――デビューのきっかけは?
ジュニアユースでずっとサッカーをやっていて、高校の時にオーストラリアへサッカーと語学勉強を兼ねて留学したんですが、怪我をしてしまいそこでサッカーの夢が途絶えてしまったんです。日本に帰ってきてからも、自分のやりたいことを探して、車が好きだからガソリンスタンドでバイトをしたり、レストランでウェイターやキッチンをやったり、コンビニでバイトしたり、営業みたいなことをやったり・・・、でもどうも違うなと思って。当時ヤマハというチームのゴールキーパーで森下選手という方がいたんですが、その方にずっと憧れを抱いてプロを目指したんです。だから、自分も夢を持てるような仕事をしたいと思っていてたところに、現在所属している事務所の社長を紹介して頂くことになりました。
――戸惑いはありませんでしたか?
社長に逢って最初に、「この世界は夢を持てますか?夢を与えていけますか?」と聞いたんです。そのときに社長は、「あなたの頑張り次第で出来るわよ。」と答えてくれて、それでこの世界に入ろうと決めました。でも、演技はもちろん、“芸能界”というものを全く知らなかったので、本当に何も分からない状態からのスタートでした。『役者をやるってことは、人間を演じることだよな』と思い、一時期は人間観察をずっとしていました(笑)。そんなとき、『アナザヘヴン eclipse』(テレビ朝日)のオーディションがあるということで、初めてオーディションを受けました。
――演技の経験がない中でのオーディションですよね?
台本を貰って、憶えたんですけど・・・。その後のことはあまり憶えていないんですよ。ドアを開けて入ってからの記憶がないんですよね・・・(笑)。
――相当緊張されていたんですね(笑)。合格という知らせを聞いたときはいかがでしたか?
何がなんだか分からない状況ですよ。嬉しいことは嬉しいんですが、「あぁ、合格したんだなぁ。」とフワフワした気持ちで。心が追い付いていない感じでした。

――その後も様々なお仕事をされてきていますが、辛かったことは?
現場で厳しいことを言われると落ち込むこともありますけど、時間が経ってみると自分のためになることばかりなので、辛くはないです。自分がやる仕事は全力で、やるからには何でもプラスにしていこうと思っているので、全部身になっていると思います。
――テレビや映画に出演されるようになって、お友達の反応はいかがですか?
いつもと全然変わらないですよ。でも、だんだん年をとるにつれて皆も状況が変わってきてるので、出世の話や、年収の話になったりして(笑)。そういう話をしていると「負けてらんねぇ!」と思います。
――さて、5月19日からいよいよ映画『パッチギLOVE&PEACE』が公開されますが、2200人の中から主役に大抜擢されたんですよね。
最初のオーディションを受けたあと、李プロデューサーや井筒監督とお会いする機会があり自分のプロフィールを出して説明をしたんですけど、井筒監督はこんな感じで(笑)。(腕を組み、背もたれに寄りかかる) 前回の『パッチギ!』は、バンホー役で出演していた波岡一喜さんと一緒に観に行ったんですけど、彼が劇場から出て握手を求めらているのを見て“羨ましいっ!悔しいっ!”って(笑)。だから絶対に受かりたいと思ったんです。この作品に出たいと思う自分の気持ちをどう監督に伝えればいいかと思って、もぅ必死に監督の目を見て話しました。
――その時の監督の反応は?
そのままです(笑)。ちょっと話して沈黙・・・。という感じで。その時に、「関西弁できるか? テストするから。」と言われテープと台本を貰い、そこからはずっと寝ても覚めても関西弁の勉強をしてました。“やすきよ”さんのDVDを観たり、関西の方がテレビに出ていたらそれを観たり。
――読者の方はどんなストーリーなのか気になるところだと思うんですが、簡単に教えて頂けますか?
前作の『パッチギ!』でアンソンと桃子の間に生まれたチャンスの命を守るためにアンソン一家がどう生き抜くかというところなんですけど・・・ストーリーを簡単に伝えるのが難しい作品なんですよ。在日としての葛藤や在日一世の世代も織り交ぜながら家族が一つの命を守るためにそれぞれが生き抜いていく、そんな映画です。

――主人公で在日朝鮮人のアンソン役を演じていらっしゃいますが、役作りが難しかったのでは?
台本を読んでいくうちに、“在日”ということよりも、一人の人間がどう生きたかということを考えてアンソンを演じました。
――アンソンを演じていて、自分とリンクする部分はありましたか?
アンソンはすぐ熱くなるタイプなんですけど、僕も結構熱くなるタイプなのでそこは似てますね。
――逆に似てない部分は?
似てないところ・・・。実は、まだアンソンが抜け切れていないんですよ(笑)。役から学んで、井坂俊哉を成長させて頂いているところもあるので・・・。強いて言うなら、自分には妹はいないとか、子供はいないとか、そういった状況ですね(笑)。
――撮影中、大変だったシーンはありましたか?
妹のキョンジャの事が心配で、不器用なアンソンが電話ボックスからキョンジャへ電話をするシーンがあるんですけど、丸一日掛かり大変でした。電話ボックスの上にスピーカーが設置されていて、監督の声が聞こえるようになっているんです。そのスピーカーから「キョンジャの兄ちゃんになってない!」とか、「アホ!」「ボケ!」は当たり前で(笑)。「辞めちまえ!お前はロボットか!能面かっ!」とか、あの狭いボックスの中で響くんですよ。ボックスだけじゃなくて頭の中でも鳴り響き、ずっと皆が見守っている中でフィルムの回るカタカタカタカ・・・という音だけがガラス越しに聞こえたりして。

――いい顔してますよね(笑)!やり遂げた!という表情ですよ。
開放された!本当に“ぶつかって越えていく。”みたいな顔ですよね(笑)。顔に夕日がかったてるんですけど、本当は午前中に電話ボックスのシーンを終えて、昼間にこの写真を撮る予定だったんです。現場に入ったらご飯を食べるようにしているんですけど、この日は全然食べられませんでした。ご飯がのどを通らなくて・・・。
――精神的にもきつかったんですね。
そうですね、精神的にも体力的にも大変でした。最終的には5kgくらい落ちてましたから。監督は、「えぇんちゃうの?アンソンも大変なんやから、ちょうどシンクロして。」って言われました(笑)。