――ここからは池田さんご自身についてお伺いします。これまで様々な作品に出演されていると思いますが、印象に残っている作品は?
どれも大切な作品ですね……。デビューしたての時の作品もものすごく印象に残っていますし、悔しかったこととか事細かに全て覚えています。当然自分が作る作品も全部等しく好きです。逆に傍から言われることでいえば、例えば『海賊戦隊ゴーカイジャー』を「代表作ですよね」って言われることがあって。誰かに代表作と思っていただけるのならそれが代表作なんだろうと思いますし、どのお話をすべきか……。
――その悔しかったお話を教えてください
これはですね、なかなか芸能界にいない方は知らない事情かもしれませんが「ベンチコート問題」というものがありまして。おそらくテレビや映画に出演されている方には伝わると思いますが(笑)、メインキャストではないとベンチコートを着ることが出来ないんですよ。冬の撮影の時に、主役の方や大きな役の方だと基本的に現場にマネージャーさんがいらっしゃっていて、ご自身のベンチコートを着られていて、撮影の度にマネージャーさんから受け取ったり渡したりされていて、その下のマネージャーさんが常にいらっしゃるわけではないけれど役的にメインキャストの方々は衣装さんがベンチコートを管理されています。さらにその下の端役になると、着たり脱いだりするのが現場にとってタイムロスになってしまうので、基本的には着ないという選択肢しかないんです。自分で管理することは出来ないので。
――ベンチコートを持ったまま演技は出来ないですしね
これが本当に悔しくて、作品を重ねていくにつれ徐々に役のサイズが上がってきて、初めて衣装さんにベンチコートをかけていただいた時は泣くほど感動しました。
――ちなみに、初めてベンチコートをかけていただいたのは何の作品だったんですか?
日本テレビのドラマ『斉藤さん』でした。

――最近だと『テン・ゴーカイジャー』の制作が発表され話題になりましたが、このお話を聞いた時にお気持ちはいかがでしたか?
自分にとってはホームみたいな場所で、久しぶりに実家に帰ってきたなって感覚です。でも久しぶりだとしても高揚感はないというか、10年経っているんですけど何の変化もなく、良い意味で普通で、皆と会った時に「久しぶり!!」「嬉しいね!!」っていうのは一切なかったんですよね(笑)。「おはよ~」「あ、おはよ~」って。
――10年前の延長のような感じでしょうか
地続きな感じで、スタッフさんにお会いした時もそうですけど、久しぶりだね!という感じではなく、きっとさらに10年経ってもまたこうやって会えるんだろうなって思える、居心地の良い場所です。
――ファンの方からの反響も大きかったのではないでしょうか
愛されている作品なんだなと感じましたし、ありがたかったです。僕らはこんな感じで実家に帰ったくらいの感覚でいますけど、きっと皆さんにとっては10年ぶりに見られるという高揚感がきっとあったと思います。撮影はもう済んでいるんですけど、ちゃんとご期待に添える作品になっているので安心してください、ということはお伝えしたいです。
――コロナ前と後でお仕事に対する向き合い方は変わりましたか?
より一つ一つのお仕事を丁寧に考えるようにはなりました。もちろん惰性でやっていたつもりは一切なくて、お仕事をさせていただく感謝はあったんですけど、より深くこの作品にとって自分がどういう存在になれるんだろうとか、お客様にどういう風に寄り添えばいいんだろうとか、そういう部分を改めて強く意識するようになったのかなと思います。
――コロナ禍において出来る事出来ないことが明確になったと思いますが、この1年の経験をどう生かしていきたいですか?
今のこのコロナ禍というのは仕方のないことだと思うんですよね。この状況が一生好転しない可能性も無きにしも非ずだと思いますし、生きていれば色んな変化があって然るべきだと思います。どんな状況でもその中で人は生きていかなければいけないし、生きていこうとしますし、そういうことを考えると、今出来ることをすることが、それがただ生きることであると思っています。以前のように戻ろうが、コロナ禍が好転しなかろうが、結局僕らが出来ることっていうのは決まっていて、単純に良い作品を作ってお客様に届けるということしかないので、そのやり方が変わったところで信念や核の部分は全く揺るがないですし変わらないかなと思います。
――今後挑戦したいお仕事ってありますか?
なんですかね……面白いと思ったら何でもやりたい人間なので、自分が何なのか既によく分からなくなってきているんですよ(笑)。wikipediaを見ると「俳優・声優・脚本家・演出家」と書いてありますが、それ以外で言うと例えば歌を歌わせていただいて、自分名義ではないですけどCDを出させていただいたりしていて。それから自分の作品のことに関してはプロデュース的なポジションを担わなければいけない瞬間もあります。それも仕事と言えば仕事ですし。結局面白いと思ったことを全部職業にしてみたらとんでもないことになるなと思っているんですけど、結果的に今色々な締め切りに追われている人生になっていますが(笑)
――挑戦したいことを全て叶えてきているんですね
そうですね。なんだろうやってみたいこと……映画監督とかもやってみたいなって思います。作品の作り方が全然違うと思いますので。けどそれだとあんまり今と変わらないですね。
――最後にファンの方々へのメッセージをお願いします
僕たちは生きるために一つの作品を作る行為をしております。でもその行為の結果というか出口は決まっていて、それはお客様に届けることです。そこで初めて僕らの行為が帰結するというか、意味を成すと思うんです。お客様がいなければ僕らがやっていることは何の意味もないことになってしまいますから、意味を持たせてほしいなと思いますし、お客様にとっても、受け取るということがその人の人生にとって何かしらの影響を与える時間になると思います。楽しかったな、と感じただけでも良いんです。エンターテインメントはやる側が色々考えれば良いだけで、受け取る側はただただ受け取れば良いだけだと思うんですよね。美味しいご飯を食べたり、デートしたり、そういう時ってその意味を考えないじゃないですか。そんな感じで、自然にラフに見に来ていただいて、楽しかったなって思っていただけたら嬉しいです。ぜひ楽しいなって思いに、会いに来てください。


カメラマン:秋葉巧、取材:村松千晶