――木戸さん演じる沖晴は、喜び以外の感情を失った高校生という役どころですが、沖晴をどういう人物だと解釈していましたか?
沖晴は感情が無いわけではないですが、ネガティブな感情に蓋をしている青年で、喜びだけが残っているという感情を特に前半部分は表現していかなきゃいけないということを、過去を忘れているわけではないけど、沖晴は一瞬一瞬に起こる出来事や人と何かを話すことに敏感さを持ちながら、ただ今を楽しんでいる青年なんだろうなと、最初に台本を読んだ時に思いました。特に、今回は(広瀬)アリスさん演じる京香とのやり取りも、彼女と話す時はその時間が楽しく思えている、むしろそれしか感じられない青年なのかなと思って、そういう前準備で現場に行きました。
――本編の前半では、常に笑っていなきゃいけないという、ある意味で制限がかかったお芝居だったのかと思います。演じていて意識していたことはありますか?
撮影は順撮りではなかったので、この瞬間の沖晴は五大感情の中で何を取り戻しているのか、喜びと何のミックスなのかを整理しなくてはいけないのがすごく大変でした。矢崎(仁司)監督と、嫌悪の感情を取り戻した後だったら、嫌悪の要素をどれくらい入れるのか、そこで過去の話をした時に、津波の話で悲しみを入れすぎてしまうと、取り戻しているじゃないかとなってしまうので、特に家族のことや、自分に起こった津波の出来事を京香に話す時は難しかったです。辛い過去や悲しい過去のように話せない、思っていても表出してはダメだという調整を常に意識しながら演じていました。
――辛い話を笑顔で話している時、木戸さんや沖晴の心情的には、どのように考えていましたか?
普段のお芝居で考えると、過去の辛い出来事を話している時は、悲しみがベースにあるけど、表出するものは逆のものを出す方がコントラストを出せるかな、というような表現をすることが多いです。今回の場合はそれがあまり通用しないので、基本的には主軸として持っている喜びの感情を常にベースとして、見た人が、それを話している姿が可哀想だなと思ってくれたら良いなと思って。あまりに悲しさを入れてしまうと、沖晴の場合はオーバーに伝わってしまいますし、まだ感情を取り戻す前なのに、ちょっと取り戻しちゃってるんじゃないか?と思われるのがこの役を演じる上で一番気をつけていたことなので、今回においては辛い話をしていても、少なくとも顔は笑っていて、それが見る人には辛く伝わるような狙いでいたかもしれません。


 

――感情を取り戻していく感覚は、どのようにとらえていたのでしょうか?
この映画では感情が欠落したわけではなく、奪われたという表現になっていますが、僕の中では蓋をされている感覚で、その蓋を京香にちょっとずつずらしてもらって、隙間から出てくる、みたいな感じでした。だから、蓋が閉まっていたものが内側からパンって開くというより、京香と話すことによって、自分の中でちょっとずつ蓋がずれていくようなニュアンスが伝わったら良いなと思いました。
――喜びとの切り替えに難しさを感じた感情は何かありましたか?
最初に取り戻す嫌悪は、「嫌い」に「悪」と書いて嫌悪ですが、嫌いから派生することもあるじゃないですか。怒りになったり、恐れになったりすると思いますが、あくまで嫌悪に留めておくというか、嫌悪と喜びは、気持ち悪いって思いながら、もしかしたら沖晴は蓋をしていた感情を取り戻した一発目だから喜びも少しあるのかなとか、そのミックス具合が難しかったです。
――言われてみると、簡単に言い表せない感情ですね
食べ物で嫌いなものがあったとして、もし次に目の前に出されて、嫌だなと思う中で、もしかしたらこれを出してきた人への怒りなのか、この店を選んでしまった自分への怒りなのか、それとも食べることへの恐れか、色々派生する嫌悪って意外と色んなところからきているなと思いました。


 

――矢崎監督からの演出で印象的な言葉や演出はありましたか?
基本的に、監督は「今回は木戸さんの作る沖晴くんを僕は信じます」と、全部任せてくれた部分がベースとしてありました。その上で、感情を表出する部分で、監督に客観的に見ていただいて「どうですか?悲しみが強すぎますか?」と、バランスのチューニングを委ねていた部分がありました。それで監督が「確かに僕が見てて、今は悲しさをすごく感じました」とおっしゃって、でもそれだからこうしてくれということはなく、僕に任せてくれたので、もう少し喜びの割合を多くしなきゃいけないですねと、そういう会話を現場でさせていただきました。
――信頼を寄せていただいていたんですね
沖晴の性格的な部分を生かして、スキップする感覚じゃないですけど、自分の気持ちとして、自分が演じるものを信じてもらおうというモチベーションでのびのびと演じていました。
あとは、全体を通して監督の撮った映像を見た時に、監督はすごく海を愛しているのが伝わりました。夏の海と冬の海で撮影時期を変えていて、それぐらい海にこだわっていたので、背景に海があることが多かったんですよね。そういうロケーションだったことが結果的に、沖晴がこの島でずっと育ってきたんだなと、現場で感じることができました。
――矢崎監督はどんな方でしたか?
すごくおっとりした方です。でも、真夏に撮っていたのですが、灼熱の中で絶対にハットとスーツというスタイルで、監督に「暑くないんですか?」と聞いたら、「僕はこれが映画を撮るスタイルなんだ」とおっしゃっていて、ジャケットもほとんど脱いでなかったのが、すごく素敵でした。