方はぜひご来場ください!」と微笑んだ。

演出を務めるウォーリーは、今作品の特徴として「横山(拓也)くんの本自体がとても物語性が強いですが、詩的な部分もあって、見る人が色んな解釈が出来るような作品ですし、テーマ自体もお客さん自身が考えられるような余白がたくさんあるので、そこを楽しんでもらえたらと思います」と話し、「演劇って人間力だなってつくづく思うというか、僕は演出家という立場で形作りはするんですけど、それを今回6人(キャスト)と2人(演奏者)が越えてくれたし、そんな素晴らしい8人が舞台上で駆けずり回っております」と出演者を絶賛。

そして今作では舞台のセットが、天井から無数の糸が垂らされた特徴的なセットとなっている。
このセットについてもウォーリーは「出演者・スタッフの皆さんが新しいことにチャレンジしようと挑んでくれた舞台で、前のめりな感じというか、こういう時だからこそ失敗を恐れずに思い切ったことをということで、結構思い切った舞台美術なんですけど、楽しみにしてください」と語った。

加藤とウォーリーは今作が初タッグとなる。ウォーリーの演出について感想を聞かれると、加藤は「すごい楽しかったです」と答えながら、「正直、最初に台本を読んだ時に、話自体はとても面白いんですけど、動きのすごい静かな台本だったので、セリフは大変だけど動き的には楽かなと思って臨んだんですけど、思ってたのと全然違っていたというか(笑)、ウォーリーさんはすごく役者を動かすんです。役者は皆「こんなことになるとは」みたいに言っていたんですけど、本当にこんな解釈があるんだって驚かされました」と、ウォーリーならではの演出に洗礼を受けた様子。「でも、ウォーリーさんも最初は「そんな別に動かなくて良いんじゃない?」みたいな感じで、全然言ってることが違うんですよ!」と続けた加藤に対して、ウォーリーも「動かなくていいと最初は思ってたんですけど……」と言葉を濁す。
すると、過去に「ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー‼︎』」でウォーリーとタッグを組んでいた須賀も「ウォーリーさん、大体毎回そう言いますよ」と話し、「今回は動かないって俺は何回聞いたことか!今回こそ脚本的にも動かないと思ったので信じられると思ってたんですけど、まさか今回までもこんなに動くのかって……」と続ける。
加藤は、「「ウォーリーさんの言葉は真に受けないでください。絶対変わるんで」って健太から告げ口からありました」といったエピソードも明かした。

最後に意気込みとファンの方へのメッセージを聞かれた加藤は、「キャスト・スタッフが全員揃って今日を迎えられたことが本当にホッとしています。昨年出演した舞台(『モダンボーイズ』)では、大阪公演が中止になってしまいました。感染状況次第だとは思いますが、今年は大阪公演まで走りきりたいです」と力強く挨拶し、会見を締めくくった。

舞台『粛々と運針』は、3月8日(火)から27日(日)まで東京・PARCO 劇場にて、その後4月8日(金)から10日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演される。