――まず今回『覆面系ノイズ』で“ユズ”を演じてみていかがでしたか?
ユズはひとりの女の子のことをずっと一途に想いながらも、その子が好きな人との恋愛を応援するという、自分にはあまりない感覚を教えてくれました。自分の気持ちに逆らって恋愛を応援するって高校生ではなかなか出来ないことだと思うんですけど、正直になれないながら不器用に恋をしていく姿をしっかりと作り上げていきたいなと思ったんです。あと、ユズはギタリストということで、そこも含めて説得力の持てるような役作りが出来たというのは、貴重な経験になりました。
――作中のユズはニノに対して常に優しかったですが、駅のホームでイノハリの解散告げる際、思わず声を荒げてしまうという不器用な一面もありました。ユズに対して共感出来る点はありましたか?
感情にリアリティがあるなって思っていて。「本当は好きだけど応援するしかない」という、関係を崩したくないから応援する気持ちと、相反する「俺だって好きなのに」っていう気持ちが入り混じって態度に出てしまうシーンなんかは、媚びていなくてリアリティのある感情にすごく共感できましたね。
――媚びていない?
実写化をするにあたって僕は共感軸を持てる事が大切だと思っていて。もちろんファンタジーはファンタジーでいい所があると思うんですけど、今回は少女漫画が原作ということで共感できる部分を探してから演じていかないとと思いました。実写化するって考えた時にファンタジーで終わるよりは、〝この人本当にいるな〟とかそういう視線があった方がいいと思うんです。共感軸を探した時に、世界観に媚びてないというか世界観がありつつも現実でも起こりうるようなことを探していくっていう感覚ですかね。

――音楽室でニノと再会を果たすシーンやもちろんバンドの演奏シーンといった音楽シーンが、今回見どころのひとつになってくると思います。ピアノやギターの準備期間もかなり長かったのでは?
2ヶ月くらい……、実際にバンドを組んでいるギター担当の方にマンツーマンでずっと教わっていました。ギターに触ったことがなかったので、本当に一から教えてもらいました。
――ちなみに何か楽器の経験はあるんでしょうか
小学校の時のリコーダーくらいしかないです(笑)。
――作中ではユズの“牛の乳”があったり、かなり原作に忠実な世界観が再現されていたと感じたんですが、そういう点で役作りの際に意識したことは?
ユズは小柄なので、ちょっと体を絞って小さく華奢に見えるようにしたり、髪の毛も原作に合わせて人生で一番伸ばしたんじゃないかな。あと私服のシーンが多かったんですけど、原作では描かれている部分が少なくて……。私服を組み立てるにあたって監督と相談して自分の私物を何着も持って行って実際着たりしましたね。
――高校生活のキラキラした部分がたくさん詰まった今作。ご自身の高校生活と照らし合わせると?
雲泥の差ですね。あんなキラキラしてないしあんなキラキラした高校生活を送りたかったです(笑)。僕には仕事があったのでそれに没頭できた楽しさはありましたけど、高校生活は高校生活でああやって過ごせたら楽しいんだろうなって思います。
――決していい出会い方とは言えなかった小関裕太さん演じる“モモ”と、背中合わせで演奏するシーンが印象的でした。志尊さんが思う印象に残るシーンって?
僕も、ライブであったり音楽シーンはすごく印象に残っています。でも自分の中で一番印象的だったのが、ニノにホームでガーって気持ちをぶつけた後に、泣きながら走って海に行って叫ぶシーン。撮影もひとりでしたし、僕のオールアップのシーンだったんですね。ユズは誰かに自分の感情を吐露出来るタイプじゃない。そんな中で、彼なりに選んだ選択肢の中で傷ついて、でも彼なりに前を向いて行く姿が印象的でした。自分のシーンをいうのも気持ち悪いんですけど……、そこはとても思い入れがありましたね。

――ユズは背を伸ばすために毎日牛乳を飲んでいますが、志尊さんが心がけている習慣はありますか?
「R-1」っていうヨーグルトを飲みます。腸内環境を整えるために飲んでいて、それはもうずっと続けていることかな。あと僕、朝と夜にお風呂に入らないと気が済まないんです。夜は1日の汚れを取るっていうのと、朝はスカッとした1番きれいな状態で仕事に行きたいから。
――“運命的な再会”がストーリーの肝になっていると思いますが、志尊さんが最近果たした運命的な再会があれば教えてください
うーん、人で言ったら全然連絡取ってなかった幼馴染がこの業界の裏方にいて、仕事場で再会したことですかね。連絡先ももうお互い知らないかった状態だったのでビックリです!嬉しかった!
――ここからは志尊さん自身のお話を。まずはデビューのきっかけを教えてください
街でスカウトしてもらう機会はあったんですけど、事務所に入ることにすごく抵抗があったんですね。なので、最初はヘアカタログのモデルをしていたんです。髪の毛も切ってもらえるしいいなと思って。続けていくうち楽しさも知って……、それでもまだ所属してすぐデビューするのは自分の中で怖かったこともあって、養成所のオーディションを受けました。それが今の事務所の養成所のオーディションで、そこでグランプリをいただいたのがきっかけです。
――そこまで乗り気ではなかった芸能界デビュー。この道に進む決め手となったのは何だったんでしょう
僕は中学で野球をやめたので、高校で何か没頭できるものがないか探していました。そんな時に、芸能事務所の養成所に人生の中の1年間でも通っていたっていうのはすごい経験になると思ったので、やってみようと。同期が1,000人近くいるんですけど、必死にやっていたら、事務所の方が気付いてくれて。それで勧められて受けたオーディションに受かったことが自信になりました。
――最後にファンの方に向けて作品の見どころを教えて下さい。
この作品をみていただくと、どの年代の方でも感じることがいっぱいあると思います。一歩踏み出すことの大事さ、踏み出した結果がどうであれ後悔せずに前を向いて生きていくこと、夢を追いかける姿勢……上げたらキリがないけど、メッセージ性がすごく強い作品になっていると思うんです。この作品って、セリフが少なくて、表情で考えさせる部分が多くなっているので、本当に見ていただく方によって捉え方が変わってくる。見ていただく方と一緒に作っているような作品であると思うんですね。皆さんにとって背中を押す作品になったらなという想いで、みんなで作り上げたのでとにかく一度見ていただきたいです。あと、ギター・ピアノに初挑戦なのでそこにも注目して下さい!


カメラ:関 和麻、文:水出綾香