――新型コロナウイルス感染症の影響により中止を余儀なくされましたが1年越しに上演が決まりました。今のお気持ちはいかがですか?
まだコロナ禍ではあるので一安心とまでは言えず、不安はまだまだあります。前回は稽古を一日も出来ずに中止という判断になってしまいましたが、今は日々稽古に勤しんでいて、その日々が楽しくて仕方ないという感じです。
――今作では作・演出に加えて主演ということですが、上演へ向けたお気持ちをお聞かせください
自分が作・演出をしている作品に対して毎回「最新作が最高傑作でないといけない」というポリシーを掲げています。それを続けていれば間違いなくどんどん面白いものを生み出していけると思っていて。なので『-4D-imetor』も最高傑作にしないといけないというプレッシャーはありますが、役者として、また脚本家・演出家としてサボらずに向き合わないといけないなと思っています。忙しいからとか、同時にやっているからという言い訳は出来るんですけど、言い訳に使いたくないので、どのセクションでも自分という一個人ではありますが、三人いるという感覚で、今までで一番面白いものを作るという気合を持ちながら挑んでいます。

――脚本・演出の点で苦労した点はありますか?
苦労はありましたが苦しみはなかったですね。元々量子力学や物理、化学といった理系分野の学問が好きなので、割と楽しんで作っていました。でも知識をアピールしたいわけではなく、そこにある面白さをエンターテインメントとして昇華していきたいなと思っていました。台本を読むだけだと小難しいんですけど、これを演出でいかに難しくなくするか、というところにかかっていると思っています。今見えているビジョンだと、例えば小学生が観に来ても面白いって言ってもらえる勝算はあるかな、と。ネタバラシは出来ませんが……(笑)
――どんな演出になっているのか、すごく楽しみです
観に来ていただく方の中で、99%はこの学問について詳しくないと思うんですよね。その人たちにいかに面白さを伝えられるかが大切なので、そこは曲げずに作っていきたいです。
――昨年の時点で決まっていた演出からアップデートされた部分は?
演出は結構ガラッと変わっています。脚本に関しても改稿を重ねましたし、キャストも変わったということもあって、キャラクター造形とかも大きく変わりました。もちろんベースとなるものは変わらないんですけど、テーマ性やメッセージ性を強くした部分はあります。あとは演出で一番大きな変更点はマジックですね。イリュージョンの部分は元々コロナ禍以前に考えていた演出だったので、客席降りがあって、お客様一人一人と触れ合って体験してもらおうと思っていたんですけど、このご時世さすがにそういう演出をするのは難しいということで、お客様と触れ合わない演出にしないと、となりました。ただ、それで出来なくなったからパワーダウンしたとなるとつまらないので、そこはより驚けるようにというか、逆手にとって客席と舞台が離れているんだけれども客席に座っている全員がまるで魔法にかかったような現象が起きるという、そういった演出を新たに付け加えました。
――渡来暦を演じるにあたり、気をつけようと思っている点は?
先生にならないといけない、ということを意識しています。当然この物語では彼は量子力学を理解していて、その上で彼なりの言葉で事象や物事を形容するわけですが、それをそのまま完結してしまうと意味がないので。いかにお客さんに分かりやすく伝えるかという役割も担っているので誰が聞いても分かるように、そしてセリフも噛めないので、滑舌が良くないといけないです(笑)
――専門用語もたくさん出てきますしね
専門用語に関しては脚本を書いたのは僕ですから、分かった上で書いているのでそれを覚えるのは難しくはないんですが、単純に発音や滑舌といった部分でミスが出来ないので、技術的な部分を求められている役だと感じています。
――渡来は好奇心のかたまりで興味対象はとことん追求する性格ですが、池田さんと共通する部分はありますか?
僕自身も色々なことに対して興味はありますし、学問が好きなんです。知識を吸収するというか、知らなかったことを知るというのがすごく好きなのでそういう部分に関しては似ているのかと思います。でも彼ほど一心不乱ではない気がします。良い塩梅です(笑)
――池田さんご自身は超能力を信じますか?
信じませんね、現段階では。その方がロマンがあるというか……オカルト的なお化けや力を入れたら波動が出てくるとかはロマンがないと思うんです。僕がそれを出来ないので。
超能力は科学的にまだ証明されていないだけで、何かしらの科学的根拠があってそこに辿り着く方がロマンがあると思っています。なぜなら全員出来ることになるから。だからそういう意味では超能力はあってほしいと思いますし、現状ではないけれど将来的に原理が解明されたら皆使えるようになるはずと思います。
――生駒里奈さんとのW主演になりますが、生駒さんの印象はいかがでしょうか?
存在感は当然ありますし、スター性もある人で、皆さんもご存じの通り国民的グループのセンターを務めていた人ですから、それだけの才能を持っている人だというのはひしひしと感じていました。今回の作品においてすごく素敵だなと思ったのは、そんな生駒さんにもかかわらず中心におぼろげなというか儚げなというか、吹いたら消えてしまいそうな危うさのようなものを持ち合わせていて、対外的に言うと力強さやパワーがあり、そこに内に秘める危うさみたいなものがちゃんと同居している人はなかなか見たことがないなと思って。そういった点が今回の役にピタッとハマりましたし、そこが彼女の魅力の一部であるのかなと感じました。
――キャストやスタッフの方々とどのように作品を作り上げていきたいですか?
キャストスタッフ含め、本当に愛してやまない人しかいない現場ですので、とにかくハッピーに楽しくやりたいです。稽古が始まる最初の日に、「このご時世厳しいことや気を遣わなければいけないところがあったり、色んな不安があったりすると思いますけど、基本的にはこの稽古場にいる間は皆が幸せで楽しいなと思えるようにしたい。そういう現場作りをします」というような話をしました。今まさにそんな感じで、和気あいあいと楽しく、誰も怒らず、楽しみながら真面目にモノづくりをしているといった感じで、ものすごく空気の良いカンパニーだと思います。

――この1年は舞台がストップしていた期間もありました。そういった時期を経て、今ステージに立つということは池田さんにとってどのような思いですか?
単純に息が出来る、みたいな感じです。水の中にずっと沈んでいると苦しくなるから、息を吸うために水面に出るわけじゃないですか。その感覚と言いますか。僕らにとって日々の生活よりも舞台に立っていたりお芝居をしている時の方が自然というか、あるべき姿のような感じがしていて。だからそのステージに立てるというのは、ずっと息を止めていたのでやっと呼吸が出来る、通常の人間活動が出来るといった意味合いが強いのかなって思います。
――この作品の見どころを教えてください
たくさんあるんですけど、まず一つ大きなのはイリュージョンという部分ですね。おそらくテレビでマジックとかご覧になることはあると思いますけど、生でイリュージョンを見る機会って滅多にないと思います。イリュージョンが上手く物語に溶け込んで、ストーリーに沿った、まるで魔法とも言える現象が次々巻き起こるので、それはぜひ楽しみにしていただきたいなと思います。
もう一つは、僕が手掛けている「エン*ゲキシリーズ」では、アクションが見どころになっていて、今回も新しいアクションを作っています。超能力者が出てきて、四次元があって、その設定を駆使しながらアクションということで、最初作っている時は頭がこんがらがりそうになったんですけど(笑)、お客様に面白いと思ってもらえるという手ごたえはすごく感じています。
あとはやっぱり舞台作品の一番の魅力はテーマとストーリーだと思います。その部分に関してはすごく突き詰めてソリッドにしていきました。元々コロナ禍以前に書いた脚本の通りではあるんですけど、自分は何をもって自分と成すのか、そういったことをこのご時世の中で色々と考えることがあると思うんですよね。やりたいことが出来なくなってしまったり、何のために生きているんだろうっていう気持ちになってしまったり、そんな人がたくさんいらっしゃると思います。僕も同じくそうでしたし。そういうことに対して、さっき言った僕がお芝居を作っている時、舞台に立っている時が呼吸をしているんだと感じるのと同じように、その人のアイデンティティというか、自分を自分たらしめる何かがあるはずで、そういうものをストーリーの中にメッセージとして込めましたので、受け取ってもらえたら嬉しいなと思います。
――1年待ってくださったお客様へメッセージはありますか?
僕も待ってました。だから会いましょう!ということですね!ぜひ会いに来てください。