――舞台『パラダイス』は元々2020年5月上演の予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となっていました。2年越しの上演が決まったと聞いた時のお気持ちはいかがでしたか
2020年に中止が決まった時は、きっともう二度とこの座組でこのお話は出来ないと思っていましたので、シアターコクーンさんもそうですし、丸山(隆平)さんも赤堀(雅秋)さんも、この作品を必ずやりたいと思ってくださったことが私はとても嬉しくて、ぜひよろしくお願いします、という気持ちでした。
――台本を読んだ感想はいかがでしたか?まだ最後まで完成していないと聞いていますが……(※取材は9月上旬)
そうなんです。だから最後のオチと言われる部分がまだ上がって来ていないので、すごい楽しみではあるんですけど……。現段階で言うと詐欺師のグループとある家族の話が混在して交互に入れ替わっていくようなストーリー展開になるのではないかなというふうに思っているんですが、普段人が人に見せないような鬱々とした部分とか、情けない部分、すごくきつい部分とか、そういうものが凝縮してこの世界観になっていると私は思っています。
――小野さんの役どころについてお伺い出来ますか?
現段階だと、元風俗嬢でおそらく借金があるのかお金に困っていて、それで紆余曲折あり、今は詐欺師のグループでテレアポの電話での詐欺を行っている女性の役です。
――電話での詐欺というと、オレオレ詐欺のような?
そうですね。それが今の時代は多様化しているらしくて、手を替え品を替え、コロナの給付金がどうとか、あとは「あなたの家族が事故を起こして、被害者のご家族に示談金を支払わなきゃいけないので今すぐ120万円をこの口座に振り込んでください」とか、オレオレ詐欺みたいなことをしているという描写がたくさん出てきます。

――稽古をしている中で、演じる時に気をつけようと思う点はありますか?
立ち稽古が始まって序盤の序盤ですので、まだ掴み切れていない部分も大いにあるんですけど、ただ、赤堀さんが色んな人を演出する上で、「今まで自分がなったことのない感情とか、そういうものが見たくて自分は演出をしてるんだ」というふうにおっしゃったことがありまして、だから今はなんとなく、自分の頭に浮かぶ既存の感情とか言動とか、そういうものに当てはめてこの役をやるのは出来るだけ避けようと思っています。とはいえ言葉で言うのは簡単ですけど、なかなか体現するのは難しい話ではありますが……。意識的に自分がよくやるような選択肢は避けてこの役を演じられたら良いなと思っています。
――小野さんと役柄で、共通する部分はありますか?
私が演じる望月道子さんは、現段階では復讐心に溢れているというか、自分を見下してきた人間をどうにかして見返してやりたい、それがたとえ詐欺だろうが何だろうが、何でも良いから成功したいんだ、要はお金がたくさん欲しいんだっていう人で、なかなか共感する部分はないんですけど、ただ、理解は出来ますね。そういう感情はあって当然というか、そういう思考回路になるのは大いに理解出来ますし、そういう人間がすごく悪い人間だとは思わないです。自分もそうだとは決して言えないですけれども、理解は出来ました。
――赤堀さんの演出はいかがですか?
赤堀さんは……怖いです(苦笑)
――どういった面で怖さを感じますか?
作家さんなので言葉を扱うお仕事をされている分、すごく効果的な言葉を知っているというか、どんな言葉がこの人にとって効果的かというのを恐らく熟知しているような感じがしていて。決して怒鳴り散らすとか暴力をふるうとか、そういう怖さでは全くないのですが、一つ一つ選択する言葉があまりにも心に刺さるような、そんな怖さです。

――ここまでの稽古の中で、赤堀さんの言葉で印象に残っているのは?
本当に発する言葉一つ一つがぶるっと身震いするような確信めいた言葉をおっしゃるんですけど、印象的だったのは「今まであなたがやってきたものは別に見たくない」という言葉です。「この役をやって新しいあなたの顔が見たいんだ」って稽古の初日ぐらいの時にそうおっしゃって、それはこの作品をやるにあたって私自身とても気をつけたいことだなと。やっぱり人ってどうしても自分の得意分野に無意識に寄りかかりがちじゃないですか。そこを許さないっていう気概を感じて、より一層気をつけようと思いました。
――小野さんにとってかなり挑戦的な舞台になりそうですね
そうだと思います。実際に稽古を行っていても、ずっとピリッとした空気が流れていて、これまで見たことない丸山さんがそこにいらっしゃったりだとか、私自身も詐欺師の役って今までやったことがないので、言ったことないようなセリフをたくさんいただいて。ですから、本当に今まで人にお見せしたことのないような感情や表情をしっかりこの舞台でお見せ出来たら良いなと思っています。